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January 12, 2007

合体魔神アンドロゴッズ 宇月原晴明 『信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』

20070112165202本日は直木賞ノミネートが記憶に新しい宇月原晴明氏の、デビュー作にして第11回日本ファンタジーノベル大賞受賞作を紹介いたします。

1930年、ベルリン。うらぶれた詩人兼役者のアンリ・アルトーの前に、一人の日本人青年が現れる。彼の名は総見寺龍彦。シリア皇帝ヘリオガルバスについて著した、アルトーの文章に興味を抱いたと語る総見寺。彼はさらに日本の中世に、ヘリオガルバスの相似形とも言えるアナーキストが存在したことを告げる。その人物とは戦国の覇王、織田信長。古代シリア、中世の日本、そして20世紀のベルリン。両性具有、アナーキズム、牛頭天王、霊石・・・・ 三つの時空が様々なキーワードによりひとつにつながったとき、アルトーの現実は穏やかに崩壊していく。

・・・・こう書くと近代欧州が中心の物語のような感じがしますが、本作品のメインはあくまで日本の戦国時代、そして織田信長です。いままで信長についてはそれこそ数限りない本が書かれてきましたが、宇月原氏は史書を大胆かつ自在に駆使して、とびきり独創的かつ幻想的な信長伝を創り上げました。そのひとつが、なんと信長は両性具有者(アンドロギュヌスとゆーそーです)だったという設定。そんなわけで文中ではしつこいくらいに信長を「美しい美しい」と褒め称えます。そういえば最近佐藤賢一氏も「信長は実は女だった!」て話を書いてました。うーむ。まあ、これが秀吉とか家康とかだったらどうにも納得いきませんが、信長だったらギリギリ「有り」な気がします。それくらい彼の人生はドラマティックで、「絵になる」ものだったということなのでしょう。
この手の「耽美派」小説として変っているのは、頻繁に史書の文章が挿入されているところ。ホラ話とは百も承知していながら、こういう補強があると、脳裏のイメージが俄然具体性を帯びて参ります。

わたしが抱いた印象は、単純ですが、「優しい、そして悲しい小説だなあ」というもの。秀吉、光秀、信玄、謙信・・・この本には信長の他にもキラ星のごとき戦国の群雄たちが多数登場いたします。信長を主人公とするなら誰か一人くらいは悪役にされそうなものですが、宇月原氏はそれらの英傑たちすべてを、深い喪失感を抱いた人物として描きます(あの今川義元でさえも!)。名だたる武人も草莽の民も、ただ生きていくだけでは心満たされず、まぶしい何かを追い求めます。それは天下であったり、名誉であったり、二つとないお宝だったり、一人の女性であったり。しかしその願いをかなえることは非常に困難かつ犠牲がともなうため、彼らの生き様は悲しいものにならざるをえません。
ある望みのために、行く手を血と炎でうずめていく信長。その望みとは果たしてなんだったのでしょうか?

極めて個性的な作風ゆえ、「誰でも楽しめる」という作品ではございません。「ついてこれるやつだけついてこい!」そんな意気が感じられます。しかし歴史に幻想を求める人ならば、この語りについていくことは容易でしょう。

20070112165327本書をご教授してくださった高野正宗さまによりますと(http://masamunet.seesaa.net/article/15782598.html)、宇月原氏の戦国ロマンはさらに『聚楽 太閤の錬金窟』 『黎明に叛くもの』と続いていくとのこと。『聚楽』は文庫化もされてるようだし、また落ち着いたら手にとってみましょうか。

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Comments

おはやうございます。
TBさせて頂きましたウフv
えー、結論から申し上げますと、
「早く『聚楽』も読んでねv」(今日はとことんキモチワルイな)
私の記事の方にも書いてありますが、『信長』がアルトー、『聚楽』が山田風太郎、『黎明に叛くもの』は司馬遼太郎へのオマージュ、という非常に豪華なラインナップとなっております。それだけご自分の手腕に自信があるのでしょうし、実際豪腕だなと思います。こういう方には大事に投げて頂きたいし、実際…寡作だ(笑)
この『信長』でアントナン・アルトーに興味を持ち、実際に、『ヘリオガバルス あるいは戴冠せるアンドロギュノス』(多田智満子訳、フランス文学といえば白水社)を読んでみたのですが、こちらもなかなか面白かったです。
このヘリちゃんの話を相方にしたところ、「よくそんなマイナーな人知ってるねえ」ということで、ローマ帝国最末期についてひとくさり講義されました…。
澁澤龍彦もヘリオガバルスについては確か書いていたはずで、澁澤氏の死後編まれたムックでは東雅夫さん(響鬼ものはもうやめれ)が、『信長』を絶賛して宇月原氏を澁澤氏の後継者の一人に挙げています。
何の気なしに、確か書評で目にして手に取った著者ですが、その後澁澤作品に再び手をつけるきっかけになるなど、また妙な方向に世界を広げてくれた作家ですねぇ。
多田智満子さんというのも澁澤氏が非常に高く評価したフランス文学者で、この人が訳して、澁澤氏が度々言及していた、マルグリット・ユルスナール『ハドリアヌス帝の回想』も読んでみたら…後で読書記録を見たら、以前にも読んでたのに忘れていたことが判明。いい加減な記憶だなぁ。
とまれ、色々とやってはみるもんですな。
『聚楽』が今のところ一番好きな話かな。せつないんですよ。山風『妖説太閤記』と表裏一体として読んでも面白い。
ちょーど去年は秀次が成宮君で(相方は逆に彼を見ると「秀次じゃん」と言う)、彼で想像して読んでかなりオッケーでした。淀はロリじゃないけど。
『黎明に叛くもの』は、信長の時代に戻って更にスケールアップした感じ。ボリュームもありますが読み甲斐もある。
オートマタ(自動人形)に稚児ネタと、腐女子好みのネタを配してはおりますが、腐女子なんぞはミサイルに吹っ飛ばされる如くひれ伏す内容かと。
体裁としては1冊本がお勧めですが、簡易なのはノベルス版の分冊。但し後者はやおい同人誌みたいな表紙イラストなのが残念。なのに1冊ずつに外伝(これもちとやおいチックな)が収録されている鬼な版。
平蜘蛛の釜ネタでは『伊賀忍法帖』を思い出します。
初期から澁澤氏の影響を受けている宇月原氏ですが、正面から『高丘親王航海記』へのオマージュとして書いたのが『安徳天皇漂海記』。これはもう、何とも、平仮名で「かなしい」と書くのが一番というか…是非『高丘親王』と一緒にお読み頂きたく。
(佐藤氏『女信長』は冒頭数ページを図書館で立ち読みして放り出しました)
とまあ、人には課題を投げつけておいてブログをサボっている高野でした。

Posted by: 高野正宗 | January 13, 2007 10:12 AM

えー、まずは思い切りふざけた記事タイトルをお許しいただきたい・・・

>『聚楽』
がんばります。その前に『妖説太閤記』を読んでおきたいんですが、どうも紛失したか母に捨てられた模様・・・ 古本屋で探そう
孤高の作風、という感じの宇月原氏ですけど、司馬・山風とメジャーどころからけっこう影響受けてるんですね。こういう風に先達へのリスペクトを隠さないところは好感が持てます

>アルトー&ヘリオガルバス
はこの作品で初めて名前を知りました。と言うか、読まなければ知ることもなかったかも・・・・
前衛芸術に関しては本当に上っ面だけならったことありますが、アルトーの名は記憶にないなあ(しかしこの人気の毒・・・)。シリアの方はパルミラの女王ゼノビアくらいしか名前が浮かびません

>澁澤
古今東西の異形ネタを色々引っ張り出して楽しげに語るところはまさしく澁澤調ですね(ろくに読んでないくせに・・・)
そういえば少し前の東氏のブログに、澁澤さん宅の訪問記がUPされてました。この方も古典方面では普通にいい仕事してるのに、どうして響鬼のこととなると冷静さを失うのか・・・って危ない危ない(^^;)

気力が持てば今晩にでもお返しコメント&TB入れさせていただきます。もたなかったらスイマセン


Posted by: SGA屋伍一 | January 13, 2007 06:30 PM

 「女信長」があると思ったら両性具有も
あるとは!
 秀吉や家康では女性化は無理でしょうか?
去年の大河のスタッフで想像してみましょう。
 かなり美しくないですねw
 「女信長」の佐藤賢一先生はローマ物が
有名ですがカエサルをコンプレックス持ちのハゲ
に設定したそうです。
 ならミッチーはどんな風に表現されているか楽しみ
です。
 「ミッチー、神に愛されなかった男」と神にすら
愛されなくなったミッチーですが不幸で輝く人も
いるということです。
 がんばれ

Posted by: 犬塚志乃 | January 19, 2007 10:45 PM

>秀吉や家康では女性化は無理でしょうか?

無理・・・というか見たくありません。舘ひろしでもきついものがあります

>佐藤賢一先生

興味はあるんですが、『ジャガーになった男』くらいしか読んでませんね。福田和博氏がなんでか酷評してました

>ミッチー

この人は「裏切り者」「逆臣」というのが世間一般のイメージだと思うんですが、近年は同情的な作品が多いですね。マンガ『センゴク』でもそんな感じです

Posted by: SGA屋伍一 | January 20, 2007 09:31 PM

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Tracked on January 13, 2007 09:51 AM

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