父親たちの日の丸 クリント・イーストウッド 『硫黄島からの手紙』
クリント・イーストウッドの手による「硫黄島二部作」B-SIDE。A-SIDE『父親たちの星条旗』のレビューはこちら↓
http://sga851.cocolog-izu.com/sga/2006/11/post_a7ec.html
太平洋戦争末期の硫黄島。本土へと押し寄せる米艦隊を食い止めるべく、兵士たちは様々な思いを抱きながら、ひたすら穴を掘ったり掘らせたりしていた。軍部への反感と、残してきた妻への思いを胸に抱く西郷。国家のために散ることに何の迷いもない伊藤。憲兵隊から転属されてきた謎多き男、清水。そして戦況に絶望しつつも、家族のため最善を尽くそうと誓う司令官、栗林。劣悪な環境や軍部内の軋轢などで緊張が高まる中、ついに艦隊はやってきた。
実は『父親たちの~』が個人的にそれほどでもなかった(悪くもなかったけど)んで、鑑賞意欲がやや下がり気味でした。でも観にいって良かったです。やっぱりこっちのほうが日本人には感情移入しやすい(笑)。あと、A-SIDEが安全圏から戦地を回想するという流れなのに対し、こちらはずーっと「いつ死んでもおかしくない。つーか、死んで当たり前」という話ですから、観ていてつい手に力が入ろうというもの。
それでもやはりこの二部作は、両方見ておいたほうがいいと思います。『硫黄島からの~』だけしか観ないと、「攻めてくる側だってけっこう怖かったんだよ!」ということがわかりませんから。幾ら圧倒的に数が多くても、そこは戦争。前線にいる兵士たちは誰とて生きて帰れる保証はないわけです。逆に『父親たちの~』だけしか観ないと、日本人たちが感情も恐れも無い、理解不能の殺戮者のように感じられます。
思うに近代戦の恐ろしさっていうのはこの「相手の顔が見えない」「離れていても人を殺せる」ところにあるんじゃないでしょうかね。相手の顔が見えない→人間ではない、得体の知れない怪物に思えてくる→殺戮に歯止めがかからなくなる・・・・ そういう流れを作ってしまう責任は、概ね国家にあるわけですが。
最も顔が見えたらすぐ和解できるわけではありません。言葉も通じないとダメです。作中で起こる兵士の悲劇は、彼が英語を話せたらまた違った結果になったんではないかなあと、勝手に思うのでした。
ベトナムや湾岸と違い、太平洋戦争は紛れもなくアメリカにとって「正義の戦争」でした。ですから通例この手の映画では日本人は悪者扱いされます(いい例が『パール・ハーバー』)。ですが『硫黄島からの手紙』は、かなりこちらから観て公平な映画になってると感じました。というか、クリントさん、やけに日本に遠慮してるなあと。なんでクリさんはそんなに気をつかってるんでしょうか。
たぶん、それは彼がブレイクした『荒野の用心棒』が日本映画『用心棒』の丸パクリだったからではないでしょうか(あとで会社が訴えられたりしてる)。クリさんはそのことをずっと気に病んでいたらしく、なんかの映画祭で黒澤監督を見つけたとき、嫌がる巨匠を抱きすくめて「あなたのおかげでメジャーになれました!」と叫んだとかなんとか。まあいきさつはどうあれ、この謙虚な姿勢が本作品を、「アメリカ人が作ってるのにほとんど日本に違和感が無い」映画にしています。
主演はたぶんケン・ワタナベではなく西郷役の二宮和也くん。いや、お若いのにオーバーにならず、しかし真に迫る演技に感心いたしました。ただアップになるたびに、どうして彼がジャニーズに入れたのか不思議に思えてなりませんでした。あと既にパン屋のダンナで嫁が裕木奈江というのも、ちょいとジェネレーション・ギャップです。
物足りない点を一つ上げるとするなら、クリント・イーストウッド作品なのに、クリントさんが出てこないというところ。いっそのこと、栗林中将はクリントさんにやらせれば良かったんですよ。同じクリさんなんだし。顔はCG合成にして、声は吹き替えにして。ダメかな?
・・・・アホな話はともかく、本国ではA-SIDEより上映館数が少ないのにも関らず、賞のノミネートはこっちに集中しているようです。この評価、喜ぶべきではないでしょうか。
TrackBack
TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/70832/13618976
Listed below are links to weblogs that reference 父親たちの日の丸 クリント・イーストウッド 『硫黄島からの手紙』:
» 硫黄島からの手紙 [C note]
アメリカ資本の映画でありながらメインキャストは全員れっきとした日本人俳優、しか [Read More]
Tracked on January 23, 2007 at 01:28 PM
» 『硫黄島からの手紙』 [Sweet* Days ]
監督:クリント・イーストウッド 製作スティーブン・スピルバーグ CAST:渡辺謙、二宮和也 他
STORY:1944年6月。アメリカ留学経験のある栗林中将(渡辺謙)が硫黄島に着任する。既に壊滅的だった日本軍。各軍から見放された硫黄島での戦いの為、栗林は島中にトンネルを張り巡らせ、地下要塞を作るよう命じる・・・
硫黄島2部作第二段。日本側から見た硫黄島での戦いを描いた作品。
第一段『父親達の星条旗』よりずっと辛いものになるだろうとは予想していました。
予想通り、硫黄島での日本軍の悲... [Read More]
Tracked on January 23, 2007 at 10:54 PM

Comments
私も見ましたよ、この映画。誰かさんに置いてけぼりにされそうになったけど。 (休日、朝早く起きたのに!)
>主演はたぶんケン・ワタナベではなく西郷役の二宮和明くん。
私もそう思います。だけど、二宮君が受賞するかも、って噂されたのは、助演男優賞、でもこの映画では、主演ですよね。
諸外国に対する知名度的に、ケン・ワタナベ主演作! て方が都合が
良かったんですかねぇ。
>パン屋のダンナで嫁が裕木奈江というのも…
久しぶりに見ましたね、裕木奈江さん。でもこの人、失礼だけど、薄幸そうな役をやらせたらピカ1だなあ、って思います。
日本ではバッシング云々で、なかなか日の目を見ませんけどね、諸外国あたりで、活路を見出されればいいなあ、と思いました。
中村獅童はいかがでしたか?
Posted by: Misato | January 23, 2007 at 01:40 PM
ホントだ!栗林もイーストウッドも同じクリさんじゃん!
気が付かなかった・・・
だからと言って、
>顔はCG合成にして、声は吹き替えにして。ダメかな?
ダメです。とだけ言っておきますw
別に『用心棒』の丸パクリだったからって、そんなの日本人は全く気にしてませんのに。
今作でも、「クロサワが撮ってくれたら完璧なのに」と、到底ムリなことをつぶやいたりしていらっしゃったようですね。
二宮くんですが、彼の度胸や演技力に感服した今でも、なぜにジャニーズ?と思っちゃいます、やっぱり。
でも演技のできないハンサムなだけの俳優さんより、ずっと素晴らしかったです。
Posted by: kenko | January 23, 2007 at 01:46 PM
>Misatoくん
いつもお仕事ご苦労さん
>助演男優賞
おかしいよねえ。あちらにはほぼ無名だから仕方ないかもしれないのけど
『男たちのYAMATO』でも松山ケンイチ、ポスターで全然目だってなくて可哀相だったなあ
>裕木奈江さん
そういえば誰かさんが好きだったような(笑) 最近じゃ一昨年の『ULTRAMAN』で見ました
>中村獅童
それこそがっかりだったね。演技がじゃなくて演じた役の人が
ところで置いて行かれそうになったの? ひどいヤツだね。大きなお世話かもしれないけど、友達はよく選んだ方がいいよ
Posted by: SGA屋伍一 | January 23, 2007 at 06:25 PM
>kenkoさま
>ダメです。とだけ言っておきますw
そこを何とか。いいじゃないですか~(篠原ともえ調で)
>別に『用心棒』の丸パクリだったからって、そんなの日本人は全く気にしてませんのに。
そうですね。というか今のお若い方には両方「?」というタイトルだと思います。そういえば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で一瞬映ってたかな?(『荒野』の方)
>「クロサワが撮ってくれたら完璧なのに」
ははは。ホンットーに気にしてるんですね
>二宮くん
加瀬亮との一連の絡みが、特に印象に残ってます。そっとまぶたを閉じてつーっと涙を流す。こういう演技できる人って、意外といないんですよね。『鉄コン筋クリート』も良かったです。レビュー今しばらくお待ちください
Posted by: SGA屋伍一 | January 23, 2007 at 06:33 PM
こんにちわ!TB&コメントありがとうございました。
この作品のレヴューは世の中にたくさん溢れていますが、
笑いながら読んだものは今回が初めてです。
笑わない女・睦月に笑顔の提供をありがとう!ありがとおお!
さて。
後半にかけて怒涛の勢いを増していくこの記事・・・
核心をついていながらちょっとおチャラけていて・・・その狭間で
ずいぶんと勉強になることがたくさん書いてあり嬉しいです。
クリさんのパクリ事件は初めて知りました。彼は日本に対し、そういう
負い目があったのかあ・・・どおりで、日本を舞台にした作品なのに、
まんまとアカデミー賞ノミネート、GG賞受賞してしまったわけですね。
「西郷の妻、やけにエロフェロモンがでてるなあ。見たことあるけど
誰だっけ?」と思っていたらユウキさんだったんですよね。
西郷がたった一人生き残ったことよりも、そっちの事実に驚きました。
そして、この映画よりも上手い!と思ったのは・・・・
デスノートと硫黄島のコラボです。
Posted by: 睦月 | January 25, 2007 at 04:43 PM
>睦月さま
どうも。不謹慎男です・・・
>クリさんのパクリ事件
正確なところは忘れたんですけど、クリさんはてっきり許可取って作ってるのかと思っていたら、製作側は「だいじょぶだいじょぶ♪」と無許可で作ってしまった・・・という事情じゃなかったかと。もちろん「だいじょぶ」では済まされなかったわけですが
ただ『用心棒』の方もまったくのオリジナルかというと、D・ハメットの小説『血の収穫』が元ネタなんでは?という説があります
これについて巨匠は「そうかもしんない」という非常にあいまいなコメントを残しておられます。やれやれ
>ユウキさん
恥ずかしながら自分はユウキさんのお顔を忘れてしまったんで、映像見てもピンと来なかったんです・・・・ でも他に目だった女優さんもいなかったし、やっぱりあの奥さんがユウキさんでいいんですよね?
>デスノート
誰も言及してくれないのでてっきり「はずしたか・・・」と思っていました
おかげで救われました(笑)。ありがとうございます
Posted by: SGA屋伍一 | January 26, 2007 at 06:21 PM
いまごろすんません。
『~星条旗』を観て監督の熱意とセンスの良さを感じていたので、『~手紙』も、アンフェアに日本側を悪者にしたり、逆に千早城みたいな軍談にはしないだろう、とは思っていました。
でも、やっぱり今度は向こうさんにしたらアウェイじゃないですか。
どうしても日米双方に配慮して腰が引けちゃうんじゃないかと心配してました。
でもフタを開けてみたら、「日本軍の体質的ダメダメぶり」が冷静公平、かつ容赦なく暴露されていて、やっぱりイーストウッドすげーやと思いました。
『~星条旗』で「米国政府の欺瞞と大衆の残酷さ」をさらけだした時と姿勢が変わってないのがすごい。
監督はじめスタッフに日本側への理解と敬意が十分あるからなせたことなんでしょう。
作り手が不勉強だったり、色眼鏡をかけていたら、どう描かれてもお笑いにしかなりません。
ところがこの映画に描かれる、無益な新兵いじめとか、陸海軍の足引っ張りあいとか、追い詰められたら集団自決とか、そういうのをやらかす精神性は、多少なりとも確実に我が身の内にあるもの。
そのことが、戦闘映像の残酷さよりもリアルに痛くて怖かったですよ。
ところで、昨年末に行ってきた信州松代では、ナゼかこの映画のポスターがあちこちに↓
http://photos.yahoo.co.jp/ph/aaoe/vwp?.dir=/4a98&.dnm=9f14.jpg&.src=ph&.view=t&.hires=t
行くまで知らなかったけど、栗林忠道は松代の出身だったんです。
海外事情に明るい軍略家を出す土地柄・・・なんてものがあるとは思えません。
ただ、栗林には郷土の先達から何か学ぶところがあったのかもしれませんね。
Posted by: 秦太 | February 05, 2007 at 12:02 AM
>いまごろすんません
いえいえ、いつでもカムカムエブリバディです
>「日本軍の体質的ダメダメぶり」が冷静公平、かつ容赦なく暴露されていて
そうですね。それでも軍隊を覆っていた「狂気」の描写がわたしには「必要最小限」という風に感じられたので、その辺を「遠慮している?」と書いた次第です。しかしよその国を題材にした映画を作るのであれば、これくらいの謙虚さは必要だと思いました。いままでがいままででしたからね・・・・ ま、わが国もどっこいどっこいやもしれませんが
それでも外国の方が監督ということで、やっかみの記事もちらほらあるようです。しかしこの二部作は「アメリカさんが反省しはじめてる」ということだけでも評価すべきだと思います
上のコメントを下さった方の記事に書かれていたことですが、クリントさんは自身がかつて役者だったこともあり、役者さんの演技にはほとんどダメだしをしないそうです。オーディションで採用した時点で、すでに全幅の信頼を置いているということなんでしょう。そういう姿勢が私たちから見ても違和感のない描写を作り上げていたと思います。
本当に自身が演じる役柄とはうらはらに謙虚な方なんですね(笑)
栗林さんもこの映画の効果ですっかり時の人になってしまいましたね。もちろんわたしもこちらで初めて知った人物ですが。
>郷土の先達から何か学ぶところがあったのかもしれませんね
あっぱれ佐久間大先生ですか(笑) 確かに通ずるところもあり、対照的なところもあり
Posted by: SGA屋伍一 | February 05, 2007 at 09:23 AM