サイバラ・クロニクル 四度目の戦慄 西原理恵子 『いけちゃんとぼく』『パーマネント野ばら』
先日我らが女王様が二冊のご本を相次いで出されました。今回はそれらについて語ります。
まず角川書店より出された『いけちゃんとぼく』。「西原理恵子はじめての絵本!」というふれこみで、通常よりやや大判です。ある田舎町に住む、いじめられっ子の「ぼく」。でも悲しいことがあっても大丈夫。「ぼく」にはいつも慰めてくれる秘密の友人「いけちゃん」がいるから。形が決まってなくてふわふわしてて、「ぼく」以外のひとには誰も見えない。そんないけちゃんと幼いぼくの日々が、時に愉快に、時に物悲しく語られています。
名作『ぼくんち』で培われた優しい語り口は、さらに簡潔に、さらに情愛深く。いい年した野郎の涙腺を、ダイレクトに刺激いたします。
この「いけちゃん」の設定とか形とか、なんとなくスペインのマイナー児童文学アニメ『くじらのホセフィーナ』を思い出させますね(知ってる人いるでしょうか・・・)。少年が大きくなったとき、彼と奇妙な友人は別れなければならない。そのあたりも似ています。
「ぼく」の住んでいる村は、『ぼくんち』と同様、西原さんの故郷がモデルになっているようです。では「ぼく」は彼女、もしくは彼女の兄がモデルなのかというと、あんまりそんな感じはしません。作品に溢れる主人公への惜しみのない愛情は、明らかに母親が息子に注ぐそれです。すこしづつ成長していく「ぼく」が微笑ましく、そして寂しい。そんな女王様の心境がよく表れています。でも確か女王さまのご子息はまだ小二。いまからこんなに寂しがっていて、この先いったいどうなってしまうんでしょう。
それにしても『女の子ものがたり』といい、『毎日かあさん』といい、最近の彼女はめっきり“子供”を描く人になってしまったなあ、と思っていたら、今度は大人の恋を描いた作品が出ました。タイトルは『パーマネント野ばら』(新潮社より。ここには前に連載売り込みに行って、断られていたと思ったが・・・)。出もどりで子持ちのなお子さんの家は、山のど真ん中にあるパーマ屋さん。そこは近所の中高年のオバ様たちの、恋愛相談室・ザンゲ室でもある。そんな女傑たちの壮絶な愛となお子さんの密やかな恋の物語。すさまじく品のいいネームが飛び交ってた『ぼくんち』と、孤独な心を切々と歌い上げた『上京ものがたり』をミックスさせたような味わいです。でもこの二つを混ぜあわせるのは、なかなか強引ではないでしょうか(笑)。でもまあ「ひとりでも生きていけるけれど、どうしても恋を求めてしまう」大人の女性の心情が物静かにつづられていました。ろくろく恋愛をしてないわたしがそんなことを言うのは、正直気がひけるんですが。
この二冊、あらすじだけ聞くと、まるで違うお話のように感じられます。方や子供のファンタジー、方や大人のロマンスですから。ところがどっこい続けて読むと、『いけちゃん~』と『~野ばら』には実に深いつながりがあることがわかります。もちろん直接的な正編・続編というわけではありませんが、一つのお話を違う形で発展させていったような、そんな関係。続けて出したのは、そのことを知って欲しかったからじゃないかなあ・・・なんて思ったりして。もちろんただの偶然ということも十分ありえますが。
これまで書いたサイバラ女王様の記事は以下の通り。ヒマ&興味があったら見たってください。
http://sga851.cocolog-izu.com/sga/2005/01/post_3.html
http://sga851.cocolog-izu.com/sga/2005/05/post_3430.html
http://sga851.cocolog-izu.com/sga/2006/01/v3_567f.html
Comments
>いけちゃん
子供にしかないピュアな世界って感じでした。
大人になるにつれて、いけちゃんがだんだん
見えなくなってきたのが少しせつなかったり。
>母親が息子に注ぐそれです。
ですよね。あの元気な長男くんがモデル
かもしれません。
うんこをガマンすると忍者になれるんだ。
Posted by: 犬塚志乃 | November 08, 2006 07:00 PM
>いけちゃん
「男の子は~あっとゆう間にどっかへ行っちゃうって。」
実際の話、大人になるのは女の子のほうが早いと思います
>うんこをガマンすると忍者になれるんだ。
それはどうか知りませんが(笑)、彼はたぶん『NARUTO』のファンなのでは
Posted by: SGA屋伍一 | November 08, 2006 07:57 PM