浪漫非攻 酒見賢一・森秀樹 『墨攻』
攻めて!攻めて!攻めて!攻めて! や・め・て や・め・て や・め・・・・ おっと、これは『KOME KOME WAR』だったな。
現在映画公開中のふたつの原作について、今日は説明いたします。
時は(中国の方の)戦国時代。強国趙は隣国である燕へと軍を進める。その途上にある城・遼の命運は、まさに風前のともし火であった。そこで城主は「弱きを助ける」という噂の戦闘ボランティア団体「墨家」に助力を請う。しかし墨家からやってきたのは、ただひとりの男のみであった。
「墨家」については本当にちょびっとだけ、世界史の授業で習いました。思想家・墨子を祖とする集団で、「非攻」「兼愛」を人々に説いたと言います。要するにラブ&ピースを重んじる古代のNGOみたいなものか、と思いきや、墨家さんたちは戦闘にも意欲的だったというからよくわかりません。実際、よくわからないところが多いらしいです。
わたしが足りない頭で理解したところでは、その思想は「強者が弱者を攻撃するのはいけない。それに対し弱者が抵抗するのは正しい」というものだったようです。だから墨家は弱者を全力をもって助けます。口でいうのは簡単ですが、これ相当大変なことなんではないでしょうか。
この『墨家』を題材にまず小説『墨攻』を書いたのが、『後宮小説』で人気を得た酒見賢一氏。内容はまあ上にあるように、古代中国版「ひとり七人の侍」という感じです。この小説をもとにビッグコミックオリジナルでマンガ版が連載されました。作画は『青空しょって』というゴルフ漫画を描いていた森秀樹氏。そして「シナリオ協力」として久保田千太郎氏の名もクレジットされています。「シナリオ協力」で表紙に掲げられる例ってかなり異例のことだと思うのですが、久保田氏にはそれほどのネームバリューがあったのでしょうか(失礼御容赦)
さて、原点の方は酒見氏の持ち味の一つである「皮肉っぽさ」がかなり前面に出た作品となっています。それに対し、漫画版は男節大全開の豪快で骨太なお話。こんな手があったのか、とうならせられる数々のアイデア。確かなデッサンと画面構成力。それこそ映画顔負けの迫力で、連載当時「なんでこんなにスゴイ漫画があんまり話題にならないのだー うがー」と不満のあまりゴロゴロ転げまわったものです。恐らくいま公開の映画が堂々と「漫画原作」と言っちゃってる(いいのかなあ)のも、このスペクタクル感が、アジアの武侠大好き野郎どものハートをぐっさり射止めてしまったからではないかと思われます。
漫画版は単行本4巻ほどで原作部分を消化。その後は久保田氏の名も表紙から消え、森氏のオリジナル展開に突入します。この「第二部」、それなりに面白くはあるものの、どうも完成度や迫力の点で、第1部には及ばなかったような。そんなことからもわかるように、このマンガ版『墨攻』前半は、各クリエイターたちのセッションが非常にうまくいった例と言えるのでは。その後メンバーの誰かが欠けたヴァージョンを聞いたとしたなら、物足りなく思えるのは仕方なきことやもしれません。
『墨攻』漫画版は現在小学館文庫の全8巻ヴァージョンが手に入りやすい模様。また第一部のみ廉価版も全三冊で発行される予定(現在二巻目まで刊行)。
原点である小説版は新潮文庫より出てます。ここのところ品切れだったみたいですが、ちょいと重版かかったようなので、読みたい方はオンラインなどでお早めにどうぞ。
そして話題の劇場版も今日観てまいりました。これまたかなり印象が異なる仕上がりでして・・・・ 近日中にレビューいたします。
Comments
戦闘ボランティア団体って・・・確かにそうですけどwww
『後宮小説』は母親に薦められて、面白く読んだ記憶があります。
『墨攻』ですが、SGAさん的には小説版とマンガ版、やはりマンガ版の方がお好みなのでしょうか?ゴロゴロ転げまわるくらいだし。
マンガの方を読んでやるべく探しているのですがなかなか見つからないので、いいかげんamazonなどで購入しようと思います。
でも第2部の完成度がいまひとつならば、第1部の廉価版全3冊だけにしようかな。。。
Posted by: kenko | February 13, 2007 04:19 PM
>やはりマンガ版の方がお好みなのでしょうか?ゴロゴロ転げまわるくらいだし。
はい。断然マンガ版の方が好きです。実は小説版とマンガ版では結末も違ったりしてまして・・・ とにかくマンガ版は「すげえ!」の一言です
>第2部
確かに「原作付き」部分と比べるとやや見劣りはしますが、「がた落ち」というほどでもないので、革離氏のその後が気になるならば読んでおいて損はないと思います
特に結末部分はかなり強引ながら、大したインパクトでございました
Posted by: SGA屋伍一 | February 13, 2007 06:44 PM