クイズ八人が見てました ピート・トラヴィス 『バンテージ・ポイント』
今回構成面でちょっとネタバレしております。鑑賞には問題ないと思いますが、一応ご了承ください。
テロ問題に揺れる情熱の国、スペイン。ある協定を成功に導くため、その地を(よせばいいのに)合衆国大統領が訪れる。警護チームの中には数々の死地をくぐりぬけてきたジャック・シェパード・・・によく似た人もいた。演説の会場で「こんな場所じゃ狙ってくれって言ってるようなもんですよ」とつぶやくオカダくん。果たしてその言葉のとおり事件は起きた。大統領を襲う一発の凶弾。犯人を確保しようと奔走する警護班。しかし居合わせた人の数はあまりに多く、割り出しは容易ではない。ここでジャック(に似た人)に妙案が浮かぶ。
「タイムマシンを使えばいいんだ!」
かくして犯行前の時間にタイムスリップしたジャック(に似た人)。しかし時間の復元力の故か、ジャック(に似た人)はどうしても犯行を阻止できない。その都度繰り返されるタイムスリップ。この無限ループはいつまで続くのか?
この映画のウリはなんといってもこの「巻き戻し」構成ですね。お話があるところまで進みますと、急にフィルムがキュルキュルとスタート地点に巻き戻り、また別の人物の視点から語りなおされます。それが全部で5回あるので、全6ラウンド+ロスタイム総力戦といった感じでしょうか。予告でくどいくらいに「8人、8人」と言ってますが、最後の三人は最終ラウンドでまとめて語られます。
とても短気なひとにはすすめられない作品です。なぜかって、「こっからどうなるんだーっ!」とすごく続きが気になるところで「ピタッ」とお話が止まってしまって、「じゃあまた最初からね」というのがえんえんと繰り返されるわけですから(笑)。わたしの見た劇場ではこの「巻き戻し」のたびに観客Aさんが「またかよー」と叫び、さらにそのたびに別の観客Bさんが「うるせー 静かにしてろ」とうめいておられました![]()
しかしこの巻き戻しももちろん意味なく行われるわけではなく、様々な角度から物事を見る事により、少しずつ少しずつ事件の核心にせまっていく造りになっています。例えるならタマネギの皮をむいていくようなものでしょうか。
似た手法は、ミステリー小説で時々見受けられます。歌野晶午『世界の終わり、あるいは始まり 』とか西澤保彦『七回死んだ男』とか。先日紹介したコミック『ラヴァーズ・キス』も、回数こそ少ないものの、まさにこんな構成でした。ですから、ミステリーが好きな人、じっくり考えるのが好きな人には逆におすすめです。
俳優陣でジャックのほかに目に付いたのは、ごく普通の観光客を演じるフォレスト・ウィテカ。子供からアイスクリームを押し付けられても、「代わりを買ってあげるね」などと微笑む恐ろしいほどの好人物。ですが、彼がアミン大統領だったことを忘れてはなりません。いつ「人食い」の本性を現してもおかしくはないので、これからご覧になられる方はゆめゆめ警戒を怠りませんよう。
あと巻き戻しの度に吹っ飛ばされてる大統領役の人には、心から「お疲れ様」と言ってあげたいです。
スペインというとぱっと思いつくのはフラメンコと闘牛くらいのものですが、この国はけっこうコンスタントにテロ事件がおきている国でもあります。特に2004年の連続列車爆破テロは大きな衝撃を世界に与えました。そうした背景をふまえているせいか、娯楽作品のわりには「無常感」が強く浮き出た作品となっています。ひとつの事件が解決したとて、根本的な問題はなにも解決してはいない。何度も繰り返される「巻き戻し」は、もしかしたら一向に解決しないテロ問題を象徴しているのかもしれません。それでも諦めずに丁寧に問題を見つめなおしていくならば、いつかは解決される時がくるのでしょうか。
そのスペインでは先日新政権が発足したばかり。「左派出身」で「テロ撲滅」を掲げる大統領は、その名を「サパテーロ」と言います。
・・・・・・
スペイン国民はダジャレが好きなのでしょうか。ともあれ、その「テロよりお笑いを」という姿勢には大いに共鳴したいところです。不謹慎ネタどうかご容赦。


Comments
SGA屋伍一さん、こんにちは。
>何度も繰り返される「巻き戻し」は、
>もしかしたら一向に解決しないテロ問題を象徴しているのかもしれません。
おおー!
ご自身のユルユル脱力系の絵とは裏腹に鋭いご指摘をされましたな。
おもわずたじろいでしまいましたよ。
ウィテカーの優しさには少々怪しさを感じるほどでしたね。
スワロも母親なら「結構ですっっ!!」と拒否しますよ。
Posted by: swallow tail | March 20, 2008 09:56 AM
SGA屋伍一さん☆
こんにちは〜♪
鑑賞中「またかよーっ」て言う客がいたんですか(笑)
迷惑ですね
あの巻き戻しが良かったですよね、別の角度から観られるし。そうそう
くどいくらいに8人っていってたからもっと細かく8人の視点かと思ったけど
シガニーウィーバーがあれだけって勿体ない気がしちゃいました〜。
でもさくっと90分で楽しめました♪
Posted by: mig | March 20, 2008 11:43 AM
こちらにもお邪魔しまっす。
>よせばいいのに
はは~、確かにですわ。




あの巻き戻し構成が好きじゃない人も、やっぱりいるんですかね。
私は、その都度復習できたし。何よりも面白いと思いました。
それでも90分という短い尺にまとまっているのは、なかなかいいと思いましたし。
個人的には、キャストが地味という点が好きでした。
ウィリアム・ハートの聡明な大統領というキャラクターも素敵でしたし。
シガーニーは、出番が少なくてちょっと淋しくなりました。
この作品は、予備知識なしでいきなり見る方が楽しめるのかもしれないと思ったりー
春休みに見るハリウッド大作としては、『ジャンパー』よりこちらの方をおススメしたいと思っています。
Posted by: となひょう | March 20, 2008 09:20 PM
>swallow tailさま
コメント・TBありがとうございます
せっかくいいことを書いてもこのユルユル系のギャグで全部台無しですな
わかっちゃいるけど書かずにはいられない。それがおバカのサガなのですよ
>ウィテカ
彼、怪しい役が多いですからね(笑)
でもお母さんの警戒ぶりはあまりにもあからさまで、「失礼な人だな~」とちょっと思いました
Posted by: SGA屋伍一 | March 21, 2008 08:00 AM
>migさま
コメントありがとうございます
田舎の客はガラが悪いんです(笑) とはいえあんなににぎやかだったのは『踊る大走査線 THE MOVIE』以来だったかな・・・
実はわたしも3,4回目あたりでけっこうダレてました
(そのあと持ち直しましたが)
だから「ずーっと飽きなかった」という人は尊敬してます
実はシガニー・ウィーバーが出てたことはmigさんの記事で気づいたしだい。おはずかしや・・・
Posted by: SGA屋伍一 | March 21, 2008 08:04 AM
>となひょうさま
こちらにもコメント・TBありがとうございます
アクション目当ての人が予備知識なしでいくと面食らうんじゃないかなー(笑)。上の記事のAさんのように。ただ
>私は、その都度復習できたし。何よりも面白いと思いました。
わたしの巡回先ではこういう意見のほうが多いです。さすがにみなさん映画通だけあって、腰が座ってらっしゃる
キャストはそれなりに豪華だと思いますけど、みなさん地味に演じておられるんで、見ている間はシガニー・ウィーバーとかフォレスト・ウィテカ氏とか気が付きませんでした
目が悪いよな、オイラ
Posted by: SGA屋伍一 | March 21, 2008 08:41 AM
こんにちは
)は、4回目で小さく呟きました。あとこれが4回あったら短気なので暴れるかも・・・と思いながら。
SGA屋伍一さんの所にも「またか・・・」オジさんはいましたか。こちらにもいました~
「またなの?」お姉さん(私
でも、見せ方が上手かったのか、お姉さんがミステリ好きだったのか・・・結構ハマって観ていました~♪面白かったです。
ただお姉さんはイケメンにすぐに夢中になるので、彼らの背景や人生も知りたい!!と思ったわけですよ。
『様々な角度から物事を見る事により、少しずつ少しずつ事件の核心にせまっていく』-ちなみにお姉さんは、様々な角度から鏡を見ていますが、、、あの大統領のように何度も吹っ飛ばされています
Posted by: 由香 | March 22, 2008 05:52 PM
>由香さま
いらっしゃいませ少数派(笑) ぼくたち仲間っすね!
まあ8回覚悟してたところが6回ですんだので、ちょっとほっとしたりして
ラスト2回はのめりこみましたけどね
イケメンさんたちの背景については想像するしかないですね。あの若いシークレット・サービスのあんちゃんは、無人島に漂着したこととかあったみたいですよ
>あの大統領のように何度も吹っ飛ばされています
どっから見ても完璧な美貌に、わかっちゃいるけど衝撃を受けちゃうということかな?
ああん、もう! うらやましい!
Posted by: SGA屋伍一 | March 22, 2008 09:45 PM
こんばんわ。
私、今まで行った海外の中で一番好きな国はスペインでございます。
貧富の差も激しいし、スリやひったくりもかなりタチが悪い危険な国
ではございますが・・・まあ、今はどこに行っても危ないですからね(苦)。
スペインでは、世界最古の闘牛場で牛のマネをして
走り回った思い出があります。楽しかったなー。
ウィテカーは、アミン効果ですっかり悪人カテゴリーに入る俳優さんと
化してしまいましたね(苦笑)。まっさきに彼が怪しいと思ってしまった私
ですが・・・それって偏見でしょうか(汗)?
Posted by: 睦月 | March 23, 2008 08:23 PM
>睦月さま
おばんです
睦月さんは実際にスペイン行ったことがあるんだ。羨ましいなあ
治安はあんましよくないようですね。映画でも思ったけど、こうアグレッシブというか、血の気のありあまっているような人たちが多いんでしょうか
>世界最古の闘牛場で牛のマネをして
走り回った思い出があります。
さすが睦月さん! おれたちができないことを平然とやってのける!
そこにしびれる! あこがれるゥ!!
あとウィテカさんはわたくし目が悪いせいか、スタッフロールを見るまで彼だと気づきませんでした
でも彼の演技がうますぎるのも問題あると思います
Posted by: SGA屋伍一 | March 24, 2008 07:33 PM