小さきモノから ベルナール・ウェルベル 『蟻』
ようやく涼しくなってきた先日、たべかけをテーブルに置きっぱなしにしていたら、いつの間にやらアリの行列がぞろぞろ。夏の間は見かけなかったのに、さてはてめえら今までサボってやがったなーっ!!
だからというわけではありませんが、本日はおフランスの人が書いた一風変ったミステリー兼ファンタジー小説『蟻』を紹介いたします。たぶん当ブログ始まって以来の最短タイトル。
フォンテーヌブローの森にある赤アリの都市ベル・オ・カン。そこに属する若き雄アリの327号はエサを求めて遠征にでかけた折、奇怪な事件に遭遇する。ふと寄り道したほんのわずかなときの間に、一緒に来た仲間たちが全滅してしまったのだ。それを未知の部族の攻撃と考えた327号は、都市の女王に報告する。しかしその時から327号は「岩の匂いのする」謎のアリに命を狙われるようになる。
一方同じ森に住む人間の家でも不可思議な事件が起きていた。奇矯な科学者エドモン・ウエルズから一軒の家を相続した甥のジョナサンが、地下室を調査に行ったきり出てこなくなってしまったのだ。ジョナサンを探しに妻や警察が地下室へ下っていくが、誰一人として戻ってこない。一体地下室には何があるのか?
このアリの物語と人間の物語が平行して語られていき、最後にはそれがなんと一つに重なり合うというとんでもないお話。そんなアホな、と思われるかもしれませんが、それは実際に読んでみればわかるこってす。
みなさんはアリについてじっくり考えたことはアリますか? ・・・うん、普通はないですよね。昆虫マニアだって「アリが好き」という人は恐らく少数派だと思います。しかしよくよく考えてみればすごいですよ、アリは。一度ミニ四駆でもゾイドでも作ったことのある人はわかると思うんですけど、「動くもの」を人間が作ると、大体あのくらいのサイズになっちゃうわけです。まあもっとつきつめてチョロQくらいには小さくできますか。ところがアリはもっともっとちっちゃいのに自分で考えて複雑に動く。しかもエネルギーは自分で補給し、他と連携しながら組織的な活動までやってのける。くりかえしますけど、あんなにちっちゃいのに。
そしてこれほど高度な社会性を持つ生き物は、人間を除けばそれこそアリくらいしかいないわけです。その形態も、種類によってまことに様々。
そんなアリの特異性に関し、とりわけ印象に残ったのが次のエピソード。ある巣の女王アリが、川の向うを探ってみたいと考えます。何度も試行錯誤し、無数の働きアリを溺死させますが、女王はその計画を続けます。作者の言によれば「アリは絶対にあきらめない」のだそうです。そして遂にはその目的を遂げるわけですが、いったいどうやって? 「六本のマッチ棒を折ったり交差させたりしないで4つの正三角形を作る」ことができれば、おのずとその答えは明らかとなるでしょう。
こんな風に膨大なアリとムシのウンチクが語られますが、冒頭でも述べたようにちゃんと物語としての面白さも失われてはいません。勇気溢れる青年327号、好奇心旺盛な若き女王56号、実直で経験豊かな103683号といったキャラクターはアリながら大変魅力的ですし、彼らの冒険にはきっと手に汗握ることでしょう。
そんなわけで読了後はアリに親しみと敬意が湧く一編。でもやはり楽しみにしていたオヤツにたかられたりすると、そうした思いは一瞬にして消え去ってしまうのでした。
わたしは左画像にあるジャンニ・コミュニケーションというあんまり聞かない出版者の版で入手しましたが、現在は角川文庫(全一冊)が手に入りやすいようです。続編『蟻の時代』、完結編『蟻の革命』も同文庫より刊行されています。
Comments
興味深く拝見しました。
この本はいずれ読んでみようと思います。
ちょっと時間がとれないので、しばらく先になりそうですが。
リアルアリとは毎日お手合わせしています。
まったくとんでもないですねあいつらは。
Posted by: 秦太 | September 26, 2006 01:04 AM
あいかわらずお忙しそうですね。感想気長におまちしてます。たぶん専門家からすれば、いろいろ突っこみたい箇所もあるかと思いますが
>まったくとんでもないですねあいつらは。
秦太さまはアンチ・アントのようですね。ぶっちゃけいざ戦うとなったら、ゴキブリなんかよりよっぽど手ごわいと思います。ジャングルにうん十年隠れていた小野田寛郎氏も、アリにやられて片耳が聞こえなくなったそうですし
Posted by: SGA屋伍一 | September 26, 2006 07:26 AM
>あいかわらずお忙しそうですね。
いやいや、勤め人としてはこれくらい標準レベルなのかもしれません。
ただ出張は多いです。
先週は埼玉・長野・新潟で連続4日間、今週は群馬に4日間、
来週は都内で2日のみながら、再来週は富山でどっぷり6日間。
このところ休日以外ほとんど家に帰ってないですね。
だからこういうご返事も遅くなりがちで面目ないです。
自前のサイトを作れない理由のひとつでもあります。
>秦太さまはアンチ・アントのようですね。
私がアンチというより、アリさんからみて私がカタキでしょうね。
なにしろ1日平均100頭は殺してますから。
そんな因果な商売の、頼れる味方がこのサイト。
http://ant.edb.miyakyo-u.ac.jp/J/
研究者以外にアリの種を正確に同定するのは非常に難しかったのですが、
この画像検索の登場により中学生でも種類がわかるようになりました。
累計1億アクセスは伊達じゃない!
また、アリ世界の奥深さを知らしめてくれるのが、科博の丸山さんのページ。
http://www.myrmecophile.net/index.htm
なにはともあれ「居候昆虫の世界」をご覧くださいまし。
アリの巣の中に、こんなやつらが隠れ住んでいるのです!
Posted by: 秦太 | September 30, 2006 09:18 PM
お忙しいなかどうも。これが「普通のレベル」だとするなら、わたしはもっと働かないとなあ(苦笑)
>ただ出張は多いです。
多すぎです。寅さんみたいですね。いつかどこかの空の下でお会いできるでしょうか
>アリサイト
パッと見ぜんぶ同じように見えるアリも、こうやって見るといろいろ形が違うんですねえ。このサイトの管理人さまはやっぱり好きでやってるんでしょうか。アリの愛好家ってのも探せばけっこういるのかな
下の「居候昆虫」のとこも見ました。アリマキやシジミチョウの幼虫は知ってましたが、想像以上にいろいろ住んでいるんですねえ。本の『蟻』にも少し書いてありましたが
それにしてもゴミムシダマシって名前の割りにきれいですね
Posted by: SGA屋伍一 | September 30, 2006 10:02 PM