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September 08, 2007

うつし世は夢野久作①? 『犬神博士』

最近ムダに更新をがんばっているSGA屋伍一です。のっけからなんですけど、みなさん、「現代教養文庫」って知ってます? 堅苦しい名前とは裏腹に、地味ながら面白そうな名作をいろいろと刊行してくれたレーベルでした。しかし版元の社会思想社が2002年に倒産したため、この文庫も自動的に消滅したのでございました。

んで、昨年の春だったか夏だったか、デパートの古本市で久しぶりにこの文庫を見かけたんですね。お題は夢野久作の『爆弾太平記』。珍しかったし値段も手ごろだったので、すかさず買い求めました。
20060414212536これがその表紙。見事につきぬけまくってます。
他にどんなものが出ていたのか後ろの方のページを見てみますと、「久生十蘭傑作選」「小栗虫太郎傑作選」「牧逸馬文庫」「香山滋傑作選」 ・・・・・こんだけ趣味丸出しのシリーズばっかり出してたら、潰れるのも無理ないわな(笑)

さて、買ったはいいものの読む本がたまっていたこともあり、実際に目を通したのはごく最近(苦笑)。目次を見て、たまげましたね。だって『爆弾太平記』ってタイトルなのに、約450ページのうち330ページを『犬神博士』という中篇が占めている。看板にモロ偽りありじゃないですか!
で、仕方がないので『犬神博士』の方から読み始めました。

昭和一ケタのころの箱崎八幡宮に、犬神博士と呼ばれる奇妙な老人が住み着いていた。たくさんの犬猫を引き連れ、辺りのゴミ箱をあさるその姿を見て、人々はキ○ガイと噂した。だがこの老人は奇妙なことに、将来のことを言い当てる不思議な力を持っていた。その噂を聞きつけて、一人の記者が彼の元を取材に訪れるのだが・・・・
で、ここから犬神博士の世にも恐ろしい猟奇の物語が始まると思うでしょ? ところがそういう方向には全然いかないんだな、これが(笑)
以降は博士が自分の幼少時代をえんえんと語り続ける形式となっています。
彼は物心ついたときより、旅芸人の両親に連れられて九州各地を回っておりました。ところがこの二親、どうも実の父母ではないらしく、なにかあるたびに犬神少年に折檻を加え、自分らのうっぷんを晴らす有様。また彼らが少年にやらせる芸というのが、「姉サンマチマチ」という謎の名前のエロ踊り(笑) そんな風にやくざな旅を重ねているうちに、犬神少年はいつしか筑豊炭田を巡る政争に巻き込まれていきます。

こんな粗筋からわかるとおり、話の印象を一言でいうなれば、思い切り下品な『家なき子』といったところでしょうか。夢野先生って基本的に田舎を書く人だと思います。このころの「地方」を書く作家といえば御大横溝正史先生がおられますが、夢さんのそれはあんな叙情的なもんじゃなくて、もっと野卑で猥雑なイメージです。
なにかともったいぶった語り口の多い、このころの探偵小説にあって、夢野先生のあけっぴろげでバカ丸出しのホラ話は、読んでいてまことに痛快。代表作『ドグラ・マグラ』に見られる病的な暗さが、ここには少しも見られません。

・・・・ただね・・・・ これから読む人のために、あえて、そうあえてネタバレさせてもらいましょう。

この話、思い切り尻切れトンボで終っています! 最初と最後が見事につながっていません!

恐らく壮大な構想のもとにノリノリで書き始めたんでしょう。ですが途中でどうにも行き詰まってしまい、「もういいや」とさっくり筆を置いたもの思われます。今の小説・マンガにもよくある例ですが、いくら当時がおおらかな時代とはいえ、作者には苦情いっぱい来たんじゃないかなー。
そんな『犬神博士』ですが、作中に出てくる「玄洋社」「筑豊炭田」は夢野先生のご実家と浅からぬ関わりがあるので、ファンの方は必読でしょう。ちなみにわたしはそれほどのファンではありません。嫌いってわけじゃなくて、この人の本ってあんましその辺においてないもんですから。

20070908174408たらたら語ってるうちに、表題作『爆弾太平記』について書く気力がしぼんできてしまいました。こちらはこちらでなかなか面白かったんですが。気が向いたらその内語らせていただけたら、と思います。


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