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April 11, 2008

奇天烈バッファローズ 五味康祐 『柳生武芸帳』(上巻のみ)

20080411190724なぜか時代からとっぱずれた作品ばかり扱っている読書コーナー。本日もお若い方はまず知らないであろうこんな本を。武芸者ものの大家五味康祐氏の代表作『柳生武芸帳』。とりあえず上巻だけ読み終わったのでご報告をば。

時は寛永。唐津城大広間では張り詰めた空気が漂っていた。藩の武芸師範役、山田浮月斎が藩主唐津堅高に、「自害なさりませ」と詰め寄っていたからである。その理由を浮月斎はこう述べた。「殿の企みはすでにご公儀に見破られてございます」
果たして、城内に曲者が忍び込んでいることが判明。曲者はしとめられたものの、この時より浮月斎門下の忍びのものたちと、将軍家武芸指南役、柳生一族との戦いが始まった。そして戦いの勝敗は、柳生家がひたかくしにしてきた、謎の「武芸帳」にかかっていた・・・

主要登場人物は柳生一族のみなさんと、浮月斎の弟子である多三郎・千四郎兄弟。これにわけありの浪人、神矢悠之丞や、肥前龍造寺家の再興を願う夕姫や賀源太らがからみます。
んで、「武芸帳」の争奪戦を縦糸に、ひたすら「バトル」「陰謀」「新キャラ登場」が繰り返されるという内容(笑)。五味先生という方はどうもサービス精神が旺盛な方だったようで。この小説はもともと新聞に連載されたものだったのですが、「一日一回は見せ場を作らんと!」とがんばった結果、話がすすむにつれどんどん筋がややこしくなり、どんどん登場人物も増えていくという有様。しまいにゃ先生も把握しきれなくなったようで、映画の試写を観た際、「ああ、『柳生武芸帳』ってこういう話だったんだ」と申されたとか まあいうなれば元祖『少年ジャンプ』みたいな作品ですね。

・・・・気を取り直して。上巻を読み終えて特に印象に残ったのは、主要登場人物の酷薄さでしょうか。やはり人間が書いてる以上、メインキャラにはそれなりに作者の感情が反映されるものですが、柳生の皆さんも多三郎・千四郎も恐ろしいほどに無感情であります。どいつもこいつも、本当に相手を殺ることか出し抜くことしか考えていません。「ハードボイルド」と銘打っていても意外とメロメロな作品が多い中で、このどこまでも冷徹なカラーは特筆に値します。ただ解説によりますと、中巻・下巻とすすむにつれ、連中にも次第に人間らしい感情が芽生えてくるようなのですが・・・・

さて、以前山風の記事で「隆慶一郎は山風から影響を受けたのではないか」というようなことを書きました(コチラ)が、この作品からもだいぶインスパイアされているような気がします。隆先生も柳生一族に関しては『柳生非情剣』で一通り扱われてますし、肥前鍋島藩におけるごたごたは『死ぬことと見つけたり』で、後水尾天皇の一連の事件は『吉原御免状』『花と火の帝』で題材にされております。もちろん隆先生だけでなく、後代の伝奇作家に与えた影響は計り知れないものがあるでしょう。また戦国時代の豪傑譚や武芸者たちにまつわる有名な逸話などもふんだんに紹介されていて、その手のお話が好きな方にはたまらない小説となっております。

えー、ただですね。この後さらに中巻、下巻と読み進んでいくのが筋なんでしょうけど、ちょっと自信がありません。なんでかというと、読むのにけっこう労力を要するからなんです。これはわたしが買った版が古かったからなんでしょうけど、使われいる漢字がやたらややこしい。例えば「正體」「證據」「膽力」とか。それぞれわかりやすく書くと「正体」「証拠」「胆力」だと思うんですけど、意味を考えながら読んでくと非情に時間がかかるんですね。あと解説や高野正宗さんから頂いた情報によりますと、この作品、上中下の大ボリュームでありながら結局未完なんだとか(笑)

20080411190800_2男子たるもの、一度手をつけたからには最後まで読み通したいものですが、その「最後」がないとなるとちと辛い・・・・

『柳生武芸帳』は少し前に文春文庫からも上下二分冊で復刊されています(わたしが読んだのは新潮文庫版)。こちらは漢字読みやすくなってるかもしれません。

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Comments

こんばんは。
もうねえ…ほっとんど、ストーリー憶えてないっすよ(笑)
そもそも、本自体売っちゃったし…。(←すぐ売る人)
ドラマ化されたりもしてるんですが(松方弘樹で)、未完のものでもてきとーに結末つけるというかアレンジしたみたいですね。(見てない)
私も、新潮文庫の旧字体版(笑)。自由が丘の駅前の本屋で…その本屋ももうないらしい…。
大体五味先生の本は『喪神』といい、昔は全部旧字体だったですよ。
私は旧字体好きなんで、マゾヒスティックな快感を覚えながら読むんですがね、最近の文庫は骨がないっ。しかも活字がでかくてスカスカで、無駄に紙を食って高い!回帰せよあの噛み応えある旧版に!(?)
憶えてるシーンは…確か冒頭、柳生のまだ10代の末弟の健康な歯をバリバリ抜いて入れ歯にしちゃうシーンとか…
この本で、「びっくり下谷の広徳寺」という言葉を知ったんじゃなかったかしら。
…あと、女の死体を○女かどうか調べるシーン…高校生なのにさっぱり意味がわからず。わかるようになったのはいつだったか。
それに、そもそも死んでるのにあの方法でわかるのやら…(時代劇のサービスシーン?を真面目に考えちゃいけないよー)

Posted by: 高野正宗 | April 12, 2008 07:35 PM

>高野正宗さま

いろいろ教えてくださりありがとうございましたー
映像化は東映版が9作ほど、東宝版(三船敏郎主演)が二作作られているようです
松形弘樹のはそれらに比べるとぐっと最近のやつですよね? なんか最後のほうだけ見たような記憶が・・・・

高野さんが読んだのも旧字体でしたか。「マゾヒスティック」とは言い得て妙だ(笑) これもなじんでしまえば「お好きな方にはたまらない」快感が感じられるようになってしまうのでしょうか

>10代の末弟の健康な歯をバリバリ抜いて入れ歯にしちゃうシーンとか…

ありましたね。何も歯を抜かんでも方法はあるだろうに・・・ そんな風に血眼になって陰謀をめぐらしてるんだけど、なんか感覚がどっかずれてる。そんなところがおかしくもあり、怖くもありました

>の死体を○女かどうか調べるシーン

えーと、それ上巻にありましたっけ? なんだかもう色々忘れてるよ・・・

Posted by: SGA屋伍一 | April 12, 2008 09:32 PM

あっ
件のシーンは中巻あたりかも
大井川かどっかの渡しの場面があって…えーと何かそのへん

へー 隆慶一郎も山風から…何か年代的にごっちゃになってしまうんですが、山風って結構トシですもんね(当たり前や)
>『花と火の帝』
丁度別件で読もうとしていたところ…
後水尾天皇がえっらいツワモノだという設定の作品はいくつかありますね。
私はこの作品に登場する「八瀬童子」というものにずっと興味を持っているので、リクエストして図書館にもう届いているので今度取ってきます。
あと、強い後水尾天皇シリーズだと、南原幹雄『天皇家の忍者(しのび)』がありまして、これにも八瀬童子が登場します。遷都を巡る忍者合戦です。これも近日読みます。
南原先生といえば「付き馬屋おえん」シリーズが好きで読んでるのですが、この人の『新選組情婦伝』は冒頭の話がエグくて電車を乗り過ごしてしまいました…おえー

Posted by: 高野正宗 | April 12, 2008 10:07 PM

>使われいる漢字がやたらややこしい
 そうなんですよね~
 横山光輝先生も、この作品に影響受けたかもしれませんね
 武芸帖を奪い合うところとか。

 五味先生は発想が豊だった、と思います。
寛永の御前試合も「真っ赤なウソで勝海舟辺りが作った」
と言っておりました。
 え?勝先生だったんですか?

 初めてくのいち、を出したのも五味先生らしいですし。


>映画
 松方さんのお父さん近衛さんが出ていて親子共演したみたいですね

 長い原作なので監督によって違う訳ですが
多三郎が主人公なのもあれば、十兵衛が主人公で、多三郎が
あっさり斬られてしまうのもあるらしいです
 魔界転生の原作と映画くらいちがうのでしょう

>話がすすむにつれどんどん筋がややこしくなり、どんどん登場人物も増えていくという有様
 でも昔の小説ってそういうの多くないですか?
 吉川英治、国枝士郎、両先生の作品。
あと大菩薩峠。
 例えるなら山賊と戦っていると思ったらいつのまにか大魔王と戦って
いる?みたいな
  

Posted by: 犬塚志乃 | April 12, 2008 10:36 PM

>高野正宗さま

フォローコメントありがとうございます
「隆さんが山風から影響を受けた」というのはあくまでわたしの思いつきです。すいません
でもマイナーな題材でいろいろかぶってるので、たぶんそうじゃないかなーと思うのですが
あと隆さんと山風はどっこいどっこいくらいの歳だと思います。隆さんは長年脚本家をされてた方だったのですが、いい年になってから作家デビューを果たされたのですね。そのために作品数は決して多くはなく・・・・

>八瀬童子

この単語、完璧忘れとる
たぶん鬼みたいな顔をした「岩兵衛」というキャラがそれにあたるのかな
この岩兵衛、『花の慶次』にもゲスト出演してるのですよ
あ、あと『花と火の帝』も未完です・・・・ それでも大層面白い話だと思うのですが

南原幹雄さんについてはなんも知らんので勉強になりましたm(_ _)m

Posted by: SGA屋伍一 | April 13, 2008 10:26 PM

>犬塚志乃さま

実は五味先生に関しては本書が初チャレンジで、ほかはどういうの書かれてるのかほとんど知りません
なんでもやはり柳生の剣豪もので、「最後どっちが勝ったのかわからない」斬新な短編がある、という話は聞いたことがありますが
発想も豊かですが、知識も半端じゃないな~と思いました

>松方さんのお父さん近衛さん
というのは知りませんでした~

完結してない話を映画化するのは大変ですね。アニメもそう

>でも昔の小説ってそういうの多くないですか?
 吉川英治、国枝士郎、両先生の作品。
>あと大菩薩峠

んー、そうですね。大菩薩峠に関しては賛成。読んでないけど
吉川先生もそのきらいはありますが、登場人物すべてにそれなりの決着をちゃんと用意して大団円までもっていくところは違うと思います
国枝先生に関しては他の二人ほどそんなに長い話は書いてないんじゃないかと


Posted by: SGA屋伍一 | April 13, 2008 10:43 PM

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