芸術は告発だ! ピーター・グリーナウェイ 『レンブラントの夜警』
あっ また30代以上にしかわかんないネタふっちゃった
アート志向のピーター・グリーナウェイが、レンブラントの名作『夜警』を独自の解釈で表現した映画です。
舞台は17世紀のオランダ。財産も名声も絶頂期だったレンブラントは、市警団から集団肖像画の注文を受けます。折りしも彼らに関するスキャンダルを耳にしたレンブラントは、気の進まない仕事だったことも手伝って、市警団の非道を絵の中に隠して伝えようと企むのですが・・・・
グリーナウェイ氏に関しては「『枕草子』を映画化したことがあり、その中でユアン・マクレガーが体中に漢字を書かれて、死後皮をはがされてインテリアにされた」という極めて偏った情報しか知らず、なんとなく「突き抜けたセンスの人なんだなあ」という印象でした。
果たして幕が上がるや否や、石立鉄男か佐藤蛾次郎かというオッサンが、全裸でプラプラさせながら(失礼)、板の間でのた打ち回ってるじゃあーりませんか。
(こ、これがうわさに聞く「グリーナウェイ節」か!?)
わたしの脊髄を戦慄が駆け抜けていきました。
ただ、ときおりそういうハイテンションな描写もあるものの、基本的にはレンブラントと『夜警』に関するエピソードをメインに、周囲のはかなげな女性たちの物語をからめながら映画は進んでいきます。
当時のレンブラントは、どことなく現代の「売れっ子漫画家」に通ずるものがあるな、と感じました。「たくさんの弟子・助手を抱えたプロダクション・システム」「才覚と幸運に恵まれて、一躍時代の寵児となり、多くの富と名声を得る」「基本的にはどんな依頼も受ける。ただしギャラはがっちり頂く」・・・・そういったところが。そしてその栄光は実はかなり不安定で、得意先の機嫌を損ねたり、社会問題を引き起こしたりしてしまえば、あっけなく崩れ去ってしまうものである・・・というところも。
そしてその没落のきっかけとなった『夜警』どんな絵かと申しますと
(←クリックしてください)ジャンル的には「集団肖像画」というものになるそうで。早い話がカメラが発明される前の「集合写真」のようなものでしょうか。被写体というかモデルになる人々は、正装できりりとした姿で、みな顔がはっきりとわかるように、できるだけ均等に描かれるのが通例でした。
ところがレンブラントは何を思ったのか思いっきり自分流に突っ走ってしまい、モデルにへんてこなポーズを取らせるは、市警たちのサイズにばらつきがあるわ、関係ない少女をやけに目立たせて描くわ、しまいに絵の中にこっそり○○まで紛れ込ませている始末。これでは市警団が「団の面目丸つぶれだ!」と怒るのも無理ないでしょう そんなことをすれば評判が悪くなって自分が苦しくなるのはわかりそうなものなのに・・・・
いったいなんでわざわざ彼はそんな絵を描いたのでしょう。栄光に目がくらんで自分の力を過信していたのか。
・・・・あるいは、このまま滅びてもかまわない、と考えていたのか。
ネットで「難解だ」という意見を幾つか見ました。しかし大筋はそんなに難しいもんではないと思います。
要するに反骨心というか、腹の底にいろんなむしゃくしゃしたものを抱えていた男が、それを御しきれずに破滅していく・・・・そんな話ですよね。とりあえずわたしはそう解釈しました。むしゃくしゃしたものとは、救えなかった妻への思いとか、いけすかない町の有力者たちへの不満とか、あるいは身体を脅かすある障害とか。
それらに立ち向かうべく、たたきつけるように描きあげたその絵は、しかし作者を光から影に追いやっていってしまいます。なんとも皮肉かつロマンチックな話でありますね。
ただ聞いた話によりますと、レンブラント氏はその後も没落しながらも、元気に画業に励んだり、別の問題を引き起こしていたりしたそうです。この一点だけをとっても、この映画は「史実を忠実に追った」とは言いがたく、かなりグリーナウェイ氏の美意識に彩られたもののようです。しかしたまには他の人の妄想に付き合ってみるのも楽しいもの。それにその「妄想」の中にも、何がしかの真実が含まれているかもしれませんしね。
わたしとしては実際のところは「ただ普通に描くんじゃオモロないから、思いっきりアートに走って遊んでやれ!」というのが真相なのでは、と思ってます。ただ『夜警』に関してはほかにも色々不可解なところがあったり、その後も何度か災難にあっていたりするので、もしかしてやっぱり呪われてるのかもしれません
(その辺の詳細はコチラhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9C%E8%AD%A6_%28%E7%B5%B5%E7%94%BB%29)
全国を順次回っていくとのことですが、メイン会場である新宿はテアトルタイムズスクエアでは、来週の金曜までで終了の予定。ご興味おありでまだ行けてない方は、どうぞお早めに。
Comments
こんばんは~
最後の絵、なかなかお上手ですね!レンブラントの自画像・・・
いや、レンブラントの自画像風のSGAさんの自画像だったりして!?
調子に乗ってフザケて書いた、というので、どれだけフザケているのかなぁ~と思ったのですが、
全然フザケてないじゃないですか~。ちゃんと色々と書いて下さったのですね。
これ、結構評判悪かったんですよね・・・(悲)
ところで、太陽の塔(岡本太郎?)が30代以上、というのはなんでですか~?
Posted by: とらねこ | February 24, 2008 12:30 AM
こんにちは。
ゲイジツはバクハツだって、ワカモノは知らないんですかねー?
サミシー。
岡本太郎の立体作品はかなり好きなのですよ。
うちからの徒歩圏内に、岡本っちの美術館がありますし。
マーティン・フリーマンは71年生まれですのよ。
オッサン、中年扱いせんといてほしいです。(笑)
いやとにかく、グリーナウェイの芸術家魂を感じる映画でしたよねー。
TB二回送ってしまいました。すみませんー
Posted by: かえる | February 24, 2008 11:32 AM
>とらねこさま
お返しのコメント・TBありがとうございます
イラストお褒めいただき恐縮です
これは一応ウィキペディアに出ていた自画像を参考にいっしょおけんめえかきました
映画では怒ってるシーンが多かったですけど、この自画像ではなんとも優しい目元をされてますね
>全然フザケてないじゃないですか~
いや~ その、冒頭の、その・・・・
ま、いっか
「評判悪い」とのことですが、わたしがよく行く幾つかのブログではおおむね好評でしたよ。完成度より映像美を求める人の感性にあうみたいですね
>太陽の塔
爆発した芸術のわかりやすいシンボルということで
愛・地球博でひっそりと「月の塔」とやらが立っていたのには笑いました
Posted by: SGA屋伍一 | February 24, 2008 07:04 PM
>かえるさま
お返しのコメント・TBありがとうございました
TBの件、お気になさらず。とりあえず一個消しときました
>ゲイジツはバクハツだって、ワカモノは知らないんですかねー?
だって調べてみましたら、これ1981年のCMで話題になった言葉ですもん
幼心に衝撃でしたねー あれは
もしやと思ってyoutubeで検索かけてみたらありました
http://www.youtube.com/watch?v=VMIUwSia8Z0
すごいよyoutube
岡本っちの立体作品というと、ほかは『宇宙人東京に現る』のパイラ星人くらいしか知らないなあ。太陽の塔がやけに目立っている作品としては、名作の誉れ高い『クレヨンしんちゃん モーレツ!オトナ帝国の逆襲』がありますね
>オッサン、中年扱いせんといてほしいです
なんと、たった二コ上であったか
でもあのたるんだお腹とマニアックな趣味は、もう堂々たる中年の風格ですよ。『銀河ヒッチハイクガイド』でも終始くたびれた感じでしたしね
Posted by: SGA屋伍一 | February 24, 2008 07:15 PM
こんばんは☆
タイムズスクエアは画面が私には大きすぎるんですよ。
というか、グリーナウェイの過去作品は知らないのに、もっとちっこいこじんまりとしたスクリーンの方が合ってそうだなって思うのでして;
夜警は大きいスクリーンで見る事が出来たのは嬉しいのですけどね;
確かにそんなに小難しい作品ではないですよね。凄く単純で凄く俗っぽくて凄く舞台風味。でも舞台なら舞台として臨場感を得たい私としては、
映画なら映画らしいもっとアートでぶっとんだ表現が欲しかったなあというのが本音かもしれませぬ;でもこれはこれで結構気に入ってます。
とにかく芸術はバクハツするのだ。爆
Posted by: シャーロット | February 25, 2008 12:50 AM
>シャーロットさま
お返しのコメント・TBありがとうございます
わたしは田舎者なので、タイムズスクエアに入ったとき「ミニシアターなのに全然ミニじゃない! でかい!」と感心しまくりでした
でも前の方は確かにみづらそうですね。わたしが観たときは、お客さんが後ろ半分にきれいにかたまってました。
>舞台風味
なるほど。言われてみればそのまま戯曲に移し変えても、ほとんど違和感がないような。
ただ舞台でやるならば、例の全裸シーンをどう処理するかが問題です
>映画らしいもっとアートでぶっとんだ表現が欲しかったなあ
最近の作品で、一番映像表現でぶっとんでた作品というと、わたしの場合『パフューム』ですかね
あとアニメですけど『レミーのおいしいレストラン』『新エヴァ』『ペルセポリス』などもがんばっていたと思います
>とにかく芸術はバクハツするのだ
もしかしてシャーロットさんもピアノを弾くときは、某芸術家のように荒々しく髪を振り乱して演奏されるのでしょうか
・・・・それはちょっと見てみたい
Posted by: SGA屋伍一 | February 25, 2008 07:51 PM
こんにちは。
TB&コメントありがとうございます。
>石立鉄男か佐藤蛾次郎
もうこの部分で再起不能なくらいに大笑いしてしまったんですけどー





何か懐かしくて。
マーティン・フリーマンは、どこか愛敬を感じる雰囲気があるなと思っていたのですが。
レンブラントという実在の人物なのに、彼が演じることによって距離感を余り感じずに鑑賞することができたような気もします。
女性がヌードになるよりも、彼がボカシなしで挑んだ気骨の方が凄いと思いました。
でも実は途中で失神しちゃったんですよねー
シッカリと起きていても、2~3回見てやっと入っていけるという感じの作品だった気がして
でも、音楽や雰囲気は好みでした。
グリーナウェイって未見のものも結構ありますけど。
何となく「よぉし、見るぞぉ」という積極性がまだ出てこないです
Posted by: となひょう | February 26, 2008 11:05 PM
>となひょうさま
お返しのコメント・TBありがとうございます
そちらでもレス付けてもらったみたいなんですけど、なんでか表示されないんですよね・・・ なぜ?
>>石立鉄男か佐藤蛾次郎
パパイヤ鈴木も考えたのですが、さすがに彼よりはもう少しひきしまってるかな、と
かえるさんとこで教えてもらったんですが、マーティン・フリーマンは『銀河ヒッチハイクガイド』で主演をやってた人だったんですね
あちらではあまりの事態の急変についていけなくて、ガウンを羽織ったままずーっとボーっとしてる役でした
今回はその役とはだいぶ違いますけど、となひょうさんのおっしゃるように等身大で親しみやすい、という点では一緒だな、と思いました
>実は途中で失神しちゃったんですよね
ははは
わたしはわざわざ時間かけて観に来てたので、しっかと気合入れて見てましたよ
この映画見ようと思ったきっかけは、この時代のヨーロッパの市井の雰囲気が好きだからなんですよね。その点では十分堪能させてもらいました
Posted by: SGA屋伍一 | February 27, 2008 01:06 PM