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October 24, 2006

LA地獄変 ジェイムズ・エルロイ 『ブラック・ダリア』

20061024184927かれこれ7,8年前に読んだ本で恐縮ですが、いま映画やってるので書いちゃいます。米国を代表する暗黒小説の鬼才、ジェイムズ・エルロイの転換点となった作品です。

終戦直後の1946年、ロサンゼルスに勤める警官バッキー・ブライチャートは、さるイベントでやはり警官のリー・ブランチャードとボクシングの試合をすることになる。奇妙なことにこれがきっかけで二人は親友となり、職場でもコンビを組むようになった。間にケイという女性を挟みつつも、友情を深めていったリーとバッキーだったが、楽しい日々は長くは続かなかった。
1947年1月、ロス市内で若い女性の惨殺死体が発見された。被害者の名はエリザベス・ショート。女優を夢見て田舎から出てきたありふれた娘の一人だった。この事件に遭遇してから、リーの精神は次第に異常を来たし始める。そしてそれにひきずられるように、バッキーもまた長い暗闇の中をさまようことになるのだった。

この小説で扱われている猟奇殺人は、実際にあった事件です。記録では結局犯人はわからず、迷宮入りになるわけですが、エルロイはそこに自由な想像を働かせて、この事件に彼なりの決着をつけさせています。
題材が題材ですから、はっきり言って読んでいて楽しいという類の小説ではないです。それでも行間から漂ってくる情念や熱気に浮かされて、最後まで読まずにはいられない、そんな作品。読んでるときも読み終えたときも、腹の底に石がたまっているようなそんな錯覚に襲われます。

途中読んでいて引っかかったのが、いくらむごたらしいとはいえ、どうして見ず知らずの娘の死に二人がここまで狂ってしまうのか、という点。一応理由らしきものもチラッと説明されてましたが、それだけではどうにも納得しづらい。まあ人間いうやつは必ずしも理屈や理性に基づいて行動するわけではありませんけどね。
ただこの疑問は、作者であるジェイムズ・エルロイの生い立ちを知ると、それなりに理解できるような気がします。エルロイの両親は彼が幼いころに離婚。その後母親は街娼まがいのことをして息子を養いますが、エルロイが十歳の時郊外で他殺体となって発見されます。犯人は小説の題材となった事件と同様、とうとう発見されませんでした。
ですから、この小説は暗黒小説の形を取った母へのレクイエムと言えます。「ブラック・ダリア」ことエリザベスに狂わされるブライチャートとブランチャード。この二人の姓が似ているのは、それぞれがエルロイの分身だからではないでしょうか。情熱家のリーは感情のままに吼え狂う素の自分を、冷静なバッキーは客観的にそれを見つめている小説家としてのエルロイを表わしているような気がします。
トラウマから逃れるべく、真っ向から「母」の死を、そしてその決着を書いたエルロイ。果たして彼はそれで幾らかでも救われたのでしょうか? その答えは恐らく彼自身にしかわからないことでしょう。

さて、この小説はエルロイのもうひとりの母である「LA」への愛憎が、ありったけぶつけられた作品でもあります。しかしこれだけではまだぶつけたりなかったようで、以後三作LAを舞台にした暗黒小説が書かれることになります。
20061024185002タイトルは以下の通り
『ビッグ・ノーウェア』(上下)
『LAコンフィデンシャル』(上下・映画化で有名)
『ホワイト・ジャズ』

まとめて「暗黒のLA」四部作なんて言われたりしますが、『ダリア』とは多少登場人物がかぶっているくらいで、あんまり密接な関係はありません。
この「猛毒」をベテランのブライアン・デ・パルマは一体どうやって料理したのか? とりあえず明日観にいく予定です。


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 久しぶりのブライアン・デ・パルマ監督作品である。  ロサンゼルスで迷宮入りした猟奇的殺人、ブラック・ダリア事件を題材に 「L.A.コンフィデンシャル」のジェームズ・エルロイが書いた「ブラック・ダ リア」の映画化である。  主人公の刑事役がジョシュ・ハー....... [Read More]

Tracked on November 06, 2006 at 09:36 AM

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