軍団ひとり ジェイコブ・チャン 『墨攻』
先日紹介した小説・マンガの劇場版です。日本・中国・韓国・香港の合同製作。まさにアジア連合です。北朝鮮も入れればよかったのにね。
さて、あらすじですが、冒頭は原作と大体一緒です。
手抜きですいません。
あの豪快な画風をどう再現してくれるのか、けっこう楽しみにしてたんですが、これまたマンガとかなり異なるアレンジがされておりました。
原作の主人公・革離は、「墨家最高!」と自分の道に微塵も疑問を感じていません。ところがアンディ・ラウ演じる映画版革離は、ややナイーブな男として描かれています。たしかに幾ら弱きを守るためとはいえ、自分の指図で築かれた死体の山を見たら、だれだって堪えるでしょう。普通の神経の持ち主であれば。
どんなに正当化しようと、殺しは殺し、罪は罪。こういう姿勢、ハリウッドのアクション作品とは明らかに違うものです。向うの多くのヒーローたちは自分や弱者を守るためには、迷いも無く敵さんたちを撃ち殺します。「やらなきゃやられる」と彼らは言いますが、明らかに「やりすぎ」な例もけっこうあり。またそういうのを見ていて、自分などもついついスカッとしてしまったりします。まあこれが娯楽の範囲でならまだしも、アメリカさんたちは実際にミサイルをかっ飛ばしたりしてしまったりするのでシャレになりません(最近わりと反省してますけど)。
原作と違ってやや「墨家」に対し懐疑的なつくりになってしまったのは、9.11以降のそういう世相を反映してのことかと考えられます。
さらに映画独自のアレンジとしましては、オリジナルのキャラクターである逸悦という女性と革離のロマンスなどがあります。あちこち記事や掲示板を拝見したところでは「このヒロイン、いらね」という意見が多数ありました(笑)。確かにわけもなく惚れっぽい娘だな、とわたしも思いました。でもこのキャラクターは画面の彩りというだけではなく、革離に「本当の“兼愛”とはなんぞや?」ということを考えさせる上で、用意されたんじゃないかと思います。批判が多いのは、それがちょっと強引だったからでしょう(笑)。
そういうわけで全体的にややウエットというか、どんより暗いムードとなってしまいました。攻城戦に関してもけっこうあの手この手でがんばってはいましたが、このムードに押されて絵的な部分ではそれほどインパクトが残らなかったような。ただ後半で敵側の軍勢が逆襲を仕掛けてくる場面だけはちょっとビックリしました。明らかに歴史曲げちゃってるんですけど、大目に見ることにします。
その主張には大いに賛成したいものの、なんだか悲しい気持ちで劇場を出ることになってしまいました。大陸の人たちって、どうしてこう「やりきれない話」が好きなんでしょうね・・・・ もっと明るくいこうよ! ポジティブにさあ!
もっとも日本も2、30年前まではそんな感じだったかもしれませんね。
小説、マンガ、映画と適当ながら三つの『墨攻」について解説して参りましたが、劇場公開とほぼ同時に、第4のヴァージョンともいうべき映画ノベライズも出版されました。パラパラッと見た限り、これまた映画とけっこう異なる仕様となっている感じで・・・・
さすがにわたしも少し疲れてきました(笑)。文庫化されたくらいのころに気が向いたら読んでみようと思います。
Comments
墨攻めって、なんか逆にテンション上がりそうですね。
お正月の羽根突きみたいな感じで。(←ポジティブ)
さすが原作をどちらも読まれているSGAさんだけあって
なるほどぉ~!と興味深く読ませて頂きました。
逸悦、原作にはいないキャラなのかー
強引な恋愛模様の結末がアレでなかったら
さらに反感を抱いてしまったと思います。
結局、原作マンガは文庫本のを購入してみました。
まだ読んではいないのですけど、パラパラっとめくってみたところ
かなり漢気溢れる絵柄、革離もアンディ・ラウとは
似ても似つかぬビジュアルですねw
Posted by: kenko | February 15, 2007 at 02:38 PM
毎度ありがとうございます
>墨攻めって、なんか逆にテンション上がりそうですね。
そうですね。真っ黒な液体がこうドバーッと流れてきたら、意外と気持ちいいかもしれません。バラエティ番組の罰ゲームみたいで
>逸悦、原作にはいないキャラなのかー
へい。ただ第二部には別にヒロインらしいキャラが出てきます。名前は「娘(にゃん)」 ・・・・ってこれ名前じゃないよ!
>革離もアンディ・ラウとは
似ても似つかぬビジュアルですねw
このハゲチャビンのおっさんが非常にかっこよく見えるところが、このマンガのいいところなんですねー
やはりここは、竹中直人に出張ってもらったほうが良かったか?
Posted by: SGA屋伍一 | February 15, 2007 at 06:13 PM
「墨攻め」に笑いがとまりません。おかげで本文を読めませんごめんなさい。
Posted by: Akimbo | February 16, 2007 at 11:54 AM
・・・・それはわたしの「勝ち」という解釈でよろしいのですね?
現実の戦争もこうやって笑いで解決できたらなあ(無理か)
Posted by: SGA屋伍一 | February 16, 2007 at 06:21 PM
こんばんは!いつもありがとうございます!
遅ればせながら、数あるブログの中でも、今回のこの題、「軍団ひとり」は、ベストだと思います!
原作、漫画とは、ちょっと違ったようですが、
「猫でも解る墨家」という感じで、良かったです。
Posted by: 猫姫少佐現品限り | February 26, 2007 at 02:46 AM
おはようございます! 今日も一日だらだらがんばります!
>数あるブログの中でも、今回のこの題、「軍団ひとり」は、ベストだと思います!
ありがとうございます。ライブドアトップランカーの猫姫さんに評価いただき、まことに光栄にござります
>「猫でも解る墨家」
「つまりみんなを愛さなきゃいけないのニャ」
「思いっきり殺しまくってなかったかニャ?」
「それは時と場合によるのニャ」
・・・・・ニャー
Posted by: SGA屋伍一 | February 26, 2007 at 08:23 AM
…はははははは。
レンタルしたんで昨夜見ました。
…なんつー、救いのない話でしょうねー(笑)
でも、あの女将軍(馬に乗ってると明らかにちっこくてちと情けない)、オリキャラだったんどすか。やっぱりねぇ(明らかに酒見ワールドじゃないもんなあ、言われてみれば)。
ハリウッド風に?主人公にロマンスを用意してみたものの、
・ヒロインが脱がない
・ヒロインが救われない
だめじゃーん!(笑)
中国の「HERO」といい、韓国の「王の男」といい、どーしてこーも、映画という媒体で、クソバカ真面目なものを作るかなー。「HERO」は、ありゃ絶対にハリウッドには絶対理解不可能な話だし(「グリーン・デスティニー」なんぞよりよっぽどいい映画だが。表現方法は「白髪三千丈」の世界をまんまCGで描いたおバカ映像だけど。)、「王の男」だって、「芸の道とは何ぞや!」を命を賭けて追求し滅びていった芸人2人の話であって、ちっともゲイの話じゃないし。
(「PROMISE」だって、これまたハリウッド人種には理解しがたい無間の世界だしなー)
ああでも、兼愛思想と個人の愛というくだりは(やけに惚れっぽいヒロインなれど)ちと感動した。
あの最後の方で火をかけられた将軍、アン・ソンギ(フロム韓国)は、ベトナム戦争の時の砲兵将校。…奴は、ホンモノです(笑)。どーりで、戦闘服での表情が…
とまれ、時間がないんで『ハリー・ポッターと謎のプリンス』上巻を読みながらの鑑賞だったんで、こんなもので悪しからず(相方は真面目に見ていて、「なかなか面白かった。ヒロインが大塚寧々みたい」だそうですが)。
Posted by: 高野正宗 | August 26, 2007 at 12:25 PM
>高野正宗さま
>(明らかに酒見ワールドじゃないもんなあ、
ですねえ。酒見ワールドっても少し軽快ですもんね。そういう意味ではマンガ版もちょっと違うんですけど
ヒロインが少女漫画してるあたりは酒見っぽい気もします
脱がないのもきっと原作者へのリスペクトなんですよ、きっと
でも映画の原作者って森秀樹なのか? ああ、ややこしい・・・
中華系の映画ってよく登場人物の考え方についていけないことがあります。すっかりハリウッドに慣らされてしまったということなのか
全部ってわけじゃなく、ジョン・ウーやチャウ・シンチー、『インファナル・アフェア』などはよくわかるんですよ。でもツイ・ハークや『グリーン・ディステニー』は全く理解不能ですね(笑) 『HERO』はギリギリ理解できました
で、『墨攻』はキャラの思考についてはまあまあわかるんですけど、>クソバカ真面目なものを作るかなー。とおっしゃる高野様と同様、「結局なんの意味があったのだろう」と思えるところが5、6箇所はありました
ただ「墨家」の存在を一般に知らしめたとういう点では評価しています
相方さんって他には『グラディエーター』『トロイ』『インファナル・アフェア』などが好きでしたよね ・・・・可哀相な話が好みなんでしょうか(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | August 27, 2007 at 10:38 AM
見ました、はい真面目に書こうと思っていましたが
「となりの801ちゃん2」で彼氏が墨攻を「城攻めがすごい」と言ったら
彼女が、
「鯱(シャチ)が白鷺(しろさぎ)を銜(くわ)え込んだ?」
なんてキン肉マンのネタを持ち出しました。
すいません、このネタにやられましたw
キン肉マンにそんなネタあったような気もしますが、よく思い出しまし
たな、そんなネタw
この801ちゃんの壊れっぷりが可愛くてw
エウレカのドミニクをドMニクなんて言ってるしw
(アナモネに踏まれるから)
お母さんも「あら鬼太郎ってオダギリジョーじゃなかったかしら?」
お母さんそれは蟲の方ですw
私は笑いましたが、これを笑えるかどうかで線引きができると
思います。801を知らなくても読めます。
引かないでー
なんか温かい目でこの本を読んでいます、、、、、、。
Posted by: 犬塚志乃 | November 01, 2007 at 09:57 PM
>犬塚志乃さま
こっちも色々忘れてるな・・・ キン肉マンにそんなネタがあったことも思い出せません。わたしが読んだのって超人オリンピックから夢の超人タッグのあたりまでなんで、そこ以外に出てたんでしょうか。あるいは記憶障害の前兆か
801ちゃんは面白そうなんでブックオフで見かけたら読んじゃうかもしれません。でもその前に『腐女子彼女』を読んでおくのがスジってもんでしょうか
Posted by: SGA屋伍一 | November 02, 2007 at 08:06 AM
こんにちは!
TB&コメントありがとうございました。
原作も読まれているんですね~流石ですぅ~
これはもしかしたら漫画の方が100倍面白いんじゃーないでしょうか。日本の方が書かれているんですもの(笑)
映画は、『大陸の人たちって、どうしてこう「やりきれない話」が好きなんでしょうね』ってところでしょうねぇ~
どうも鑑賞後の後味がよろしくありませんでした。
誰も幸せになっていないなんて・・・虚しいわ~ん。
いくら墨家の思想が忽然と途絶えたものだったとしても、革離ちゃんの必死の戦いにちっちゃい花を咲かせて貰いたかったです。
Posted by: 由香 | December 08, 2007 at 03:29 PM
>由香さま
こちらにもコメントありがとうございます
>漫画の方が100倍面白いんじゃーないでしょうか
ま、「100倍」は大げさとしても、十倍は面白い、というかスカッとしますね。革離のやったこともそれなりに報われるし、よくわからんヒロインも出てこないし。満喫などで気が向いたらぜひどうぞ
>『大陸の人たちって、どうしてこう「やりきれない話」が好きなんでしょうね』ってところでしょうねぇ~
日本の映画だと悲しい話でもそれなりに「意味」を持たせようとしますからね。ほかに最近では韓国の『JSA』『シルミド』なんかがひどかった。いえ、内容的には見ごたえあるんですけど、見終わったあとその場から動けなくなるくらいがっくりきました。それに比べれば『墨攻』はショック、というほどでもなかったかな
>離ちゃんの必死の戦いにちっちゃい花を咲かせて貰いたかったです。
まあ強いていうなら謎の外人が一人助かった、ってことくらいかな。あいつ原作ではもっとえげつないキャラなんですよー
Posted by: SGA屋伍一 | December 08, 2007 at 08:44 PM
>大陸の人たちって、どうしてこう「やりきれない話」が好きなんでしょうね・・・
●孟子の教え
春秋に義戦なし(春秋時代の戦いには正しい戦いは1つもない)
●中国のことわざ
良い鉄は釘にならない(良い人は兵にならない)
他にもありますが、大陸の人は戦いを否定的に見る教えが
多い気がします。
だから「やりきれない話」になったのではないでしょうか。
武道家も、どちらかというと精神論を説いている気がしますし。
関羽も「関羽がは、劉備の事を忘れずに忠義を尽し
戻ったことがエライのです」と華雄や顔良、文醜を討ちとった
ことよりも劉備へ尽した精神を説いている人が多いですし。
『墨攻』も、墨子の教えは「非戦と博愛」がモットーなので
原作の「墨家最高!」という考えはいかにも日本人的な考え
だと思います。
「墨攻」は「墨守」っていう言葉から創ったみたいですしね。
墨子の考えは基本「守」なのではないでしょうか?
世界ふしぎ発見で「墨子の考えと儒教の考えは正反対」
と言っていましたが、『墨攻』の悲劇も革離と梁の王と
考えが合わなかった事も一因かもしれません。
儒教は君主の教えですし、梁の王も儒教信奉者だった
かもしれません。
・・・原作で墨家の中にいる悪人を「儒者くずれ」と呼んで
いたような気がします・・・革離と梁王は考えが合わない
かもしれません。
儒教と墨家の考えを足して2で割ったり、
儒教と墨家の教えの間を都合により行ったり
来たり、真ん中にいたりするのがちょうど良いと思います。
こういう柔らかい考えの人はうまくいってる気がしますし。
Posted by: 犬塚志乃 | January 02, 2010 at 06:54 PM