おいでよ、怪物の森 ギレルモ・デル・トロ 『パンズ・ラビリンス』
時はスペインの内戦時代。少女オフェリアは再婚した母に連れられて、義父のいる紛争地域へと向かう。義父のビダル将軍はおおよそ温かみのない不気味な男だったが、少女は幻想的な近隣の森に遊ぶことで慰めを得る。政府軍とゲリラとの戦闘が激しさを増す中、オフェリアは森に住むパンと出会う。そして自分が地の底にある国の王女であったことを知らされるのだが・・・・
パンとはもちろんブレッドのことではなく、ギリシア神話に出てくる羊飼い&羊の群れを監視する神。精力絶倫で知られ、その魔力でもって乙女をだまくらかし、乱交パーティーに誘い込むというとんでもねえ野郎です。幸か不幸か映画ではその手の描写はありませんでしたけど。
監督ギレルモ・デル・トロはこれまで『ミミック』『ブレイド2』『ヘルボーイ』などをてがけておられます。いかにもB級アメコミ作家というラインナップ。ところがこの『パンズラ』で、世界で名だたる賞の数々を獲得することになり、批評家連からも一目置かれるようになりました。すごいニャ、トロちゃん! 大出世ニャ!! でも次の作品はまた『ヘルボーイ』だそうです(笑)
この映画って昨年やってた『ナルニア国物語』と、コンセプトは大体いっしょだと思うんです。ところが『ナルニア』が玄人筋からは概ね酷評もしくはスルーなのに対し、『パンズラ』はほとんどの人が大絶賛。『ナルニア』も好きなわたしとしてはその辺合点がいかなかったりもします。そこで両者の違いをちょいと考えてみました。
『ナルニア』になくて『パンズラ』にあるもの。それはズバリ・・・・そう! 「サド趣味」です!
・・・・あー、ちょっと待って。そうじゃないな。近い気はするけど。えーとーえーと。
わかりました。『パンズラ』は他のファンタジー映画と比べ、現実部分のパートがやたら長いのです。普通ファンタジー映画の現実部分って、せいぜい導入部くらじゃないですか。それが『パンズラ』では空想(オフェリア)と現実(ビダル周辺)の比率が3:7くらいで、あっちの世界へ行ったかと思ったら、すぐにこちらへ話が帰ってきてしまう。最初っから最後までお伽の世界を堪能しようと思ってたかたは、軽くあてがはずれるんじゃないでしょうか。
しかしそうした形を取ることで、おのずと浮かび上がってくるものがあります。ひとつは「なぜ人は夢を見る・・・空想するのか」ということ。それはぶっちゃけ現実が辛いからです。人は厳しい状況の中でも、空想を働かせている時だけは苦役から開放されるものです。古今の多くの語り部たちがそうであったように。同種の要素は『ナルニア』でもあったかもしれませんが、あくまで隠し味程度にとどめられておりました。
もうひとつは「お話の怪物なんかより、生の人間の方が断然怖い」ということ。特にこの話に出てくるビダルさん。この人は相当に怖い。文字通り「痛い」ことを次から次へといろいろやらかしてくれます。ぜひ『ラストキング・オブ・スコットランド』のアミンさんと対戦してほしいです。
『パンズラ』が高く評価されているのは、美術的なセンスもさることながら、こうした普遍的な真理をファンタジーの形を通してズバッと描き出してみせたからでしょう。
『ナルニア』のほかにも思い出した話があります。それは『ヘルボーイ』第一短編集『縛られた棺』に収録されている「地の底のクリスマス」という作品。
田舎町に越してきた娘アニーは、夢見がちなところをその地に棲んでいた魔物に利用され、地の底の宮殿へと連れ去られてしまう。彼女の母の頼みを受け、ヘルボーイはアニーを探しに行くが・・・
全てが終ったあと、燃え盛る屋敷を見上げ、さびしげに立ち尽くすヘルボーイ。その姿がなんとも叙情的な好短編ですが、残念ながら現在品切れ中。小プロさん、『ヘルボ2』公開の折には今度こそ再版よろしくお願いいいたします(こればっかし)。
Comments
トロちゃん、『ヘルボ2』も楽しみにしてるニャ!
>精力絶倫で知られ、その魔力でもって乙女をだまくらかし、乱交パーティーに誘い込む
えぇ~~パンってそんなんだったんすか。ちょっとしたショックです。
あ、でもそういや『ベルセルク』でパンに良く似た風貌のバケモンが
乱交パーティーしてるシーンがあったような・・・
この映画のサド趣味、私でもけっこうキツイのとかありましたけど
SGAさんは大丈夫でしたかしら。
ほんとアミンと対決してみてほしいほどでしたけど、
アミンと違ってビダル大尉のことは最後に少しだけかわいそうと思いました。
Posted by: kenko | November 05, 2007 09:26 PM
こんばんは★
とうとう『パンズラ』UPしましたね!
パンツをズラ代わりに、かぶりながらの執筆はいかがでしたでしょうか?
私のような若輩者には、ついつい『パンラビ』と略したくなってしまうところでありますが・・・
>精力絶倫で知られ、その魔力でもって乙女をだまくらかし、乱交パーティーに誘い込む
ギリシア神話でこうした祝祭を行ったのは、牧神パンというより、デュオニュソスの方が有名ですね。
ただ、牧神が山の神であったのもあり、時々この二者は混同して描かれることもあるようですが。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%B3_%28%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%82%A2%E7%A5%9E%E8%A9%B1%29
やっぱり“乱交パーティ”と言ったらデュオニュソスですよ~。
いっつも妙な女性をはべらかしていらっしゃったようです。
Posted by: とらねこ | November 05, 2007 11:13 PM
>kenkoさま
こちらにもコメントありがとうございます
「パン」に関してはちょいと悪ノリで書いたところもありますが、確かむかーしのホラー小説『パンの大神』にそんな記述があったと思いました
まあオフィリアは年齢から言って興味の対象にならなかったのか。でも「ナルニア」でもパンは幼女と縁があったんだよな・・・
>SGAさんは大丈夫でしたかしら。
大変でした(笑)。特に捕虜をいびっているあたりとか
ビダル氏に関してはまったく同情いたしませんが、自分で自分の○をお裁縫しているところだけは不覚にも尊敬しそうになりました
Posted by: SGA屋伍一 | November 06, 2007 07:45 AM
>とらねこさま
こちらにもコメントありがとうございます
>パンツをズラ代わりに、かぶりながらの執筆はいかがでしたでしょうか?
いや、なかなか思考が刺激されてエキサイティングでした。クセになりそうです。どうしてくれるんですか
>デュオニュソス
解説もありがとうございます。まあギリシアの神々というのはどいつもこいつも好き物ぞろいですが、やっぱり極めつけはこの方でしょうか
わたしなんかはむしろローマVer.の「酒の神バッカス」という名の方が馴染み深かったりします
映画の内容と関係ないあたりで盛り上がってるのが、なんかウチらしいな(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | November 06, 2007 07:53 AM
こんにちわ。
SGA屋さんは『パンズラ』と略すんですね(笑)
私の場合は『パンラビ』。
≫ぜひ『ラストキング・オブ・スコットランド』のアミンさんと
対戦してほしいです。
予想としてはアミンのTKO勝ちじゃないかと(爆笑)。
でも、あんな大量に薬を盛られても、オフェリエをあそこまで追い回す
ことが出来る大佐のスタミナと強靭な肉体・・・・うーん。
・・・・ここは思い切って、亀田の勝ち!
Posted by: 睦月 | November 06, 2007 11:09 AM
>睦月さま
そちらは『パンラビ』ですか。女の子らしいかわいい言い方ですね
それにひきかえ『パンズラ』ってちょっとオヤジっぽい言い方ですよね
「メルセデス、今日のご飯はなんズラ?」
「今日はパンズラよ。オフィリア」
このネタm○xiでもやったんですが、、みなさんドン引きされたのかみなさん何にも反応してくれませんでした(でもまた書くオレ)
>亀田の勝ち!
このオチは読めん(笑) まあたしかにあいつらは何でもアリだからなー
Posted by: SGA屋伍一 | November 06, 2007 06:10 PM
SGA屋伍一さん☆
こんにちは、ショッカーにいそう、ですね☆ほんと。
(笑)
『ナルニア』はわたしも好きなんですよー
こちらのダーークな感じもすごく好みでした☆
あ、わたしサドではないですけどね♪
TBコメントいつもありがとうございます♪
Posted by: mig | November 07, 2007 11:45 AM
>migさま
>ショッカーにいそう、ですね☆
怖いというよりどことなく滑稽なところがね
ビダル大尉もファンファン大佐くらいユーモアがあったら良かったんですが・・・
『ナルニア』お好きでしたか。あんまりよく言われない作品なので嬉しいです
>TBコメントいつもありがとうございます♪
こちらこそいつもお忙しい中、お返しのコメント&TBありがとうございます~
Posted by: SGA屋伍一 | November 07, 2007 06:36 PM
こんにちわ。
TB&コメントありがとうございました。
私も、とらねこさんや睦月さんと一緒で『パンラビ』かも。
『パンズラ』って、何か他のものを連想してしまいました。(どちらかと言うとムッツリ・スケベみたいです)
パンって、本当は強烈なキャラクターだったんですね。
そう言えば、オフェリアがメルセデスに「パンに遭った」と話してしまう場面がありましたが。メルセデスは「パンは恐ろしいのよ」と諭していた記憶が・・・
今更ながら、オフェリアが空想の世界に逃避していることがわかる意味深な場面だったのかもしれないですね。
Posted by: となひょう | November 08, 2007 09:02 PM
>となひょうさま
こちらにもコメント&TBありがとうございます
>(どちらかと言うとムッツリ・スケベみたいです)
・・・・・・
見透かされてる?(^^;)
今回「パン」が用いられたのは、きっとこのキャラクターが「食わせモノ」みたいな一面を持っているからでは、と考えています
最初は低姿勢だったくせに、急に高圧的になるところなんて、現実の詐欺師にもありがちな傾向ですしね(笑) まあ最終的にはいいヤツだったみたいですが
Posted by: SGA屋伍一 | November 09, 2007 07:46 AM
ビダル将軍は皆の幸せのために、
国のために尽くした真の英雄。
そう、、、彼の思いを、してくれたことを…
ボクらは忘れてはいけない。
(小林よしの○風)
こうすれば肯定できるんですかね?
こう書けば誰でも良い人になります。
なんかブームみたいなので便乗しました。
そうするとみんな良い人になるのかしら?
Posted by: 犬塚志乃 | November 09, 2007 11:39 PM
>犬塚志乃さま
ゴー○ニズムの人の本はほとんど読んでないのでなんとも
たしかにビダル将軍も自分の理想に忠実だっただけなのかもしれません
ですが、しょせんサドはサドです
Posted by: SGA屋伍一 | November 10, 2007 07:57 AM
>しょせんサドはサドです
もちろん、そうです。
私はこういった人は戦争中には必要かもしれないけれど
終戦を迎えたらどう始末するか?考える必要があると
思っています。
>2ちゃ●ねる風
おてがらビダル将軍!万引きした少年を捕獲、説得する。
ビダル将軍、福祉に寄付を公約(一銭も寄付していない)
ビダル将軍激怒!レジスタンスがゴミを分別して出さない
事にお怒りの言葉!
肯定の仕方が無理やりじゃないの?
とか、そんなに良い人になりたい?なのも多いですね。
>ハンニバル・レクター(ギャスパー・ウリエルくん版)
ハンニバル「ビダル将軍は暗殺、拷問、粛清、密告の推奨、
あらゆる人種言葉宗教を巧みに操り互いに争わせた。以上の事を
全て実行した。こういう輩がいるからボクら家族が被害に会うんだ。
弱者が、抵抗力のない者が迷惑するんだ」
私もナルニアとは比較しました。
ナルニアも戦争から疎開するシーンから始まりますよね。
ルーシーとオフェリア少女の想像力(?)で話が広がるところも
似ていますね。
この絵オフェリアにそっくりですが上手ですね♪
デルトロ監督、悪趣味の裏には純粋なファンタジー愛があるのでしょう
ね。化け物好きなら良い風に描いて当たり前ですが。
実はオフェリアにも萌えていたと思います。
あとカルメン母さんみたいな人もいいなぁ、と萌え萌えだったと
思います。
Posted by: 犬塚志乃 | November 15, 2007 08:14 PM
>犬塚志乃さま
>>しょせんサドはサドです
とノリで書いてしまいましたが、やはり差別はよくないかもしれません。サドな人たちもわたしたちと変らない人間だと認めてあげるべきでしょう。でもそばにはきてほしくないです(差別)
>ナルニアとの比較
異世界への導き手がパン(フォーン)であるところや、「実はあなたは女王様(王女様)だったんですよ」というところも一緒ですね
イラストは少し実物よりふっくらしてしまったかもしれません。ハウス名作劇場の主人公のイメージが入ってしまったようです
>オフェリア萌え
いろんな衣装着せたりドロだらけにしたり可哀相な目にあわせたりとやりたい放題でした。バッケイロちゃん、お疲れ様
Posted by: SGA屋伍一 | November 16, 2007 08:10 AM
あとメルセデスが意外に活躍しましたよね。
もっと出番少ないとか悲惨な目に会うんじゃあ?とか心配
していました。
「パンラビ」を見たら奥さんや娘、女性、には優しくした方が
後々良いと思いました。
実際パートのおばちゃんとか、正社員より本当に働きますし。
将来、私も大尉になるかもしれませんし、悪名が付いてまわるかも
しれません。
もし奥さん、娘に冷たくしていて、奥さんがレジスタンスのジャンヌ・
ダルクみたいになった時、捕まって私は悲惨な最期を迎えたくありま
せんので。
「あなたの罪は、、、、家族に冷たかったことよ!あなたには生身の
体より冷たい鉛玉の方がお似合いよ!!」
「頼む、お願いだ許してくれ!君が今でも好きだ!大好きだ!!」
「本当に?」「ウソじゃない!!」
もう必死ですねw
Posted by: 犬塚志乃 | November 21, 2007 10:20 PM
>メルセデス
たぶんこの名は『モンテ・クリスト』からとったんじゃないか、と勝手に憶測してます。敵方に身をゆだねざるを得ない立場が似てるなあと
>「パンラビ」を見たら奥さんや娘、女性、には優しくした方が
後々良いと思いました。
それも大変もっともですが、わたしとしてはむしろ「女だからといって甘くみちゃいかん」ということを学びました
メルさんがナイフを構えるシーンでは、思わず「志村! うしろうしろ!」と言ってやりたくなりますね
友人が病院で働いてますが、家族を顧てこなかった人には、ほとんど誰も見舞いに来ないそうです。やっぱり家族は大事にせなあかんですね
Posted by: SGA屋伍一 | November 23, 2007 08:46 PM
SGA屋伍一さん、おはようございます。
12月も残すところわずかですが、大掃除はなさってますか?
ちなみにスワロは全くやっておりません!
絵がいい味出していらっしゃる!
伍一さんのお手製ですか?
今はやりの切れやすそうなパンに、昼ドラに出てきそうな雰囲気のオフェリア。
イイ!!
ところで、『ナル二ア第一章』はあまりワクワクしなかったスワロですが、
来年、第二章が公開されるようですね。
カスピアン役がなかなかイイ男ですな。
Posted by: swallow tail | December 20, 2007 07:55 AM
>swallow tailさま
おはようございます。お返しのコメントありがとうございました
>大掃除はなさってますか?
すでに諦めました。もはや手の施しようの無い状態です
人間、あきらめが肝心ですよね!(笑)
>絵
ほめてくださってありがとうございます。ブログの個性を出すべくちょこまかと描いております。恥もかいております
今年『大日本人』を観たとき思ったんですけど、「個性がありゃいい」ってもんでもないようですね・・・
>昼ドラに出てきそうな雰囲気のオフェリア
昼ドラでやるとするならタイトルは『誘惑の迷宮』とかになるのかなあ。いかにもだ(笑)
>『ナル二ア第一章』はあまりワクワクしなかったスワロですが
上にも書きましたがあんまり誉めてる人いないですね
でもわたしはシャアの声で喋るキツネがかっこよかったので、それでOKです。
そうです。オタクです
Posted by: SGA屋伍一 | December 20, 2007 08:22 AM
伍一くん☆
うわー、コメいっぱい!
さすが、伍一君人気者。ん?この映画が凄いの?
最後「ヘルボーイ」の話になっちゃってるよ。(笑)
この映画とヘルボーイの大きな違いは、切なさがあるかないかじゃないかなー?
この切ないラストが高い評価を得た部分だよね。
大人のファンタジーならではだね。
Posted by: ノルウェーまだ~む | March 13, 2012 10:58 PM
>まだ~むさん
こんばんはー
いやー、このころはけっこうブログの営業がんばってたんですよ。あらためてふりかえってみると、チラホラブログやめちゃった方の名前があってちょっぴりさびしいですね・・・
ヘルボーイはねえ、原作にはけっこう叙情的で切ないエピソードが多いんですよー だのに映画の方はなんだかドタバタ活劇みたいになっちゃって。まあそっちはそっちでけっこう面白かったりするんですが
Posted by: SGA屋伍一 | March 14, 2012 09:55 PM
こんばんは。遅ればせながらパンズラも見ました!
でもパンズラって略称いいですねw昔のバカゲーで「とんでもクライシス」(=とんクラ)ってのがありましたが、そんな感じで一気に脱力感が・・・w
苦しい時には物語!というのは神話や宗教(ユダヤ教とか)の成立過程もそんな感じがしますよね。すっごい原始的で普遍的なテーマを描いていたのかもしれません。
とりあえずパンくんは乱痴気パーティの前に鼻水吹いてください(^_^;)
Posted by: 田代剛大 | August 23, 2013 10:14 PM
>田代剛大さん
こんにちは。パンズラ、われながらよくできた略語だと自負しております。こう書くと映画の悲劇性も若干薄まって慰められるような…
子供や昔の時代は苦しいときは物語の中に逃げ込むことができましたが、現代社会の大人はそれすらも厳しいですよね。それでも妄想に逃げ込む人もいるでしょうけど(^^;
鼻水といえばパンズラとパシリムには鼻血が垂れてるシーンが印象的でありました…
Posted by: SGA屋伍一 | August 26, 2013 09:17 AM