キッスは目でして ジャン=ドミニック ボービー 『潜水服は蝶の夢を見る』(原作)
わたしはフランス人(特に男性)が嫌いです。
彼らは自分たちが世界で一番賢くてセンスがいいと思い込んでいて、我々を「黄色いおサルさん」と差別するからです。そのくせ匂いには鈍感で、華麗な並木道を飼い犬のウンコで埋め尽くしたりしています。
しかしこの度ある一冊の本を読んで、そんな高慢ちきなフランス人のイメージを改めなければいけないな、と思いました。その本とは最近話題になった映画『潜水服は蝶の夢を見る』の原作本です。
世界的に有名なファッション雑誌『ELLE』の編集長ジャン=ドミニック・ボービー氏は、まだ働き盛りの年齢でありながら、脳出血のため片瞼しか動かせなくなる「ロックトイン・シンドローム」に侵されてしまいます。
ですがジャン氏は驚くべき事にそんな体でありながら一冊の本を著されました(どうやって書いたのかは先の文中リンクをご覧ください)。それがこの『潜水服は蝶の夢を見る』。原題はもっとシンプルで、直訳すると『潜水服と蝶』となります。
読んでみますと、当然ながら映画とは色々異なるところがあります。たとえば映画ではジャンさんが色っぽい療法士さんの胸チラを見て「ウホッ♪」と喜ぶ場面がありましたが、底本ではそんなことはどこにも書いてありません。
やっぱり当人を目の前にして「彼女の胸元にムラムラした」なんて伝えたら、セクハラ以外のなにものでもありませんからね(いや、フランス人ならやるか?)
あとお子さんの数ですが、映画では三人でしたが、実際は二人だったようです。赤の他人はともかく、ジャン氏を良く知る人・・・特にお子さんたちは、映画を観て「こんなひとちゃうよ」と言うかもしれません。そこで監督はこうやってお子さんの数を変えることにより、「これはフィクションというか、わたしの一解釈である」ということを伝えたかったんではないでしょうか。
そう、この本はまずジャン氏のお子さんたちに捧げられるべき本だと思います。あんなにかっこよかったのに、突如として物の言えない体になってしまった父。最低限のコミュニケーションはできるものの、彼が心の底で何を思っていたかなんて、わかろうはずもありません。しかしこの本を読む事により、子供たちは父が思っていた多くのこと、そして自分たちが深く愛されていたことを知ることができるでしょう。そのことは二人の子供たちにとって、なにより大きな財産になると思うので・・・・
ほかにも映画では語られなかった追憶や幻想、文字通りの夢の話なども収録されています。
ただ普通なら最初にもってくるであろうエピソード(息子とドライブ)を、終盤に配置してあったのは映画と同じでした 。というか、映画が原作に倣ったのでしょう。
ジャン氏の心の中で一番大きなヤマ場とは、たぶんあの忌まわしい日の出来事を、もう一度はっきり思い出し、そしてその現実をしっかりと認めることだったのでは・・・・と思います。
あとがきにはこんなことも書かれています。「あまりの姿に取り乱したわたしに、彼が最初に伝えた言葉はこうだった。『パニックにならないで』」「彼が愚痴をいうのを一回も聞いたことがなかった」
本当に強い男、とはこういうひとのことを言うのではないでしょうか。確かにおフランスにも尊敬に値する男はいるようです。
映画も深刻な題材を扱っていながら不思議と軽やかなお話でしたが、原作はさらに軽やかです。その上文章が短くて表現もなめらかなので、とても読みやすい。厚さのわりに値段が高いと感じられる方もいるかもしれませんが、こんな風にして書かれた本はたぶんこの世にこの一冊しかないと思いますので、できるかぎり多くの人に読んでいただきたいものです(先ごろ紹介した『動くのは瞼だけ』は、おそらく回復(!)したあとに書かれたものと思われます)
いま手元にないので正確ではありませんが、この本はたしかこう結ばれていました。
「いつかこの分厚い潜水服から抜け出して別の場所に行けるのだろうか」「行けるのなら、ぼくは行こう」
自分は死後の世界を信じていないので、ジャン氏がそこへ行った・・・とは思えません。
ですが彼が死の間際まで希望を捨てなかったことを思うと、とても慰められるのでした。
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Tracked on March 26, 2008 at 08:33 PM

Comments
コチラの作品は本当に色々考えさせられました。
みて感動ではなく、暫くこの映画の世界にひきづられたままという感じでしす
あのような状況になってもしなやかで自由な心を忘れなかったジャン・ドーの強さも勿論ですが、その彼を支えた家族の存在にもみせられてしまいました。
本当に凄い作品だったと思います。
Posted by: コブタです | March 26, 2008 at 08:25 PM
>コブタさま
こんばんは
この映画を現在までの本年度ベスト1に挙げる方も多いですよね
実は自分、予告観たときに「こんな暗い映画観たあない」と思ったのですが、皆さんの絶賛を読んで気が変わりまして(笑)
わざわざ田舎から東京まで出張って観にいったのですが、本当にそれだけの価値があった作品でした
ほんでこの原作もとてもよか本でした。コブタさんは「家族の支え」に感銘を受けられたようですけど、この本を読むと小さな娘の祈りがいかに彼の支えになっていたかがよくわかります
Posted by: SGA屋伍一 | March 26, 2008 at 09:26 PM