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November 17, 2006

箱入り娘の作り方 京極夏彦 『魍魎の匣』

20061117203503先日最新作『邪美の雫』が刊行されたので、今回は「京極堂」シリーズでもっとも思い入れのある第二作『魍魎の匣』について書いてみようかと。第1作『姑獲鳥の夏』についてはこちらをどうぞ
http://sga851.cocolog-izu.com/sga/2005/08/post_47e3.html

戦後まもなくの東京。武蔵小金井駅のホームで、一人の少女が列車にはねられた。一命をとりとめた少女は、しかし運び込まれた病院から、こつぜんと姿を消してしまう。
それを境に、都内ではおぞましい事件が頻発する。少女たちの連続失踪事件、あちこちで発見されるバラバラ死体・・・・ 列車事故の現場に居合わせた刑事・木場は、友人である「京極堂」こと中善寺秋彦の手を借りて、消えうせた少女の行方をつかもうとするが。
「匣の中には綺麗な娘がぴつたり入つてゐた。」
「につこり笑つて、『ほう、』と云つた。」
章の合間に挿入される奇妙な幻想小説。その意味が明かされるとき、匣の中から魍魎が姿を現わす。

この本を読んだのもかれこれ10年以上前。前作『姑穫鳥の夏』にそれほど感銘を受けなかったものの、辰巳四郎氏の「シリーズ装丁」に弱かったわたしは、「もう一作付きあって見るか」という感じで本書を手に取ったのでした。
ところが読み始めて、50P、100Pと進むうちに、どんどん物語にのめりこんでいくわたし。ページを繰る手が止まらなくなっていき、しまいには授業中までこっそり隠れて読みふける始末。結局ほぼ二日で700ページはあろうかという大作を一気に読み終えたのでした。「20代のころに読んだもっとも面白い本」を決めるとするなら、まず本書が頭に浮かびます。
いったい何がそんなに面白かったのか? まず展開にも語り口にも名状しがたい熱気がこもっていました。さらに第1作ではまだ肉付けがぼんやりしていたレギュラーたちが、非常に精彩に富むようになってきています。特に「事件を解決しない探偵」榎木津礼二郎が本格的に暴走していくのは、この第二作から。加えてこの作品の根幹を成す「匣の中の娘」の正体・・・・ この真相があまりにも意外で残酷で哀しい。それがエピローグの余韻を味わい深く、忘れがたいものにしています。

とまあつらづら理由を並べてみましが、仮にいまこの小説に出会ったとしたら、同様の感動が得られるかどうか。と言うのは本格ミステリーが熱く、そして自分がそれにのめりこんでいたあの時だからこそ、あんなに興奮したのでは・・・そんな気がするからです。
島田荘司と綾辻行人が中心になって呼び起こした本格ブーム。それに付随して多くの作家たちが世に出て行き、小説以外のメディアにも飛び火していきます。そのブームの頂点がこの京極夏彦のデビューでした。それまであまり本格系の作品には与えられなかった推理作家協会賞を、この年『魍魎の匣』が受賞したことにそれが象徴されています。
その後も講談社を中心として多くの個性的なミステリー作家がデビューしましたが、いまだにこの京極氏を超えるスターは出ていないような気がします。また、前回述べましたようにこのシリーズは「本格」の王道とはやや言いがたいものがあり、それがもっとも高い評価を得たことで、以降ガチガチの本格ミステリーよりも多ジャンルとの複合的な作品の方が盛んに発表されるようになりました。いわゆる「多様化」ってやつですね。

それからさらにくだって2006年現在。友人から聞くところによると、いまはどちらかという「ミステリー」と冠を付けると本が売れないような状況らしいです(『ダ・ヴィンチ・コード』は?)。ではどういうものが売れるかというと、「泣ける」とか「純愛」を全面に出したものがもてはやされているようで。そういえば昨年話題になった『容疑者Xの献身』もそんな売られ方でしたしね。
20061117203547とはいえ歴史は繰り返すと申します。そろそろまた京極氏を超える、あるいは匹敵するような巨星がババーン!と登場するのでは・・・ そんなことを期待している今日この頃であります。

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