山田風太郎に関しては色々言わせてもらいたい その21 『地の果ての獄』
今日は雪の中の半泣きでお仕事をしておりました・・・・
だからというわけでもないですが、久々の(・・・・)山風コーナー、『地の果ての獄』をお送りします。一番最近出たのはちくま文庫の上下本ですが、例によって品切れです。すいません。
明治19年、極寒の地、蝦夷へ向かう船の中に、一人の勇壮たる青年の姿があった。彼の名は有馬四郎助。「益満」という呪われた一族の出であったゆえに、故郷薩摩での出世に限界を感じた有馬は、全てを一からやりなおすため、北海道は樺戸集治監(ま、刑務所です)の看守募集に応じたのだった。
果たしてそこで彼を待ち受けていたのは、どこまでも広がる大平原、自然の猛威、人を斬る事に快感を見出す上司・騎西銅十郎、笑顔を絶やさぬ教誨師・原胤昭、変人としか言いようのない医師・独休庵、そして海千山千の凶状持ちたち・・・・
後にクリスチャンとなり「愛の典獄」と呼ばれた有馬四郎助。その青春が、山風独自の虚実入り交ざった語り口で描かれます。
北海道というと、みなさんはどういうものを連想されますか? 大抵は「大自然」「銀世界」「カニ」「旭山動物園」「白い恋人」・・・・こんなとこではなかろうかと
しかし明治中ごろではまだまだインフラ整備もままならず、豪雪地帯ということもあり、シベリアや南極とさほど変わらぬような土地柄だったようです。まさにタイトルにあるような「極寒地獄」であったわけで。
しかも舞台は刑務所周辺。当然出てくる人物も半分以上は看守か囚人。明治政府は囚人たちを労働力としか考えてないので、ムチャクチャハードな仕事をさせる上に、死んでも「どうせ囚人だし」という認識。いやでも「暗い」「寒い」「ひもじい」どん底のイメージをかき立てられます。
しかしこれが不思議なほどに明るいムードの作品でして。理由としては刑務所ものにしては野外のシーンがほとんどを占めていること、そして登場するキャラクター・・・有馬や原胤昭、独休庵、「五寸釘の寅吉」、「牢屋小僧」・・・があまりにもエネルギーに満ち溢れていて、「人間ってたくましいなあ」ということを強く感じさせるからだと思います。特に有馬くんの素朴で青年らしいまっすぐな性格には、多くの人が好感を抱くことでしょう。
他作品との関連キーワードとしては「細谷十太夫(『警視庁草紙』)」「加波山事件(『幻燈辻馬車』)」などがありますが、やはり『明治十字架』の主人公・原胤昭が重要な役どころで登場していることがあげられるでしょう。
ちゃきちゃきの江戸っ子だった『十字架』の彼とくらべ、なんだかとっても礼儀正しくなってしまった感がないでもないですが、ここは人格的に丸くなったとみてあげるべきでしょうか。もっとも権威に対しても一歩も譲らない反骨精神はそのままです(書かれたのはこっちが先ですけどね(^^;))。
そしてもう一人、回想で語れられる「益満休之助」という男。幕末「御用盗」として江戸を震え上がらせ、西郷のダークサイドをになった人物です。彼については文春ネスコから出ている『飛騨忍法帖』でけっこう詳しく語られております。西郷さんの暗部について早くから着目していた点でも、山風はすごいな、と思います。
これほど魅力にあふれた作品にも関わらず、山風本人の評価は「B」。たぶん他の「明治もの」に比べてフィクション部分の割合がかなり多いことと、終盤思い切ったファンタジックな展開を用いたためかと思われます。しかし意外な人物が意外なところですれ違う「明治もの」の醍醐味は健在ですし、何より「明治中期の北海道」という題材が、山風作品の中でも異彩を放っております。決して他の「明治もの」に劣るものではない!ということを声を大にして申し上げたい。
この作品、読むのは二度目になります。最初の時は気にもとめなかったのですが、今回巻末のその後の有馬氏の経略を読んだ際、不覚にも鼻水が「ツスー」と垂れ流れてしまいました。
読むたびに新たな発見がある山田風太郎作品。今年はもっと気合入れて読まないとな~
Comments
実は山田風太郎はSGA様や高野様ほどハマれてはいません。
甲賀~の10対10、魔界転生の剣豪大集合VS十兵衛。
シチュエーションは面白そうですが、読むとイマイチなんです。
あと、あの年代の人にしては、なんか女々しいところがあるように
思えるのは、戦争に行きたくても行けなかった不満等から来るのでしょ
うか。
あと、どうしても山田風太郎がハマれない理由は頭のいい人独特の
イヤミさが感じられるからです。
医学の知識とかすごいですね、でも何かついていけません。
ストーリーも、もう少し優しくったっていいじゃないか、
甘くったっていいじゃないか。
SGA様はそういう知識とかに注目している訳ではないのでしょうが。
そちらは、雪が降りましたか。
SGA様がどんな仕事をしているかは知りませんが
寒い中お仕事ご苦労様です。
Posted by: 犬塚志乃 | January 24, 2008 07:18 PM
>犬塚志乃さま
一部不適切かと思える箇所があったので、勝手ながら該当部分だけ削除させていただきました どうぞご了承ください
結論から申しますと好みも感じ方も、ひとそれぞれかと
吉川英治、司馬遼太郎、山岡荘八といったお暦々に比べて、たしかに山風は(女々しいというより)リリカルだし、(イヤミというより)皮肉っぽく、悲観的だとは思います
後者に関して言うならば、悲惨な体験をしているゆえに、あるいはリアリストであるゆえに、「信じたいのだけれど、信じきれない」そんな悩みが作品から伝わってくるような気がします
それでも「優しい」「甘い」部分だってしっかりとあります。それは『甲賀』にしろこの『地の果ての獄』にせよ同様かと
>頭のいい人独特の
イヤミさが感じられるからです。
これに関してはわたしはまったく感じません。確かに驚くほどの博覧強記ですが、それを自慢しているのではなく、「こういう風にも考えられるんだ」「こんなこともあったかもしれない」と知識というオモチャをいじって遊んでいるように感じられます
だからわたしは山風作品が好きなんです
>寒い中お仕事ご苦労様です。
お気遣いありがとうございます
Posted by: SGA屋伍一 | January 25, 2008 09:07 AM
どうも不適切な部分を書いて申し訳ありませんでした。
ティンガ・トンガ星のバルダー人に対する描写が不味かったの
でしょうか?
もしかして評論家のムアディブ星人のジュー・ジュー・カテリコさん
への偏見まるだしの文章に嫌悪感を覚えたのでしょうか?
そうですね。170年前のラ・ムール戦役が残した傷痕はいまだ
深く根付いているのに軽率なことをしてしまいました。
すいませんでした。
残念ながら私はリリカルの意味がわかりませんw
「リリカルなのは」は知っておりますが。
なので検索をしましたら、やはり最初にリリカルなのは、が
来ます。
どうもリリカルとは抒情的という意味ですが、それも検索しました。
甘い感傷。とか世界が主観に収まる事。
そう言われますとSGAさまの、皮肉っぽい、
信じたいけど信じられない、というのがわかりました。
これはライトノベルの主人公タイプの1形態なんですよ。
捻じれているけれど、心のどこかでまだ人を信じる部分がある、
「優しい」「甘い」な部分もある、
MなところもあればSなところもありますがw
つまり山田風太郎は 「空の境界」の様なライトノベルの先駆けの
存在なんですね。
だからアニメ化もするのですね。
「リリカルなのは」ってけっこう人気あるんですよね。
「大きく振りかぶって」「グレンラガン」「らきすた」
と並んでDVDの売り上げが1万5000くらいでした。
像の背中、ハンニバルライジング、東京タワーとオカン
同じくらいと考えるとアニメも結構頑張っているんですね。
Posted by: 犬塚志乃 | January 26, 2008 11:50 AM
>犬塚志乃さま
ご理解いただけたようで感謝します。こちらで何かを批判されるときは、なるたけ慎重にお願いします。ネットというものはどこでどなたが見ておられるかわかりませんので。もちろん、わたし自身も気をつけねばならないことですが
山風とオタク、確かに似てるところがあるかもしれません
以前庵野秀明氏が、「自分たちは戦争も安保もなにもない空虚な世代」ということをおっしゃってました。山風も戦争に実際に参加できなかったゆえに、置き去りにされた、という思いをずっと抱き続けていたようです
萌え系アニメの方はとんとよくわかりませんが、その辺の若い世代にも普通に愛されてるところに山風のすごさを感じます。ライトノベルの書き手では上遠野浩平氏がファンだったと思いました
Posted by: SGA屋伍一 | January 26, 2008 08:27 PM
ども。以前は失礼しました、名無しです。
白黒草子をど忘れしまして旧題でぐぐったついでに見つけたというオチですw
さてはて、山風ファンの作家といえば菊地ひどゆき氏を忘れてはなりません。つまり、山風→ひどゆき→きのこという流れだったりするわけで。「オタクの好むネタなんて、どこまでも循環しつつ煮詰まっていくのがお約束」なんて自嘲が昔どっかのラノベにありましたが。
追記 ラバーズ・キスの宮崎あおいは結構いいです。でもなあ、妹属性キャラなのはわかるんだけどなあ…2・3年製作遅らせて(ぉぃ)お姉ちゃん役ふるべきだったと思うんですよ。映画製作時に、お姉ちゃん役にはまった女優がいなかったことはわかるんですけどねえ…
Posted by: 白黒草子(仮) | January 27, 2008 09:16 PM
>白黒草子(仮)さま
ようこそ。はじめまして・・・ではないのか(笑)
>菊池ひどゆき氏
わたしも作品よりさきにこの人が絶賛してた文章を読んだクチです。たしか『魔界都市ブルース』の秋せつらの能力(糸で切断する)は忍法帖のある忍者からヒントを得たとか
あとことあるごとに『忍者月影抄』を推してますよね
>オタクの好むネタ
十対十のトーナメントとか「人気剣豪、夢の対決!」なんてそれはもう・・・ あと『風来』のヒロインってツンデレもいいとこ
>2・3年製作遅らせて(ぉぃ)お姉ちゃん役ふるべきだったと思うんですよ
いや、それはどうかな(笑)。実は先ほど『篤姫』を見てたんですが、今でも十分子供顔なんで(^^;)
お姉ちゃんは平山あやでしたっけ。確かにそぐわないですねー
またいつでもお越しください。では!
Posted by: SGA屋伍一 | January 28, 2008 12:45 AM
久しぶりついでにこちらでも。
ちくま文庫の明治小説全集はエド以外は読み終えました。最後が「明治十手架」でしたので、「地の果ての獄」を思い出しつつ読んだ覚えがあります。もう、1年以上前。
それにしても「エドの舞踏会」だけがどこにもない。古本が高い。そうそう、暮れに名古屋の御園座で舞台でやってました。見に行きたかったけど、暇がなくていけずに終わった。
Posted by: kakakai | January 30, 2008 10:24 PM
>kakakaiさま
こちらにもどうぞ。『地の果ての獄』と『明治十字架』うまくつながったでしょうか。わたしはなかなか原さんが一致しなくて(笑) あと『十字架』読みながら「あの華族のお嬢様は結局ふられたんだな・・・」なんて思ったり
わたしは長編は『明治波濤歌』以外全部読みました(でも『波濤歌』って短編集でしたっけ)。『波濤歌』はもたもたしてるうちに品切れになってしまって・・・ 歯がゆい
>「エドの舞踏会」だけがどこにもない。
舞台化くらいじゃ再販かからないんですね・・・ こちらもとても読み応えあるんですが。あのオムニバス形式の物語をどうやって一本化したのだろう?
Posted by: SGA屋伍一 | January 31, 2008 08:03 AM