ある劣等生の主張 山田詠美 『ぼくは勉強ができない』
せわしい接待の合間を縫って更新中。こちらによくコメントをくださるほーりぃさまオススメの一冊。山田エイミーさんは「過激な恋愛もの」を書かれるという印象があったので、これまでノータッチでしたが、「金城一紀の“ゾンビーズ”シリーズを思わせる」と聞いて読んでみました。
時田秀美くんは17歳の高校生。勉強はできない(というかやる気がない)が、イケメンなので女の子にはよくもてる。ただいま年上の桃子さんと熱烈恋愛中。そんな彼なりの青春が、一風変った家族や友人たちのエピソードなども交えて、軽快に、時に突き刺すように描かれます。
いきなりなんですけど、この時田くんという主人公に「ぼくは好感がもてない」。なぜかといえば彼がもてるからです。そして「ぼくは女性にもてない」からです。もてるやつにロクなやつはいないと思います。わたしは学生時代、もちろん彼のような少年ではなく、この小説に出てくるガリ勉の「脇山」と理屈屋の「植草」を足して割ったようなタイプでした。
「でもまちがってももてたいよな・・・」(『すごいよ! マサルさん』より)
じゃあ彼を参考にして、もてるようになればいいじゃない!? つーわけでどういう男がもてるのか、この本を参考にわたしなりに分析してみました
もてるやつ
・聞き上手
・誉め上手
・あまり物事に深くこだわらない
・自然体
・イケメン
もてないやつ
・ガリ勉
・理屈っぽい
・油っこい
・口がぽかんと開いてる
よし! これでおれも明日からモテモテ一直線だぜ! と言いたいところですが、「もてる」方の最後の一項目だけはどうにもならんかなあ。
も少しマジメに語りますと、個人的に痛かったのは「賢者の皮むき」という一編。青春というのは基本的に「格好をつける」時代です。ただその「格好の付け方」も人によって様々。格好をつけてることを全然隠さないひともいれば、「おれは全然自然体」という風を装って格好つけてるひともいます。わたしも毎度こんなオチャラケた文を書いていることで、たぶん「格好つけてる」のでしょう。そんな自分の薄っぺらな「カッコつけ」を見透かされてるようで、ちょっとズキンときました。
ほーりぃ様が言うように、この小説は「ゾンビーズ」シリーズと同様、明るく楽しい少年たちの物語です。ただ違う点があるとするなら、それはたぶんエイミー先生のこの冷徹な視点。彼女はどのキャラクターに対しても冷静で、ときに辛辣です。「好きなタイプ」であろう時田くんに対してですらそういう姿勢なので、自分が嫌いなタイプの人間に対してはさらに情け容赦ありません。
時田くんの一人称でもってお話は語られますが、最後の一編だけは「番外編」と銘打ち、彼の子ども時代を三人称で語ったエピソード。「時田秀美」という人間を内と外の両方で語ることにより、彼の存在感を強める構成となっています。
好きな場面をひとつ。悲しいことがあってつい反対方向の電車に乗ってしまった時田くん。やるせない思いに苦しんでいると
「『おにいさん、大丈夫かね』
眠っていた筈のおばあちゃんが、いつのまにか心配そうに、ぼくを覗き込んでいた。」
「冷徹」「辛辣」と書きましたが、こんな優しいシーンもあります。
この本、この夏の「新潮文庫の100冊」に選ばれていて、ふと目に付いたので新刊で買いました(400円)。ところがその数日後ブックオフで100円で売っているのを見て、「失敗した・・・」と、その場でorzとなってしまいました。
こういうケチなとこももてない一要因なのでしょう。



Comments
>『すごいよ! マサルさん』より
なぜ現在連載中のジャガーさんではなくマサルさんで来たのか。う~ん深いですねー
すみません。そこに食いついてる場合じゃなかったですよね…
レビュー、楽しく読ませていただきました。ふむふむ、SGA様がこの話を読むとこうなるんですねぇ。それでは、私からも主張をひとつ
時田秀美を「イケメン」と呼ばないで~
何だか、ジャ○ーズが思い出されて微妙な気持ちになりますorz
いえジ○ニーズが嫌いな訳ではないんです、ただあの「オリジナリティなんてぶっ飛んじゃっても気にしない」とでも言うような、量産体制が秀美のイメージにそぐわないと思うだけですふふふ
同じ量産でも、ザクはあんなに素敵なのになぁ。
秀美は「ぼくは、ぼくである」事にこだわりを持っている子なので、きっと「イケメン」の称号は辞退するものと考えられます。多分。
Posted by: ほーりぃ | September 21, 2006 12:49 PM
>なぜ現在連載中のジャガーさんではなくマサルさんで来たのか。
すいません。実はジャンプはいま『ぶりーち』を立ち読みしているだけでして・・・ ジャガーさんはやはり面白いのでしょうか
>時田秀美を「イケメン」と呼ばないで~
はっ! 失礼いたしました! そうか・・・ 世間的にはイケメン=ジャ○ーズのイメージなんですね。確かに彼がフリフリの衣装をきて歌い踊るのは想像しにくいですね。そうすっと「二枚目」もしくは「美少年」と書けばよかったのか・・・
恐らく上の落書きもほーりぃ様にとってはかなりイメージにそぐわないものかと思われます。あくまでわたし個人のものということで勘弁してください。脇山くんはよく書けてると思います
>同じ量産でも、ザクはあんなに素敵なのになぁ。
そのセンスがよくわからないような、よくわかるような(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | September 22, 2006 07:59 AM
>わたしも毎度こんなオチャラケた文を書いていることで、たぶん「格好つけてる」のでしょう。
そうなんですかー?ただ、こういう風に書くのが好きで、そうしてらっしゃるんだと思ってましたけど。
自分が格好良いと思うから、美しいから、素敵だと感じるから、そうする。秀美が目指しているのはそこを基準に行動することであって、「ウケが良いから」何かをする⇒「媚」というのは趣味に合わないためやりたくない。
と、いうように私は解釈してます。まぁ人間は社会的生きものですから、媚ゼロでしのいで行くのは大変難しいことですし時々パッパッと撒いておいて陰で舌出してりゃ良いんですが(笑)
自らが格好良いと思うものを追いかける、ということに関しては、山田師匠は冷たい目で見たりしない筈です。
Posted by: ほーりぃ | September 22, 2006 05:53 PM
>ただ、こういう風に書くのが好きで、そうしてらっしゃるんだと思ってましたけど。
えー、そうですね。確かに好きで書いてるわけですけど。自分の「面白いやつだと思われたい」「飾らないやつだと思われたい」という願望を鋭く見抜かれているような気がして、ちょっとズキッと来たわけですね。実は似たようなことをやはり前にも言われたことがありまして
もちろん時田くんの場合とは色々ちがいますが。作者も決して「格好をつける」ことを否定的には書いてませんよね。幼馴染の少女に対する描写を読んでいてもそれはわかります
わたしとしては人に好かれようとするあまり無理をしすぎること、自分を殺すことが「媚」なんじゃないかと考えてます
そんなわけで少々ハートブレイク(笑)もありましたが、この本は読んでいて楽しかったです。またオススメのものなどあったら教えてください
Posted by: SGA屋伍一 | September 23, 2006 07:51 AM