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October 10, 2007

うつし世は夢野久作② 『爆弾太平記』

20071010173910先日は現代教養文庫の『爆弾太平記』に収録された『犬神博士』について語りましたが、今回は表題作について解説するといたします。みなさんはダイナマイトはお好きですか? 男と生まれたからには一回ぶっとばしてみたいもんですけど、これはそのダイナマイトにまつわるお話。

作品が発表されたのが昭和8年ということなので、たぶん舞台はそのくらいの年代。冒険心あふれる水産系の技師・轟(とどろき)は、当時日本の領土であった朝鮮に渡り、新たな漁場を幾つも開発。本土から困窮していた漁師たちを呼び寄せ、彼らから大いにありがたがられる。ところがこの新たな漁場に、「ダイナマイト漁」を行なう無法の輩が現われはじめた。
ダイナマイト漁とは着火したダイナマイトを魚群の真ん中に放り込み、気絶した魚をすくい集めるという乱暴極まりない漁法。手間がかからない上に魚は取り放題なので、半端じゃなくもうかるが、これをやると当分そのエリアにお魚たちが近寄らなくなるため、近隣の漁師たちがこうむる迷惑は測り知れない。
轟はこの漁を行なう者たちを駆逐しようと奮闘するが、彼らの後ろには驚くべき者たちが控えていた。

この短編、まず初めに目に付くのは「△△府」とか「××浦」といったたくさんの伏せ字。ややこしくてちょっとげんなりするんですけど、根気よく読んでいきますと、地名に関してはどうやら朝鮮半島のそれらしいことがわかってきます。どうしようもない物はともかく、適当に架空の地名でもひねくればよかったのに、と思いましたが、こうすることでリアリティを深めることが狙いだったのか。あるいは当時としてもこの方面の話題はデリケートなものだったのか。

夢野さんのお父さんは朝鮮の開発にも深く関っていたそうで、当然このお話も実際の事件に材を得て書かれたものと思われます。わたしは当時「ダイナマイト漁」なんてものがあったことを初めて知ったので、この機会にと思ってちょいと検索してみたんですが、これ、今でも東南アジアあたりでは「比較的日常的に行なわれている」そうです。うっかりタイミングをまちがえて船ごと大爆発、なんていうシャレにならない事件も時々あるとか。
いつの時代にも「儲かりさえすりゃ後のことは関係ない&危なくたって構わない」という人間はいるんですね・・・・

作品の方に話を戻しますと、やる気まんまんの轟技師のキャラクターと語り口がまことに痛快。爆弾を取り締まる側の人間の名が「とどろき」というのはちょっと笑えますけど。さらに轟を助ける友吉という荒くれ男がまた面白い。この友吉、もともとはダイナマイト漁に携わっていた者だったんですが、死に瀕していたところを轟に助けられ、以後彼の手足となって働くようになります。例えるなら鬼平とその密偵みたいなもんでしょうか。

巨悪にもひるまず戦いを挑む轟でしたが、いつしか彼らの奸計にはまってしまいます。その時友吉のとった行動とは・・・・ ラストでは夢野作品らしからぬ、さわやかな感動がわたしたちを包みます(笑)。ただ扱ってる場所が場所だけに、向こうの人が読んだら気を悪くすることは間違いないでしょう。
幸か不幸か比較的入手しやすいちくま文庫版の全集でも、この話が収録された巻は絶賛品切れ中。「ぜひ読んでみたい」という人はとりあえず近所の図書館とかあたってみてください。わたしが学生のころは三一書房版の全集なんか、けっこういろんなところに置いてあったものですけど。

この現代教養文庫版にはもう一編『冗談に殺す』という小編も収録されています。紛れも無い探偵小説でありながら、トリックなどは一切なく、異常心理のみに焦点が当てられたいかにも夢野久作らしいお話。乱歩の『目羅博士』と似ているような・・・・似てないような(笑)

20071010173932夢野作品は『ドグラ・マグラ』に感銘を受けて幾つか短編を読み漁ったことがありましたが、今では『瓶詰の地獄』と『氷の果て』以外は全て忘却の彼方です(笑) 自分でもまた図書館で探してみようかしらん。

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Comments

こんばんみ。

夢野久作はねー…
彼も、まともに関わると忙しくなっちゃう作家ですよね~(笑)
短い人生の癖に、本人が、或いは本人はそんな気なくても、存在そのものが蛸足配線のよーに広がっちゃってますから。
言い換えれば、本人には関係ないところで、色んなものを結びつけちゃっているので作家の域を超えた存在というか。

手始めに乱歩。
>乱歩の『目羅博士』と似ているような・・・・似てないような(笑)
乱歩が見出した作家は何人もおりますが、この夢野っちの場合、「押絵の奇蹟」を呼んだ乱歩は自分の「押絵と旅する男」をゴミ箱にポイしようとしたそうです。危うく乱歩の歴史を変えるところだったぞ~

>三一書房版の全集
私も最初に夢野作品をまとめて読んだのはこの全集で、大学の図書館にあったですね。
ただその後、三一書房自体が給料の不払い問題でモメたりして(笑)、そりゃ夢野全集だもんなーなんて1人で思ってましたが、関係ないか。
あの黒い表紙がいいですね。古いものだしテキストの異同もあるでしょうが、もし私に書庫を与えられでもすれば、夢野作品を持つならやっぱりあの全集にするでしょうねえ。
先日、読み返すかどうかもわからないのにブックオフの100均で『ドグラ・マグラ』を上下体裁違いの文庫で買いました。むなしい
元々は、貴重な1冊本(どこの出版社だったか)を先輩に貸したら返って来なかったのが悪いんです(涙)

全集には必ず小説以外の、エッセイなどの巻があるわけですが、この全集でも、エッセイや周辺事情の巻がちょっとネタになりましたねえ。
夢野っちの父親は九州の大物右翼結社・玄洋社社長。何かそのからみで、日清戦争前に清国海軍の艦隊が確か長崎に示威行動としてやってきて、色町で現地日本人と揉め事を起こした、ってことが書いてあったのです。何かどんどん作家とは離れていくやんか、ですが、卒論と修論のテーマが清国海軍だったので、ちょっとこのくだりを利用しました。
ま、この程度で、「ちょっとはネタが稼げた」って思ったんですから、薄っぺらい論文ですわな。

その、長崎にデモンストレーションにやってきた清国海軍の水兵が、艦砲に洗濯物を干しているのを見て、「清国海軍も大したことねぇな」と看破した…のが、東郷平八郎だ、というエピソードが。これも、この全集に載っていたんじゃなかったかなあ。
でもこの頃平八っつぁんは、まだそんなに偉くなかったはずなんですけどね。
だからどうも、後付けのエピソードじゃないかっていう疑いも。
これも確か卒論か修論に、清国海軍のたるみっぷりの例として引用したおぼえがあります。
まあ文学の世界もネタにするという浅ましい話で

でまあその玄洋社っていうのと、右翼の大物の頭山満と、一次彼に庇護されていた川島芳子とか、もうとにかく繋がるわ繋がるわ…
で、今でも九州の右翼団体と、某有名力士(現有名親方)が、奥さんを通じて深い関係が(以下自粛!)

そうそう、佐賀の乱とも確か父ちゃんは関係あったはず…

夢野っちの人生自体は短いんですが、かように、彼をつきつめていくとそのバックボーンの余りの広さ即ち興味深さにはまっていくわけです

…で、久作氏の息子さんは、今、農場をなさっていたはず。
どこかの国の緑化運動とか、色々頑張っていらっしゃるらしいですね。

前にもどこかにコメントしたかもしれませんが、私は、初めて読んだ「死後の恋」でその奔放な文章でやられました。
あとは「押絵の奇蹟」、そして『ドグラ・マグラ』、もうとにかく、SGA851様もかつて読みふけったであろう短編全部いいですね。
あ、やっぱ「瓶詰の地獄」かな。

Posted by: 高野正宗 | October 10, 2007 at 11:40 PM

>高野正宗さま

詳しい解説ありがとうございます。そういえば高野さんが夢野さんには詳しかったですよね。こないだ『興味と妄想』で記事探したんですけど、なぜかうまく見つかりませんでした・・・・(←バカ)

>背景

については前になんかで読んだことあるはずなんですが、まったく記憶になく(笑)、今回あらためて政治的に関わりの多い家系で育ったということを認識しました。紹介した二作品はともかく他にはまったく政治色を感じなかったので、意外でした。筆名といい夢の世界に漂っているような印象があったものですから。お父さんとはやっぱり色々確執があったのでしょうか

>乱歩

「押絵」に関してはコンプレックスがあったんですね。へ~
確か『ドグラマグラ』については「よくわからん」とコメントしてなかったかな?
乱歩さんをはじめとするあの時代の探偵作家たちが無邪気な姿勢で創作に臨んでいたのに対し、夢野さんは本当に「内なる衝動」に駆られて作品を書いていたのではないかな・・・・と勝手に思ってます

>ドグラマグラ

体裁の違う上下本・・・・だったら角川かな? かたっぽえぐい表紙じゃないですか? ちくま・創元・教養はみんな一冊で出してますね
これって『ローズマリーの赤ちゃん』と並んでもっとも胎教によくない小説じゃないでしょうか(笑) ともあれ、読むたびに新たな発見がある稀有な作品の一つです

>三一書房の全集

表はかっこよかったけど、表紙をめくると何かグロい絵が入っていたような

Posted by: SGA屋伍一 | October 11, 2007 at 07:59 AM

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