妖怪退治に使命をかけて 錦織博 『天保異聞 妖奇士』 /高橋良輔 『幕末機関説 いろはにほへと』
先頃終了した時代アニメ二本を、おおざっぱに紹介いたします。
まず花の「土6」に放映された『天保異聞 妖奇士(あやかしあやし)』から。
幕末まであと少しという天保年間。日本の各地で巨大な妖怪「妖夷」が現れ、人々を恐れさせていた。幕府はこれに対処するため、妖夷を退治できる特殊技能を持った者たち「奇士(あやし)」を密かに集める。その最後のメンバーに選ばれたのは、幼い頃「異界」と呼ばれる謎の領域へ行って以来、放蕩の日々を送っていた竜導往壓 (りゅうどう ゆきあつ)なる浪人であった。
物語の柱となっているのは、突如として現世に現れる不可思議な領域「異界」。登場人物の何人かは、辛いことの多い現世に嫌気がさし、時間・空間を超越したこの異界へ行くことを切望します。
わたしはこの「異界」は、アニメ・ゲームといったサブカルチャーの暗喩ではないかと推測します。その魅力に取り付かれ、首の辺りまでどっぷりつかってしまっているけれど、そのことに後ろめたさも抱いている。そんなライター會川昇氏の煩悶がうかがえます。
その會川氏、『十二国記』『鋼の錬金術師』『仮面ライダー剣』といった「原作付き」の仕事を見ますと、アレンジャーとしてはなかなか優れた才能を有していると思います。しかし一からやらせると、どうも趣味が暴走して微妙なものが出来てしまうような気が(笑)。
この『妖奇士』、その人から「名」を取り出してその字を武器にする「漢神(あやがみ)」といったアイデアはまことに独創的だし、アニメで『仮面の忍者赤影』(特撮のほう)や『必殺仕事人』がやりたいという狙いもわからなくはない。ただそれらがバランスよく組み合わさっていたかというと、それこそ「微妙」な感じでして。
一方で江戸のダメ人間たちの心象が非常に丁寧に描かれており、秀逸なエピソードも幾つかあります。そんな風に評価できる部分も多々あったのですが、やはり狙いが渋すぎたのか、当初の予定の半分で放送終了。遠山金四郎、高野長英、国定忠治といった面々も見たかっただけに、この短縮はまことに残念でした。
もう一本はネット配信のみという、斬新な形で公開された『幕末機関説 いろはにほへと』。
こちらは明治元年前後が舞台。世が乱れる時現れ、それを手にしたものは天下を我が物に出来ると言われる「覇者の首」。幼い頃よりそれを封印するよう育てられてきた剣客・秋月耀次郎は、時代の多くの英傑と出会い、またすれ違いながら、災いの元凶たる「首」を追う。
こちらで目を引くのはリアルかつ、けれん味のある剣劇。なにせスタッフロールに「殺陣」という役職があるくらい。何度か行なわれた隻眼の銃使い・神無左京之介と耀次郎の対決は、なかなか手に汗握らされるものがありました。また成り行きで主人公が旅の一座と行動を共にするため、「演劇」をからめたストーリーが展開され、その辺りも独特の空気を持つ作品となっていました。
さらに勝海舟、坂本竜馬、土方歳三といったメジャーどころはもちろん、河合継之介&アームストロング砲、益満休之介、天狗党の残党など、これまでアニメでは描かれなかったようなマイナーな題材も多数登場します。
ただ、これらのモチーフ、お話に本当に必要だったかというとそうも言えず(笑)。歴史の好きな人ならオマケ的に楽しめたでしょうけど、SFロボットものを得意としてきた高橋氏のこれまでのキャリアに魅かれて見始めた人たちには、少々厳しかったやもしれません。
今月末からまたチャンネルGYAOにて一挙配信されるようですので、興味を持たれた方はご覧になってみてください。
ここまで書いといて身もフタもありませんが、アニメと時代劇ってそんなに相性いいもんじゃないと思います。この二本も決して満点とは言いがたい。しかし「今までにないものを作ろう」というチャレンジ精神は、大いに評価したいところです。
そしていつかこの「時代アニメ」から、「文句なし!」と言えるような傑作が現れんことを願っております。
Comments
こんにちは。
わたしも「天保異聞 妖奇士」好きなんです〜。
見出したのがちょうど2クール目からで、
ハマった頃には打ち切りということになってしまったんですが。。
たしかに、ただでさえとっつきにくい時代劇に、オヤジの主人公、
漢神の設定が地味などなど、土6でやるにはちょっと渋い内容でしたよね。
時代劇スキーな私としては、難しい時代劇言葉や史実人物との絡みが
好きだったんですが…
私個人としては、
ひとつのエピソードが何話もかけてじっくり描かれているのが逆に
少々まどろっこく感じました。
『幕末機関説 いろはにほへと』も好きです(笑)
正直言うと、こちらのほうが土6向きな時代劇アニメのような気がします。
時代劇というとどうしても地味になりがちなので、
そこを演劇を取り入れてケレン味を出したのがいいですね。
長崎の異国情緒ある舞台設定が好みです。
「仮面ライダー電王」>
クールビューティーも好きですが可愛い癒し系も好きですよ(笑)
あと関俊彦ボイスも目当てです…(笑)
Posted by: みずぐきまり | April 22, 2007 12:41 AM
おばんです
>天保異聞
わたしの特に印象に残ったのは、わりかしはじめのほうの「ひとごろしのはなし」というエピソード。主人公のヒ-ロー性を否定しながら、不快でもない不思議な話でした
そういえば脚本家の方は山風ファンであるとも聞きました。似ても似つかぬ作風ですが、「社会から弾かれたものたち」にスポットをあてているところは共通してますね
天保年間といえば山風も『御用侠』『天保忍法帖』『笑い陰陽師』などでその時代を扱っていますね。これまたどれも出来が微妙(笑)
>いろはにほへと
>演劇を取り入れてケレン味を出したのがいいですね
そうですね。後半ややその辺が薄味になってしまいましたが・・・
「ございそーざいー」が少しクセになりました(笑)
>関俊彦ボイス
この人もいつの間にやらすっかり中堅どころに・・・
こないだの土六ガンダムとは全然違う役柄ですが、こういう役のほうが関さんの基本だと思います
Posted by: SGA屋伍一 | April 22, 2007 09:17 PM
>天保異聞 ひとごろしのはなし
あのエピソードで私も妖奇士が好きになったんです。
ヒーローらしからぬ行いだと色んなところからいわれたようですが、
人間なんだもの39年も生きていれば過ちの一つや二つあってこそ
人間ができてくるというもので。。
脚本の方が山風ファンなんですか??
実は私、見ていて山風の明治物にちょっと似てるなあ〜と
感じていたんですが(笑)
>いろはにほへと
「ございそーざいー」は「東西東西(とざいとーざいー)」と
言ってるんじゃないんでしょうか
Posted by: みずぐきまり | April 23, 2007 12:55 AM
>あのエピソードで私も妖奇士が好きになったんです
みずぐき様もでしたか。どうもあのあたりでこの作品の「好き・嫌い」が分かれるようですね
わたしは最初からユキのダンナをヒーローとはみなしていなかったので、抵抗なかったです。むしろあまりにお人よし過ぎる雲七の友情が泣けました
>山風の明治物にちょっと似てるなあ〜と
後半の「三人往壓 」のエピソードがそんな感じでしたね
曰くありげなお子様が出てきたと思ったら実は・・・というあたりが
>「ございそーざいー」は「東西東西(とざいとーざいー)」と
言ってるんじゃないんでしょうか
目からウロコです(というか耳が悪いよな)。ありがとうございました
Posted by: SGA屋伍一 | April 23, 2007 11:06 PM
>ひとごろしのはなし
あのエピソードはユキアツさんの人生を垣間見た気分になりました(笑)
しかし、途中からアトルや狂斎が登場して、大人目線から
子供目線にストーリーの軸がすり変わってしまったのが残念でしたが。。
「三人往壓 」もそうですが、
最終話で、同年代に史実では何が起こっているかを
説明しているのも山風っぽいなあと。
Posted by: みずぐきまり | April 23, 2007 11:56 PM
>大人目線から
子供目線にストーリーの軸がすり変わってしまったのが残念でしたが。。
確かに「大人になりきれない大人」だったユキさんが、彼らの登場で後ろに引いてしまったというか、「大人らしい大人」になってしまったのはちょっとパワーダウンでしたね
>最終話で、同年代に史実では何が起こっているかを
説明している
あのEDはかっこよかったですね。「それでも人は物語を求める」に「うんうん」とうなずいておりました
Posted by: SGA屋伍一 | April 24, 2007 09:28 PM
>人目線から子供目線にストーリーの軸がすり変わってしまった
会川昇氏は『ヒヲウ戦記』でも主人公が少し成長して歳を取ったら
視てる人が感情移入できる目線を弟くん、に移したとか言ってました
ね。
>御用侠
そういえばヒヲウのインタビュー時、これを上げていた気がします。
会川さんって、もののけ姫や隆慶一郎に代表される網野善彦史観
が好きかもしれません。
道々の者とか。
そういえば、ジャンプの隆先生の影武者徳川家康のシナリオを書いて
いましたよね~。
>中居屋重兵衛
いろはに、の仇役ですが実在の人物だったんです!!
SGA様が好き(?)と思われる桜田門外に関った人物ですが、
結構ミステリアスな人生を送った(?)人みたいですね。
Posted by: 犬塚志乃 | April 02, 2008 08:09 PM
>犬塚志乃さま
ヒヲウ戦記も観たかった作品のひとつです
たしか『天保異聞』にその作品ゆかりのキャラが出ていましたよね
山風作品では単に「山の民」と言われている彼らですが、隆作品では傀儡を操る芸を持った人々もいたことが書かれていました
そっから「機の民」の発想がうまれたんだと思います
>>中居屋重兵衛
実在とは驚きでした
『いろはにほへと』はこういうマイナーなネタが満載なところが面白い作品でした
Posted by: SGA屋伍一 | April 03, 2008 07:36 AM