河童だって うまいんだもーん のーんだら こう言っちゃうよ~ 原恵一 『河童のクゥと夏休み』
公開終了前に慌ててUPその一。劇場版『クレヨンしんちゃん』でも別格とされている、『オトナ帝国』『戦国大合戦』。その二作を手がけた原恵一監督の最新作です。
東京は東久留米に住む上原康一少年は、ある日川原で風変わりな石を拾う。それは江戸時代の昔から眠りについていた河童の子供「クゥ」だった。康一の家で目覚めたクゥは、最初こそ怯えていたものの、次第にのんきな上原一家に馴染んでいく。しかし現代社会はクゥにとって生きていくにはあまりに窮屈な環境。康一と家族はクゥをどうするべきか頭を悩ませるが・・・
原監督(巨人の人ではなく)は、過去と現在の邂逅を描く人だと思います。『オトナ帝国』では21世紀に突如として出現した「70年代の世界」を描き、『戦国大合戦』では時を越えた二つの純粋な精神の出会いを描きました。そしてこの『クゥ』では、失われた環境の象徴である「河童」が文明社会によみがえったらどうなるか、ということを題材としています。作品では現代の世相その他の批判もありますが、原監督は単純に「昔は良かった今はダメ」とは言っていません。プロローグを見ればわかるように、人が異物を排除したり、環境を思うがままに作り変えようとするのは江戸時代から変っていないわけですから。ただ現代はその繁栄が極に達してしまったため、ひずみもまた大きくなってしまったということなのでしょう。しかし包容力豊かな上原家の人々を見ていると、わずかながら希望はある、と思えてきます。
また『クゥ』を見て一番心に残るのはそういう悲観的な部分ではなく、康一少年のみずみずしく、切ない「夏休み」の部分。夏のプール。親と離れての冒険旅行。急にそれまでと変って見えた同級生のあの子。どこかの町の夕焼け・・・・
そういうわけで「暗いのダメ」という人も安心してごらんんください。
多くの人が気づいていると思われますが、この上原家、「しんちゃん」の野原家と構成がまったく一緒です。もちろんそれなりの違いはあります。康一くんはしんちゃんに比べればかなり平凡な少年だし、妹のひとみちゃんはひまわりちゃんよりもひねくれている。ヒロシはヒロシほどスケベではありませんし、ミサエはミサエほど暴力的ではありません。ただ両家とも家族全体が「幼い」というところは同じです。
その中で唯一の例外と言えるのが上原家の老犬「オッサン」。彼だけが一連の騒動の中で大人らしく冷静に、また自己犠牲的に行動します。先日書いたこととかぶってて恐縮ですが、それは彼だけが胸を切り刻まれるような、辛い経験をしてきているからだと思います。
野原家はもはや磯野家・野比家と並ぶ日本の代表的ファミリーと化してしまった感があるので、変化=成長することは許されません。しかし上原家は奇妙な来訪者との関わりを通じ、みなそれぞれに「大きくなった」のではないでしょうか。
いうまでもなく、ひょうきんなカッパのクゥも様々な芸やコロコロ変る表情などでわたしたちを楽しませてくれます。八方ふさがりの状況の中で、あんな意表をつく抜け道を思いつくところにも本当に感心しました。夏休み映画もいろいろみましたが、この作品と『レミーのおいしいレストラン』が、「職人芸」という点で明らかに他を圧倒しています。先入観に囚われず、ぜひ実際に観て欲しい一本です。
ただ一点、文句を言わせてもらえるなら・・・・ 「予告編でネタバレ」しすぎです。先を知っていても十分楽しめましたが、知らなかったらもっと楽しめたのに・・・と思うと、ちと歯がゆいです。
あとこれは明らかに無い物ねだりなんですが、『クレヨンしんちゃん』のヴァージョンでも是非見たかった! と思ったら、31日の放送ではなんとカッパが登場するそうで。すでに『クゥ』を観た人は、チェックしてみるのも一興かと。あんまり期待はできないけど(笑)
Comments
SGA屋伍一さんこんばんわ♪TB&コメント有難うございました♪
上原家が野原家と構成が似てるのも、恐らくクレしんの成功が無ければクゥも作れなかったと言っている原監督が、クレしんに対して自分なりの『感謝』を劇中で表現している部分なのかもしれませんね。
でもこんな事なら自分もクレしんを前々からもっと真面目に見ておくべきでした。ドラえもんならちょこちょこ見ているんですけどね・・(^^;)
Posted by: メビウス | August 26, 2007 12:16 AM
SGA屋伍一さん、こんにちわ。
TB&コメントありがとうございます。
何よりも、記事を読んで頂いてありがとうございました。
数え切れない人に、おススメしているんですけど。さすがに、実際に観に行ったという人は一人もいなくて。みんながみんな映画が好きという訳ではないので仕方ないのですが。少し残念に思っていましたので。
SGA屋伍一さんに観に行って頂いて、本当に嬉しく思います。
>その中で唯一の例外と言えるのが上原家の老犬「オッサン」。彼だけが一連の騒動の中で大人らしく冷静に、また自己犠牲的に行動します。
もう、この辺りを読んでいるだけで涙が込み上げてきました。
オッサンに学ぶ点は多々ありました。
猫派ではなっても、オッサンの場面は暫く忘れることなんてできないですねー
そうそう、31日のクレしん、是非見たいです。
いいこと聞きました、ありがとうございます。
Posted by: 隣の評論家 | August 26, 2007 10:53 AM
>メビウスさま
返信ありがとうございます
>上原家が野原家と構成が似てる
>自分なりの『感謝』を劇中で表現している
なるほど。昔の自分の作品を「あれは仕方なくやった」みたいに言う人もいるなかで、そういう気持ちを忘れないのはさすが原ちゃん!という感じであります
あと自分が一番馴染んでいる素材、ということもあったでしょうね
>クレしんを前々からもっと真面目に見ておくべきでした
わたしも実はそんなに偉そうなことは言えなくて(^^;)
レギュラー放送は『電王』が出ると聞いて、こないだ初めてまともに観ました
でも『クレしん』はやっぱりおバカ基本で、あんましマジメに語るもんでもないかと。そういう意味では『オトナ帝国』と『戦国大合戦』は鬼っ子なのかもしれませんね
Posted by: SGA屋伍一 | August 27, 2007 10:15 AM
>隣の評論家さま
>SGA屋伍一さんに観に行って頂いて、本当に嬉しく思います。
いやー、いつもクールなとなひょう様が珍しくヒートしてるから「これは何かある!」と思ったのですよ
こちらこそ踏ん切りをつけさせてもらってありがとうございました(笑)
>オッサンの場面は暫く忘れることなんてできないですねー
「あいつにぶたれ続ければよかったんだろうか」
・・・・こんなに哀しい言葉もありませんね
一方でオッサンを見つけた時のコウちゃんの笑顔に、本当に救われま
す
>31日のクレしん
きっと『クレしん』スタッフの原監督へのエールなんでしょうね。感動とかはないと思いますが、わたしもそれなりに楽しみです
Posted by: SGA屋伍一 | August 27, 2007 10:23 AM
Qoo~~
クレヨンしんちゃんって映画も含めあまりちゃんと観たことないんですけど、
そんな私でも野原家の家族構成や各キャラ設定なんかは知ってて
ほんと磯野家・野比家と並ぶ日本のファミリーなんだなぁと思います。
あとさくら家?
SGAさんの記事を読んで、どちらも原監督がたずさわってきた野原家と上原家、
比べてみるとおもしろいなぁと思いました。
おっさんにはどうにもこうにも泣かされました。
今思い出しても泣けてくる・・・エーン
尊敬に値するほど大人なおっさんでしたけど、
クゥもおっさんの次くらいに大人だったような気がします。
妙に悟ったところがあるというか。逆に人間って未熟だなぁとも思いました。
『レミー』はずいぶん前に観てすごく良かったのになぜか放置しています。
早く書かないといろいろ忘れる~
Posted by: kenko | August 27, 2007 01:51 PM
>kenkoさま
こんばんは。TB・コメントありがとうございます
>磯野家・野比家と並ぶ日本のファミリーなんだなぁと
『クレしん』ももうはじまってかなり経ちますからねえ。PTAの迫害にも負けずに、なぜここまで続いているのかわたしにもさっぱりわかりません
>あとさくら家?
ぬかったわ・・・ 静岡県民ともあろうものが・・・・
オッサンに関しては、どの記事を見ても賛辞の嵐ですね
なぜあんなにもオッサンが哀しいのか。それは彼が「犬」であるがゆえに泣くこともできないから・・・・
ものすごく辛いのに涙をみせずに健気なことを言う。そういうのに、ワタシ弱いんです
>クゥもおっさんの次くらいに大人だったような気がします。
確かにそうでしたね。親を殺された上に見知らぬ環境に放り出されたクゥは、大人になるよりほかなかったのだと思います
そんなクゥがたまに見せる子供らしいところが微笑ましかったり、可哀相だったりしました
Posted by: SGA屋伍一 | August 27, 2007 10:09 PM
お邪魔します♪
あまり絵に魅力を感じずに未見のままでおりましたが、、、ひょんなことで(TSUTAYA100円レンタル期間)観てみて良かったです!!
こんなにいい映画だとは、、、予想だにしていませんでした。
もう感動して感動して感動しまくりでした!!
で、、、オッサンの悲劇には家族で絶叫~~~
うそだぁぁぁ~~~立って!!立ってよ!!オッサン~~~
この映画は、押しつけがましくなく色んな要素が詰まっている秀作だと思います。
夏になったらまた観たいな・・・
Posted by: 由香 | March 17, 2010 11:42 PM
>由香さん
おはようございます おかえしありがとうございます
ETや王蟲もそうですが、最初は「ちょいグロ・・・」と思ったのに、見ているうちに可愛くなってくるキャラってありますよね。ちょうどクゥもそんな感じのキャラクターでした
康一君もいかにもその辺のお子さんのようで、あんまし可愛くなかったですけど(笑)、この「その辺にいそうな」というところが大事だったのだと思います
>オッサンの悲劇には家族で絶叫~~~
・・・・・・
ワンちゃんたち、大事にしてあげてください(笑) いま三匹でしたっけ?
そうですね。「夏休み」という題がとってもふさわしい映画でした。遠野にも行きたくなりますよね
Posted by: SGA屋伍一 | March 18, 2010 07:41 AM