山田風太郎に関しては色々言わせてもらいたい⑳ 『おれは不知火』
ほんとーに久方ぶりの山風コーナー。本日は河出文庫より「山田風太郎コレクション」と銘打って刊行されたシリーズの第二巻、『おれは不知火』を紹介いたします(絶版ですが・・・)。ちなみに第一巻は今年二月に紹介した『伝馬町より今晩は』。第一巻が「幕末」を中心にした短編集であるのに対し、第二巻は「維新」のあたりが舞台となるお話が集められております。
☆首
誰もが知ってる幕末の大事件「桜田門外の変」をモチーフとした作品。悲願かなって井伊大老の首を討ち取った水戸浪士たち。だが彼らが持ち去ったはずの「首」は、様々なものたちの思惑により、あっちこっちにリレーさせられるはめに。果たして首の落ち着く先はどこなのか。
山風がまだ推理小説を書いていた時代の作品。このころの山風ってやたら暗くて救いようのない話が多いんですが、こちらは趣味が悪いながらも首をめぐって右往左往する群像を、かなりユーモラスに描いております。終わりにはちらっとホラー風味も追加。
「桜田門外の変」に関しては司馬遼太郎がタイトルそのまんまの短編を、筒井康隆が『万延元年のラグビー』(笑)という作品を書いておられます。後者は『首』をさらにバカバカしくした内容。新潮文庫の「ユーモア短編集①」に収録されていました(まだ出ていればの話ですが・・・)
☆笊ノ目万兵衛門外へ
幕末の混乱期、内外の問題に対し辣腕を奮った老中安藤信正。その配下に笊ノ目万兵衛という男がいた。同心として、己の職務を誠実に果たし続ける万兵衛。だが時代の波は、彼に対しあまりにも苛酷な運命を用意していた。
誰もが知ってる(略)「桜田門外の変」。しかしその後安藤信正なる人物が井伊大老の後を次ぎ、彼もまた「坂下門外」という場所で襲撃されたことを知ってる人は、どれほどいるでしょう。もちろんわたしは知りませんでした(笑)。そのまた影に、大義を掲げた連中の無法のせいで、人生を狂わされた男がいた・・・という話。
主人公笊ノ目万兵衛は、たぶん架空の人物。つーか、こんな話が実際にあったとしたらあまりにもやりきれません。警察にせよ軍隊にせよ、「前線に立つ者はいつも虫けら扱い」ということが痛烈に皮肉られております。
☆大谷刑部は幕末に死ぬ
嘉永三年末に、磔にされた一人の男がいた。彼の遺児で僧見習いの千乗は、浪人沢田正三郎にそそのかれ、世のために討幕運動へと身を投げ出していく。
タイトルにある大谷某とは戦国末期の人物ですが、もちろん彼がタイムスリップして・・・・という話ではありません。もともとビッグネームを背負っていた主人公が、あることから大谷刑部の名前も継ぐことになったゆえに、こういう題となっています。
これまた「天狗党の乱」の影に隠れた「出流天狗」という事件に材を得たエピソード。「こんな人・事件、よく見つけてくるよなあ」という作者の着眼点にはほとほと感心するものの、「最後に得をするのは一番悪いヤツ」という結末に、限りなくフラストレーションが高まる一編。
☆おれは不知火
表題作。幕末の傑物・佐久間象山を暗殺し、「人斬り」と恐れられた河上彦斎。その彦斎を父の仇とつけねらう象山の遺児・格二郎。ふたりの長年に渡る奇妙な運命の交錯を描いたエピソード。
河上彦斎といえば、マンガ『るろうに剣心』のモデルとなった人物。実際は美形というわけでもなかったようですが、「微笑をたやさず」「女のようにやさしい声を出す」というあたりが、和月信宏氏の創作意欲を刺激したのかもしれません。
この話もちょっと「救われない」タイプの筋ではあるのですが(そんなんばっかしや・・・)、彦斎のキャラクターがあまりにも突き抜けていて、一種爽快ですらあります。
対して「凡人」格二郎の方は煮え切らないこと甚だしい(笑)。この人、新撰組に入っていたこともあるそうで、その辺もなかなか面白かったです。
☆絞首刑第一番
江戸が明治となりまして、処刑もぐっと近代的な「絞首刑」へと改まる。その第一回に秘められた、ある哀れな兄妹と、彰義隊の残党の物語。
これまた山風のキャリアの中では、かなり初期に書かれた作品。実在の人物がほとんど出てこないあたり、普通の時代小説にかなり近い印象。それでも「日本最初の絞首刑」なんてものを題材してしまうところは、やはり山風でしょうか。「純粋さ」と「邪心」の対比や、魔性の女にいいように操られてしまうバカ男なども、後に繰り返し使われているモチーフであります。
どちらかといえば前の巻のほうがバラエティに富んでいたかな・・・ でもこちらでも山風ならではの、他ではお目にかかれない様々な題材、ストーリーを堪能させてもらいました。できれば第三巻『明治忠臣蔵』も年内には読みたいところ。
第一巻『伝馬町より今晩は』のレビューはこちら
http://sga851.cocolog-izu.com/sga/2007/02/post_cbbc.html
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