天国への階段式ピラミッド メル・ギブソン 『アポカリプト』
やあみんな! ぼくはジャガー・パウ! アウトドア大好きの、古代マヤ系ナイスボーイさ!
ある日ぼくの村は野蛮な都会人たちに襲われて、村人のほとんどはピラミッドがそびえたつ大都会に売っ払われてしまった。そこでぼくたちがなにをさせられるのかと思ったら、なんと神様への捧げモノにされるって言うじゃん! シャレになんねー! と、言ってるそばから仲間がマグロみたいにさばかれちゃってるし。ひょえー!!
でもぼくは絶対死なないもんね! いとしのハニーとまたイチャイチャするまで、なにがなんでも生き延びてやるっつーの!!
・・・本編はもうすこし深刻なお話です。
メル・ギブソンってよくわかんない御仁です。『マッドマックス』でアクション俳優としてデビューし、『ブレイブハート』あたりで「演技も監督もできるんだぜ!」ということを証明。その後『パッション』でキリストの最後を衝撃的に描き、「信心深い人なんだなー」と思ったら、今度は飲酒運転&差別発言で世界中からひんしゅくを浴び・・・
そしてこの度の『アポカリプト』では、全編古代マヤ語を用いてマヤ文明を題材にした映画を作るというんだから。一見ナニがやりたいのか「てんでバラバラ」という印象を受けます。
ですが、彼のフィルモグラフィーを見ていたら、なんとなく浮かびあがってきたものがありました。メルさんが演じる役柄ってえのは、大体において家族の死がトラウマになったり、戦いの動機になったりする場合が多い。彼にとって家族とは、かくも大きな存在であるということなのでしょう(じゃあ殺すなyo!)
『アポカリプト』ではメルギブが主演を兼ねているわけではありませんが、主人公の妻子はまだ生きています。よかった! だけど自分が超死にそう!
「君は 生き延びることができるか?」
さて、先にも述べましたように、この映画は古代マヤを主なモチーフとしております。外国人だろうと宇宙人だろうと英語をしゃべっているハリウッドムービーの中で、あえて古代マヤ語を用いているくらいですから、さぞや忠実に歴史考証しているのかと思いきや・・・ これがまあ、なんつーかかなり大胆なアレンジがなされてまして。マヤ文明というよりか、マヤ・インカ・アステカRemixという感じになってました。その方面に詳しい人が見ましたら、きっと頭抱えちゃうと思います。
ちなみに記者会見でそのことをつっこまれたメルギブは、「帰れこの野郎!」と吼えられたとのこと。 ・・・いいね、その態度! オトナとしては間違ってるが、オトコとしては間違ってないぞ!(正しくもないが!)
しかしその辺のトンデモに目をつぶりさえすれば、かなりいけてるアクションムービーになっておりました。
正直に申しますと、今年一番のめりこんで見た映画。後半はもうずっと「アアッ!」「ポカ-リ」と口を開きっぱなしで画面に見入っておりました。
ちょっと息継ぎをしただけでも死にかねない状況で、血をだらだらと垂れ流しながら疾走するジャガー・パウ。その姿は、「生きる」ことに無気力になりがちな我ら現代人に、それがいかに貴重なものであるかを教えてくれます。
そう、先の『300』が美しく散るための戦いを描いた作品だとするなら、こちらは「是が非でも生き延びる!」戦いを描いた作品。
ピンチに次ぐピンチを、ジャガー君は根性と機転とラッキーでどうにかクリアしていきます。普通なら50回くらいは死んでるはずなんですが、どうやら彼には強い神のご加護があるようで。この辺にメルギブの信心深さが見え隠れしておりますね。
古代マヤというと、「人々がある日突然消えうせた」みたいな伝説で知られています。映画でもその理由が幾つか示唆されていましたが、先日レビューした『蟻の革命』という小説にはこんな説が載せられていました。なんでも古代マヤの人々は恐ろしいまでの計画主義者で、うっかり滅亡の予定まで書いてしまったため、その日時がやってきた時、「仕方ねっか」と自ら滅んだとか。これまたトンデモ大爆笑なお話ですが、現代の日本人はあんまり笑えないかもしれませんね。
この映画、もっと大々的にやるのかと思っていたら、意外に上映館少ないみたいです。みんな中南米に冷たくないですか? その一方で近々東京上野で「マヤ・インカ・アステカ文明展」も開催されるそうで。
映画を観てマヤに興味を持たれた方は、ぜひ足を運んで遅いツッコミをいれてみてください。
Comments
南米方面の古代文明と言えば、
私なんか世界不思議発見程度の知識しかないですけど
謎やロマンに満ちたイメージでちょっとした憧れもありました。
しかしこの映画を観て「マヤってこうなの・・・??」とビックリ。。。
後で知りましたが、あのような儀式を行っていたのはどちらかと言うとアステカ文明だったりとか、その他ツッコミどころ満載なんですってね(笑)
観る人が観たらむちゃくちゃなのかもしれないけど、
少なくとも私は目も口も開きっぱなし、前方に身を乗り出しぎみでハラハラドキドキを心ゆくまで満喫しました。
映画監督たるもの、下々のツッコミには逆ギレするくらいでないとね♪(?)
Posted by: kenko | June 30, 2007 01:43 PM
>kenkoさま
こんばんはっす。いつもコメントありがとうございます
わたしも偉そうなこと書いてるけど、「いろいろ間違ってる」ことを知ったのは鑑賞後で、見ている間は「キャー マヤってすごーい」と100%信じながら見てました(笑)
実はマイベストの一本である『ブレイブハート』にも、承知でウソをやっているところがけっこうあるそうです・・・・
でもまあ、一観客としましては、「史実に忠実」であるよりも、「映画として面白い」ことを優先して正解だと思いました。マジメに研究している人は怒るだろうけど
>映画監督たるもの、下々のツッコミには逆ギレするくらいでないとね♪(?)
こういうワンマンな人のほうが、いい作品作ったりしますからね。ワンマン=有能ってわけでもないですけど
ところでこれ、来週いっぱいでもう公開終わっちゃうみたいっすねー。もったいないなあ
Posted by: SGA屋伍一 | June 30, 2007 08:36 PM
は~い、みてきましたですよ。
まあ、あれですね。
考証がどうとか以前に、史劇作品と思って観にいったら肩透かしくらいますね。
「マヤ文明」らしい場面は生贄シーンだけで、7割くらいは舞台が密林内ですもんね。
しかし追跡劇としてみると、かなりイケてるんじゃないでしょうか?
滝で追跡を振り切るシーンは「映画のお約束」粉砕で大いにウケました。
その手があったか!
あと、バクのモモ肉がムリムリしてて非常においしそうでした。
機会があればいっぺん賞味してみたいものです。
でも、一番気になったのは、あのファンタジスタな主人公の似て蝶。
"ロナウジーニョ アポカリプト" の検索結果:684件
"Ronaldinho Apocalypto"の検索結果 : 125,000件
…やっぱし。
なんか世界中の人と心が触れ合った気がします。
Posted by: 秦太 | July 02, 2007 01:00 AM
>秦太さま
>考証
に関してはここでいろいろつっこまれてます(笑)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9D%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%83%97%E3%83%88
いっそ「マヤによく似た架空世界」のお話と割り切って見ても良いかも
みなもと先生の「映画人たち」にあった、「時代劇時代」という言葉がなんとなく思い浮かびました
>追跡劇としてみると、かなりイケてるんじゃないでしょうか?
やっぱしこの辺ですよね。フィールドワーカーである秦太さまとしては、ニヤリとする場面が多かったのでは
「その場にあるものを利用する」という戦術は『マスターキートン』を髣髴とさせます
>バクのモモ肉がムリムリしてて非常においしそうでした
ワイルド! たぶんそういう意見の方は少数派かと(笑) もし賞味されることがありましたら感想聞かせてください
主役の彼ですが「井出らっきょう」に似てるという説も。そりゃジーニョも井出さんも足速いけどさ・・・・
Posted by: SGA屋伍一 | July 02, 2007 07:41 AM
こんばんは♪
はじめまして、わたしのblogにあそびに来て下さってありがとうございました☆
レビュー、面白く読ませてもらいました!
さりげないイラストがまたシンプルで味があっていいですね〜♪
そうですね、この映画、面白いのに単館だなんてちょっとザンネンです。
またあそびに伺いますね。これからも宜しくお願いします。
Posted by: mig | July 02, 2007 11:27 PM
>migさま
突然の訪問失礼しました
そしてさっそくこちらにも来てくださり、まことにありがとうございます
>さりげないイラスト
毎度お目汚しもいいとこなんですが、ウチはこんなもんしか芸がなくって・・・・ つーか、「芸」以前のシロモノですが(^^;) 優しいお言葉感謝でございます
>面白いのに単館だなんてちょっとザンネンです
わたしとしては、今年の映画の中では『硫黄島』『鉄コン筋クリート』『ハッピーフィート』に並ぶくらいのヒットなんですけどねえ
意外に絶賛の声が少ない・・・ 確かにアラも多いんですけど(笑)
こんなとこでよろしければ、またよろしくお願いします。では
Posted by: SGA屋伍一 | July 03, 2007 07:46 AM
こんにちわ。訪問ありがとうございました。
>「生きる」ことに無気力になりがちな我ら現代人に、それがいかに貴重なものであるかを教えてくれます。
おおおおお~っ、そうですね、見た人の心に響いているといいですねー。
公開規模も何だか小さくて、ちょっと残念な気がしますね。批判的な声も耳に入っていたのですが、私はツッコミを入れることなく楽しめました。おうちでDVD・ビデオ鑑賞するよりは、絶対に劇場のおっきなスクリーンで見る方が楽しめると思いませんか。
「メル・ギブソン監督作品」で押しても、客入りはイマイチだったみたいですね。このところ、ゴシップ記事を賑わせてしまったメルさんですが、また次回作も楽しみにしたいと思います。
Posted by: 隣の評論家 | July 13, 2007 09:16 PM
>隣の評論家さま
返事が遅くなってしまい、申し訳ありません
>「生きる」
と書くと別の映画の話みたいですが(笑)
我々の社会ってあまり「人の死」を見ることがないですから、気をつけないと命の貴重さを忘れそうになってしまうこともあると思うんです
きっと昔の人にとって、死はもっと身近なものだったはず。だからこそ生きることに必死だったり、神仏にたよらなないとやっていけなかったりしたんでしょうね
>絶対に劇場のおっきなスクリーンで見る方が楽しめると思いませんか
ピラミッドと滝壺のシーンは絶対スクリーンで見たほうがいいですよね。ただピラミッドのあたりは心優しい方々にはキツイかも・・・
>メルさんですが、また次回作も楽しみにしたいと思います。
「今度はオレにもわかる英語の映画を撮る」とか言ってたそうですが、ろくにわかりもせん言葉を使ってそれなりの映画を作ってしまうところはすごいと思います
Posted by: SGA屋伍一 | July 15, 2007 07:37 PM
観ますた(笑)
とりあえず、ジャガー君はミニー・ドライヴァーによく似てます。女優さんですけど。 (「ビューティフル」といういい映画に主演してます。)
Posted by: 高野正宗 | December 03, 2007 08:16 PM
>高野正宗さま
>ミニー・ドライヴァー
ミニーマウスとタクシードライバーを足したようなお名前ですね
検索してみました。確かにロナウジーニョを二割り増し美しくした感じですね
ちなみに検索トップは「ハリソン・フォードにふられて落ち込んでる?」という記事でした(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | December 04, 2007 07:47 AM