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October 09, 2006

山田風太郎に関しては色々言わせてもらいたい⑮ 『忍法創世記』

20061008201814今回は忍法帖の集大成にして完結編にして、長い間「幻の作品」だった『忍法創世記』について語ります。

時は1390年。長い間小競り合いを繰り返していた伊賀の民と柳生の民は、悪縁を断つためにそれぞれの当主の息子たち、娘たちを娶わせることにする。柳生からは三人の男児を、伊賀からは同様に三人の乙女を。いまままさに婚礼がなされようというその時、突然の邪魔が入る。柳生のほうには剣の達人中条兵庫頭が、伊賀の方には能楽師の世阿弥が。南朝から北朝にゆずられる「三種の神器」を、それぞれ「奪え」「守れ」とけしかける。しかし柳生の次男七兵衛は伊賀に、伊賀の末娘お鏡は柳生にいくことが決まってしまったため、兄弟同士、姉妹同士で剣法と忍術の奇妙な戦いが繰り広げられることになる。

タイトルから想像するに、忍法がどのようにしてこの世に出てきたのか、その成り立ちを描く作品と思い込んでいましが、あてが外れました。まあ正確には『“伊賀”忍法創世記』というところですね。どうして伊賀に忍法が根付いたのか? そしてどうして柳生で剣法が発達したのか? その答えが山風なりの奇想で語られています。
仲の悪い家同士が和平のために、婚姻を結ぶ・・・ どっかで聞いたような話ですね。はい、忍法帖第一作の『甲賀忍法帖』と同じです。『甲賀』も考えようによっちゃかなりおバカな話といえないこともないですが、山風の格調高い語り口のおかげで「感動巨編」といっても差し支えない仕上がりとなっていました。しかしそういうカップルが三組もいたりすると、さすがにこれはバカならざるをえません。ことに柳生の男どもは、悲しいまでのずっこけぶりで我々を笑わせてくれます。自分で自分のパロディを書いちゃうとは・・・・ さすが山風。
さらに、出てくる忍法が下半身系のものばっかり。「そんな忍法、本当に役にたつんかい!」とツッコミたくなることうけあいです。そんな感じで物語の半分過ぎまではバカまっしぐらで話は進んでいきます。
ところがクライマックスにさしかかると、物語は急に殺伐とした空気に。「さっきまであんなにバカやってたのに・・・」と呟く我々をよそに、登場人物の悲壮感はますばかり。この辺はいかにも忍法帖らしい流れです。

このお話、長い間単行本にまとまらず、ファンの間では「幻の作品」ということになっていました。理由について山ちゃんは「あんまり出来がひどいんで」と語っております。しかし実際に読んでみると、さきほど述べたように「バカ要素」が少々くどいものの、全体としてはそんなにひどい出来とは思えません。
この理由として、解説の日下三蔵氏は「天皇についてちょっとタブー的なことを語ってしまったからでは」という点をあげています。この小説が連載されていた昭和44年、天皇家はまだまだ聖域だったということですね。まあご本人も本当にそれほど気に入ってなかったんでしょうけど。
わたし個人の印象はと申しますと、忍法帖全体では中の中という印象です(笑)。とはいえ、一番最後にして、年代的にはもっとも古い忍法帖であったりとか、「柳生」と「伊賀」という忍法帖の二本柱の融合的作品でもあり、はたまた後の「室町もの」への予告編でもあるなど、注目すべきところは多いです。ファンなら必読の一冊です。
20061008201749この本、ハードカバー(出版芸術社より)で買ったら一ヵ月後くらいに文庫版(小学館文庫より)が出てちょっと泣きそうになりました。でも夫人のあとがきや、日下氏の忍法帖年代表や初出タイトル一覧がくっついてるので「惜しくはない」と自分に言い聞かせております。

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Comments

こんにちは。
『忍法創世記』は私個人の中では非常に惜しい問題作です(汗)
前半と後半ではストーリーの軸が全く違うために整合性が欠けている点と、
忠義を美化している点がいささか風太郎らしくないなあと。
風太郎がお蔵入りにした理由は、天皇云々の諸事情により
途中でストーリー展開を変更せざるを
得なかったからではないんでしょうか。


私は前半のあの超ハイテンションなバカっぷりが
ものすごく面白かったです(笑)
全然役に立ちそうにない忍法が、敵との相性や工夫によって最強の
忍法になるという甲賀忍法帖以来の忍法争いの妙がよく出ていて
興奮しましたね〜。

Posted by: みずぐきまり | October 09, 2006 06:06 AM

さっそくコメントありがとうございます。

>途中でストーリー展開を変更せざるを
得なかったからではないんでしょうか

なんか編集者から注文が入ったんでしょうかね。確かに前半と後半のギャップにはとまどいます。同じような構成でも『風来忍法帖』にはそれほど違和感を感じなかったんですがねえ。あちらは悲壮な中にもそれなりにユーモアがあったし、なにより抜群に面白かったからかなあ

>私は前半のあの超ハイテンションなバカっぷりが
ものすごく面白かったです(笑)

みずぐきさまはああいうのOKですか(笑)。少年の心を持つ男(さらに笑)としては、もう少し「かっこいい系」の忍法も取り入れてほしかったです。まあそっちは今回武芸者連が担当してたのかもしれませんが。
なんだか後期の作品ほどシモ系忍法の割合が高くなっていってるような気がします。

Posted by: SGA屋伍一 | October 09, 2006 05:56 PM

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