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February 23, 2007

アニメーションは電気仕掛けの夢を見せるか? 筒井康隆・今敏 『パプリカ』

20070223192344筒井康隆のSF小説を、日本アニメ界の鬼才、今敏が映画化。地方なんで首都圏よりやや遅れての公開でした。

近未来、人の夢を映像にし、かつその中に干渉できる画期的なマシン「DCミニ」が開発される。開発チームの一人千葉敦子は、夢探偵「パプリカ」として夢に入り込むことにより、精神的な障害を抱える人々を治療しようと試みていた。だがまだ開発途上の「DCミニ」が何者かにより盗まれるという事件が発生。そして誰かの妄想が、個人の頭脳を越えて、他の者の脳にまで侵食を始めるという事態に進展。「パプリカ」は果たして夢の暴走を食い止めることができるか。

原作が発表された当時、筒井先生はさもないことに腹を立て、「もう物書きなんざやめちゃるわい!」と断筆を宣言。それが話題を呼んでか、けっこうベストセラーの上位に食い込んでいた記憶があります。先の『時をかける少女』が筒井キャリアの中ではかなりイレギュラーな作品だったのに対し、こちらはかなり筒井氏本来の色が出た映画となりました。それでもまだまだ上品にアレンジされてるようですが。

“昨日みた 夢の話を 得意げに話すヤツがいる
(略) そりゃああんたは 自分で見たからいいけど 聞きたくもない そんなわけのわからん話”
これは嘉門達夫の名曲「夢の話」(ってなタイトルだったと思う)の一節。確かに自慢話、ノロケ話とならんで、人の夢の話というのは一流の表現者が話すのでもないかぎり、聞いていてあまり面白くないものです。
断片的な言葉で聞かされたところで、夢というのはしょせんそれを見た人にしかわからない。他者にとってはおおよそ役にも立たない、理解不能な話でしかありません。
しかしもし人の夢を実際に画面で見ることが出来たなら、それがどんなものなのかはっきり理解できる・・・「夢を共有する」ことができるでしょう。そして何よりかなり面白い経験ができそうな気がします。この『パプリカ』はそんなわたしたちの「夢」をかなえてくれる映画です。

作品の中で、あるキャラクターが様々な名画の中を脈絡もなく移動していく場面があります。そんなシーンから思うのは、「映画と夢は似ている」ということ。いいものもあり、悪いものもあり。現実的なものもあり、突拍子もないものもあり。いいものの場合は、せちがらい現実を一時の間忘れさせ、わたしたちに楽しい思いをさせてくれます。ただ、映画には夢よりもいいところがあります。それはよほどのことがない限り、いきなり「ブツッ」と終ったりしないこと。いやあ、映画って本当にいいものですね(笑)。
『パプリカ』の男たちは夢に飲み込まれ、自分を見失ってしまいます。そんなダメ男たちをヒロインは懸命に夢から引き戻そうと奮闘します。「男は夢を見、女は現実を見るもの」 このあたりに筒井先生のそんな男性観・女性観が現れてるような気がします。

この映画は「狂気」をテーマにした作品でもあります。しかしこの「狂気」が、なんとも言えないくらい楽しい。これまた言葉では説明しにくいんですけど、冷蔵庫やポストが身をくねらせて歌をうたいながら、往来を行進していたりします。「狂気」がこんなに明るく楽しくていいんでしょうか? まあ、たまにはいいかもね(笑)

音楽は平沢進氏。そういえば自分、この人の歌声に魅せられてアニメ『ベルセルク』のサントラを買ってしまったことがあったっけ。その後すっかり忘れてましたけど、この作品で再会できたのは僥倖でした。さらにラッキーなことに映画のメインテーマである『白虎野の娘』が現在無料配信中。“惜しげもなく「放出すべし」と言い放つ作者・平沢進の意志を受け、ここに無料配信が実現しました!! ” キャー! 平沢さん太っ腹! ステキー! でも生活大丈夫? ・・・・ま、未体験の方は一度その独特の世界をその耳で味わってみてください。
http://teslakite.com/freemp3s/paprika/

20070223193300さて、まだもし筒井作品がアニメ化されるとしたなら、次は何がくるでしょう? 「ヒロインもの」ということで、恐らく「七瀬三部作」あたりが妥当なところかと思われますが、個人的にはショート・ショート集『にぎやかな未来』をオムニバス形式でお願いしたい。きっとすげー怖くて、忙しい作品になるような気がします。


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Comments

>アニメーションは電気仕掛けの夢を見せるか

上手い!いちいち上手い!!いちいち褒めてすいません!

筒井康隆さんの小説は一冊たりとも読んだことないんです。
これは上品にアレンジされてる方なのね。

冷蔵庫やポストの行進はマンガ的で一見楽しいのだけど、
その取り留めの無さ、意味の無さがこの上なく気味悪くもあり、
他人の夢をホントに観ることができたら、こんななんとも言えない気持ちになるのかぁと思いました。

平沢さんて自分で歌を歌われたりもするのですね。
ベルセルクの頃から、SGAさんをも魅了するステキな音楽を世に放出されていたのかー

夢オチを危惧するSGAさん、なぜにグラサンかけてるの?
まさか、3D上映??

Posted by: kenko | February 24, 2007 at 08:25 PM

>いちいち褒めてすいません!

いえいえ! こちらこそ毎度褒めて下さってすいません!

>これは上品にアレンジされてる方なのね

実はわたしも原作は未読なんですけど、評判を聞くとかなり18禁入った内容のようです。ですからアニメの方はなるたけそういう部分を抜きつつも、かつ筒井色をしっかりと残したアレンジ・・・ということですね。筒井作品では『乱調文学大辞典』という本がオススメです。まだ普通に手に入るかな

>その取り留めの無さ、意味の無さがこの上なく気味悪くもあり、

こういう意見も多いようですね。でも自分はひたすら楽しかったです。すでに脳が侵されているのやもしれません。うひひ(危)

>SGAさんをも魅了するステキな音楽を世に放出されていたのかー

そう、こんな音楽センス皆無の人間にすら「むむ!」と思わせる力があったのですよ。三浦健太郎先生も非常に高く買ってるそうです

>なぜにグラサンかけてるの?

ヒーローは常に素顔を隠しておくものなのですよ。ふふふ・・・・

Posted by: SGA屋伍一 | February 24, 2007 at 09:25 PM

こんばんは、SGA屋伍一さん☆
>アニメーションは電気仕掛けの夢を見るか
おおっと!いきなり、P.K.ディックと来ましたか♪
私もこの映画を見て、電気仕掛けの夢を他人と共有してみたくなりました☆
心理の深淵まで覗くと、誰しも、割と狂気に近い世界のような気がしてしまいますねー。
理論や屁理屈などなく、まんま希望やトラウマが出て来る。
そう考えただけでも、恐ろしくなりますね☆

パプリカちゃんが本当かわいかったですね!
あんな素敵な女性が、自分の夢の中に現れたら、さぞかし妄想レベルも上がってしまいそうです。原作なんか、そこら辺、思いっきし男性の好みを実現していましたヨ。
原作の感想もTBさせていただきますね。

Posted by: とらねこ | February 25, 2007 at 01:55 AM

こんばんわ。

ぬお!!
今回のイラストはいつもと違って少女マンガ風味!!
昔流行の劇画タッチにも見えますが・・・違いますでしょうか!?
一応、わたくし、漫画家志望でした。

ちなみに本編のパプリカよりも、SGA屋伍一さんのパプリカの方が
私は好き。妖艶な大人の匂いがプンプンいたします。

いつもながらに素晴らしいレビューで感服。
私にはこれ以上どう言及すべきか分かりませんが・・・
私もこういった狂気世界は好きです。

Posted by: 睦月 | February 25, 2007 at 02:33 AM

>とらねこ様

お返事ありがとうございます

>心理の深淵まで覗くと、誰しも、割と狂気に近い世界のような気がしてしまいますねー

なるほど。特に現代人は色々抑圧されてることが多そうですしね・・・ 夢の中でそいつを発散してたりするのでしょうか(と、他人事のように)
夢を見られるということは裸を見られるようなものかもしれません。そう考えると怖いですね。まあ現在の技術では心配するこたないでしょうけど
そういえば夢日記を毎日つけてると狂ってしまう、なんて話も聞いたことあります((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル

>パプリカちゃんが本当かわいかったですね!

素の敦子さんもパプリカさんも、全然違うタイプなのにボーイッシュで、その半面艶っぽさもあって・・・ 確かに魅力的なヒロインでした
原作記事も読ませていただきました。やはりそちらはやりたい放題のようですね(笑)。ま、この「毒」こそが筒井康隆の真骨頂なんですけど

Posted by: SGA屋伍一 | February 25, 2007 at 10:17 PM

>睦月さま

お返事ありがとうございます

>今回のイラストはいつもと違って少女マンガ風味!!

そう見えましたとですか・・・・ 恐れ多くも天野喜孝の画風を少し意識したかもです。天野ファンが聞いたら怒られそうだ・・・・

一応映画のカットを見てから書いたんですけど、「なんかネコっぽかったな。ネコネコネコ」と思いながら書いたらこんな妖怪猫娘のような感じになってしまいました

パプリカさんはなんとなく70年代的な空気を漂わせていますね。そういえば映画も当時のサイケデリックアートとか意識しているような気が・・・(毎度強引だなあ)

>私もこういった狂気世界は好きです

「狂った世界を見せてくれる」という点では、映画はドラッグとも似てるかもしれません。依存症も後遺症もない分健康的・・・・ いや、あるかな?

Posted by: SGA屋伍一 | February 25, 2007 at 10:26 PM

お邪魔します。
ちょっと映画に乗りきれず、気の抜けた感想を書きましたがTBさせて下さいね。
映画を観る前に原作を読みましたが、そっちの方が面白かったです。
『筒井先生の男性観・女性観』もくっきりはっきりしていて、結構楽しめました。
七瀬シリーズ懐かしいです。大昔に読んだわ~
自分が彼女のような能力の持主だと、暫く妄想して喜んでいました~(笑)

Posted by: 由香 | August 29, 2007 at 02:32 PM

>由香さま

コメントありがとうございます。TBは・・・またココログの具合が悪いのかな・・・ どうもすいません

原作に関してはとらねこ様のレビューを読みましたが、かなりエロが入っている上に「女性からはほとんど支持されなかった」とか。それを堂々と「面白かった」と言い切る由香さまはスゴイ(笑)! 
筒井先生の作品には女性がひどい目にあう話がけっこうありますけど、同じくらい男性が酷い目にあう話もいっぱいあるので、そういう意味では男女平等なんでしょうね

>七瀬シリーズ

わたしはね、不安になりましたよ。女性と話してて相手の機嫌が急に悪くなったりすると、「もしかしてココロを読まれたか?」なんて思っちゃったりして(^^;)

Posted by: SGA屋伍一 | August 29, 2007 at 09:13 PM

SGAさんこんばんわ♪TB&コメント有難うございました♪

楽しい狂気と言うのは言い得て妙ですね。他人の夢を侵食する不気味なイメージとして描かれてはいますが、和洋が入り混じった彫像や、冷蔵庫・ポストが大名行列のようにドンちゃん騒ぎながら練り歩く姿は端から見れば面白いですからね~。・・むしろ不気味だったのは最後にデイダラボッチみたいな巨人になった理事長の姿でしたねw

筒井作品は肌に合わないのか、個人的に少々イマイチな評価だったパプリカですが、時をかける少女はまだ未見なので、今度はそちらの方を観てみたいと思います。

Posted by: メビウス | November 16, 2008 at 01:52 AM

>メビウスさま

お返しありがとうございます
この映画見たのは去年の二月だったからかれこれ二年近く前になりますね
でもくねくねしながら歩く冷蔵庫や郵便ポストの大名行列は、今でもはっきり覚えています
実はこの映画でちょっと腑に落ちなかったのが理事長関係なんですよね。なんかよくわからんまま、力技で締めくられてしまったようで
しかしこのイマジネーションの大洪水は、やはり半端なもんじゃなく、ただただ感心するばかりでした

>時をかける少女はまだ未見なので、今度はそちらの方を観てみたいと思います。

ぜひぜひ。あれは筒井康隆作品じゃないです。まごうかたなき細田守作品です
見るとあんまりにも甘酸っぺえ気持ちになるので、まだ一回しか見られてません

Posted by: SGA屋伍一 | November 16, 2008 at 07:10 PM

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