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January 11, 2008

鎌倉ラブストーリー 吉田秋生 『ラヴァーズ・キス』

20080111135948昨年マンガベストに挙げた作品をポツポツ紹介していこうかと思います。

コメやトラバがつかずとも そんなの関係ねえ そんなの関係ねえ(でもちょっと寂しい)

まず最初は少女漫画部門のこの作品から。つっても、わたしが昨年読んだ少女漫画っつったらコレと『ガラかめ』くらいですけどねー
『BANANA FISH』で知られる吉田秋生が95年から96年にかけて発表した連作短編(になるのか?)。全六話ですけど、ほぼ三部構成になっております。

舞台は春から夏にかけての鎌倉。高校二年生の川奈里伽子は、親の前ではいい子のフリをしつつも、夜な夜な街を遊び歩くチョイ悪系の少女。そんな夜遊び明けの海岸で、里伽子は同級生のサーファー・藤井 朋章と出くわす。朋章は男前ではあるが、色々悪いうわさがあるせいか、学校ではみなから敬遠されていた。その時の笑顔が印象に残ったのか、里伽子は朋章に「つきあってみない?」と持ちかけてみるのだが・・・・ 
これが第一部(1・2話)のストーリー。第二部(3・4話)では朋章の後輩の鷺沢の視点から、第三部(5・6話)では里伽子の妹の依里子の視点からお話が語られます。

吉田先生で初めて読んだ作品は冒頭でも挙げた『BANANA FISH』。少女誌に連載されていたというのに、恐ろしいほど女性が出てこず、男性作家顔負けのハードボイルドなストーリーが展開。そんなところにひかれて、続刊をまだかまだかとまちわびつつ、最終巻までつきあったのでした。

その間に『吉祥天女』、そのあとに『YASHA』も読んだものの、この『ラヴァーズ・キス』には手が出ませんでした。なぜかというと、アクションもCIAもヤクザも出てこない、「普通の恋愛を描いている」という紹介を読んだからです。
たしか『BANANA』連載中に吉田先生は「自分があまりに近いところにいたせいか、普通の恋愛ものは描こうと思わない」とおっしゃってたと思ったんですが。「気が変っちゃったんだろうなあ。でもこういうのを描く作家は山ほどいる! あなたのやるべきことではなかろう!」と、偉そげに思ったものでした。

んで昨年ブックオフをうろついていたらこの作品を発見。ほかにめぼしいブツもなく値段も手ごろだったし、わたしも少しは大人になった(笑)ので、ダメもとで読んでみることにいたしました。
一読して驚きました。そりゃ題材こそ「恋愛もの」ですが、構成面でとても面白い実験がなされていたからです。あと「普通」というよりちょいと「変」な恋も描かれてます。
どういう構成かと申しますと、このマンガでは第一部・第二部・第三部それぞれで、ほぼ同じ時間の出来事が扱われております。
ので、第一部を読んだときにはわからなかった裏の事情が、二部・三部と読み進むとわかるようになっているんですね。
例えば第一部で鷺沢と彼の後輩の「オオサカ」が、なんとも微妙な表情で朋章・里伽子を見送る場面があるのですが、なぜ彼らがその場にいたのか? その表情が何を意味するのか? ということは第二部まで読むと明らかにされます。また同様に第一部で「オオサカ」が唐突に里伽子の教室に乗り込んできて、「藤井さん、学校やめはるみたいですよ」と言い出す場面があるのですが、彼がなぜそんな行動を取ったのかも、三部まで読み進めればわかるようになっております。
そして全ての事情が明らかになったうえで、また冒頭から読んでいくと、多くのキャラの多くの言動が、初読の時とはずいぶん違って見えてくるんですねえ。じつに心にくいコンセプトと申しましょう。
こういうスタイルの作品、ほかでも色々あったような気がするんですが、とりあえず今のところ思い出せるものが『木更津キャッツアイ』くらいしかないのがツライ・・・ どなたか知っていたら教えていただけると嬉しいです。

もちろん構成だけではなく、登場するメインキャラのひとりひとりに、深い魅力があります。おぞましい過去を持ちながらも、すりガラスのような透明感を有しているところは、他の吉田作品となんら変るところがありません。
わたしが気に入ったのは、脇役ながら朋章を暖かく見守る酒屋のオヤジ(というのはまだ気の毒か)。終盤初めてあらいざらい心情を告白する朋章に、実にいいことを言ってくれます。こういう「いいオヤジ」が描ける女性作家というのは、極めて稀なんじゃないでしょうか。
実に十年以上前の作品なのに、「現代が舞台」と言われてもほとんど違和感がないほどに、古びていないことも衝撃です。

20080111145325記事を書くにあたり調べていたら、このコミック、2003年に映画化されていたことを知りました。宮崎あおい、市川実日子 、 成宮寛貴とそうそうたるキャストが名を連ねておりますが、なぜかまったく記憶がない。なんでだろう。

そうそう、なぜ読む気になったかもう一つ理由がありました。このお話が現在刊行中の『海街diary』とリンクしているという情報を聞いたからでした。タイトルを越えてリンクする、そういう仕掛けにわたし弱いんです。
だもんで『海街diary』の方もぜひ読んでみたいものですが、三十男が「小学館フラワーコミックス」をレジに持っていくのは、なかなか勇気がいるのでした。ワレに勇気を。

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Comments

SGAさん最近ますますイラストがお上手になっている気がします。
吉田秋生さんの絵のタッチにそっくり!

いちおう女子のくせに、なぜか少女マンガ(特に恋愛もの)が苦手なため、
吉田秋生さんの作品は「BANANAFISH」と「YASHA」しか読んでませんでしたが、
もう十分オトナになったしSGAさんのおすすめだし、そろそろ読んでみてもいいのかもしれません・・・
映画化されてるの私も知らなかったなぁ〜
映画も昔は恋愛ものってダメだったんです。
いつの日からかキャッキャ言いながら観られるようになったけど。

>「小学館フラワーコミックス」をレジに持っていくのは、なかなか勇気がいる

えぇ〜できますよ〜SGAさんなら。頑張って♡(←無責任)

Posted by: kenko | January 11, 2008 11:43 PM

やったー♪ コメントついたー♪

kenkoさん、いつもどうもありがとう(ToT)

>なぜか少女マンガ(特に恋愛もの)が苦手なため

渋いぜ・・・・ 姉さん!(あ、年下だったか)
でもそういう人、たまーにいますよ

>そろそろ読んでみてもいいのかもしれません・・・

ぜひどうぞー。単なる「恋愛もの」というだけでなく、「傷ついた魂の救済の物語(気障な言い方だ・・・)」でもあるんですね。そういうところは『YANANA』や『BASHA』と一緒・・・ ちゃうちゃう、『BANASHA』と『YABA』・・・あれ?

映画のほうもちょっと観てみたくもありますが、あの見事な構成がちゃんと生かされてるのか疑問です
ちなみにわたしの好きな恋愛映画は『メリーに首ったけ』(これこれ)

>>「小学館フラワーコミックス」

考えてみりゃ『BANANA』だってこのレーベルだったけど、装丁がいかしてたんで、あまり気にはならなかったなあ
『のだめ』も五巻まではがんばったのだが・・・・ そろそろまた勇気を奮い起こすか・・・

Posted by: SGA屋伍一 | January 12, 2008 01:02 PM

お?鉛筆描きは初めてじゃないですか?
(今までにありましたっけ?)
吉田秋生さんの繊細な線を表現したかったのですね。
ギャグはないですが、意図はわかります。

『海街diary』買うの、そんなに勇気がいるかなぁ。
『のだめ』だって、電車の中でスーツ姿のオジサマが大勢読んでますよ?
大丈夫!!『ラヴァーズ・キス』を買えたんですから、もう恥ずかしいことなんてないですよ!!

Posted by: シュウ | January 12, 2008 10:29 PM

映画は…スルーしとくことをオススメしときます。
しかし初コメが山風じゃなくて少女マンガなのかよ俺(笑

Posted by: | January 13, 2008 12:34 AM

>シュウさま

おばんです。お返事遅れてすいません

>吉田秋生さんの繊細な線を表現したかったのですね。

そういうことですね。文中でリンクしてある『BANANA FISH』の記事を見ていただけると、サインペンでの限界がわかってもらえるかと。それとも単に画力の限界か

>『ラヴァーズ・キス』を買えたんですから、もう恥ずかしいことなんてないですよ!!

いや・・・ 文庫版はそれはもう落ち着いた装丁で、そんなに勇気いらなかったんですがね
でもオジサマたちだってがんばって「のだめ」読んでるんだから、オレも負けてらんないな、という気になってきました

>ギャグはないですが

ああっ 本分を忘れていた! はんせー・・・

Posted by: SGA屋伍一 | January 13, 2008 10:20 PM

>謎の山風ファンさま

>映画は…スルーしとくことをオススメしときます。

情報ありがとうございます
宮崎あおいの依里子ちゃんも、ちょっと見てみたい気もしますが

ええと、「山田風太郎 天保」でいらっしゃったようですね。『天保忍法帖』のことが知りたかったのでしょうか

Posted by: SGA屋伍一 | January 13, 2008 10:23 PM

SGA屋さんてば相変らず大量に、観たり読んだりされてますねぇ…スゴイ才能だと思います(^・ω・^ )/

>朋章を暖かく見守る酒屋のオヤジ

「家業の酒屋を継ぐ決心をつけたきっかけ」の、ちょこっとエピソードがユルくて好きです。わたくしも自分を偽らず生きてみたい…
つってね。嘘はおとなの必需品!いえ、悪いことには嘘使わないようにしてますよ、極力。

Posted by: ほーりぃ | June 03, 2008 12:51 PM

>ほーりぃさま

おおっ!! お久しぶり!!
元気でした? うれしーなあ

才能というか・・・ 皆さんよりちょいとヒマがあって、他の人のフンドシでコスプレしてるだけですよー お恥ずかしい・・・

酒屋のオヤジ・・・というにはやっぱまだ気の毒かな
「受験の日インフルエンザ」とか「うっかりいい点とってしめられそうになった」とか、涙なくしては読めませんね(笑)
一方で朋章にびしっとかっこいいこと言ったりする

実は『海街diary』もすでに読みました。これまたいいお話ですなー

Posted by: SGA屋伍一 | June 03, 2008 09:46 PM

>元気でした? うれしーなあ

ハイ元気です。しょっぱい世の中ですが、何とか沈没せずふらふら浮き漂ってます。うれしがって頂けて非常にうれしーですホホホ

>他の人のフンドシでコスプレしてる

どないなってるんですか、それ(笑) 豊ノ島?稀勢の里のコスプレですかしら(技名:ボケ重ね)

>『海街diary』

そんなん出てるの知らなかったですー(T_T)/~~~去年、近隣の書店がたて続けに閉鎖したおかげで情報に疎くなっとるんです
一時期は週刊少年マ○ジンさえ買えない状況で…いやぁ死ぬかと思いましたよ
週末にでも探しに行ってきます。

Posted by: ほーりぃ | June 04, 2008 01:41 PM

>ほーりぃさま

元気でなにより。元気があればなんでもできる!そうです(笑)

>>他の人のフンドシでコスプレしてる

あまり深い意味はないでごわす!!
本当なら「相撲を取る」と書くべきなんですが、そんなご立派なものではないので
一丁前にマワシをつけて横綱になった気でいる、そんなところでしょうか
どすこいどすこい!

>海街diary

調べられましたか? まあ『ラヴァーズ・キス』と世界観を同じとする吉田先生の新作ですね。まだ1巻しか出てないはず。『ラヴァー~』の前日談のはずなのに、なぜか時代はより最近に見えるという不思議(笑)
でもとっても心のあたたまる、いいマンガです。おすすめ

Posted by: SGA屋伍一 | June 04, 2008 08:38 PM

海街diary第1巻、読みました

いやぁ家族って本当、良いもんですね…(水野晴郎さんを偲んで。格別な映画ファンでもなく、特に水野さんファンでもない私ですが、やはり寂しく感じます)
ひとくちに家族といっても様ざまありますし、『海街diary』の登場人物たちも悩みの種は沢山抱えてますが、香田さん家はとても素敵に描かれていると思います。私もあそこに混ざりたい。でもきっと何かやらかして、シャチ姉にこっぴどく叱られそうな気がする

Posted by: ほーりぃ | June 12, 2008 12:43 PM

>ほーりぃさま

「いやあ、映画って・・・」は「サイナラ、サイナラ」と並ぶキメぜりふだったのに・・・

それはともかく、ご覧になられましたか。『海街diary』
香田さんちはいいですよね。物語に出てくる四姉妹ってなんかエレガンスな雰囲気がありますけど、彼女らはとってもガラっぱちで(笑)
わたしの場合「混ぜて♪」というとたたき出されそうなので、せめて梅酒を一杯でもご馳走になれたらなーと

すずちゃんがたまに見せる年相応の子供っぽい表情に、もらい泣きしながら読みました

Posted by: SGA屋伍一 | June 12, 2008 10:03 PM

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