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August 08, 2006

山田風太郎に関しては色々言わせてもらいたい⑬ ミステリネタばれ大会

気がつけばもう十三回目ですが、そういえば山風のミステリについては、第一回以来ほったらかしだったことに気がつきました。この辺最近読んでないもので。すいません。
で、少ない記憶を振り絞って思いついたのが、こんなシャレにならない企画(笑)
第一回で、「現代で傑作とされてる多くのミステリのネタを、山風が先取りしていた」みたいなことを書きましたが、今回はその具体例を幾つか挙げてみたいと思います。
「ネタばれ」とはありますが、もちろん肝心な部分はばらしません。ただふたつ並べて書いてある時点で、勘のいい人は気づいてしまうんじゃないかなあという・・・
そういうわけで用心深い方はスルーしてください。ではまず安全なあたりから

『妖異金瓶梅』・・・・・ 竹本健治 『ウロボロスの偽書』
『うんこ殺人』・・・・・ 同 『ウロボロスの基礎論』
この『ウロボロス』二部作に関しては、はっきりと著者が「これ真似しました」と文中で述べています。『妖異~』からは「シリーズ犯人」というアイデアを。『うんこ~』からはうんこを。ただふたつとも中心の柱として借りたわけではなく、幾つかある材料の一つとして拝借した、という感じです

以下は「まあ、偶然かぶっちゃったんだろうな」という作品群です。

『厨子家の悪霊』・・・・・ 山口雅也『解決ドミノ倒し』(『ミステリーズ』所収)
一本の短編の中に、「どれほどどんでん返しを盛り込めるか」ということに挑戦した作品。山風がギリギリシリアスにとどまっているのに対し、山雅作品は完全にスラップスティックの領域に。読み比べてみるのも一興かと

『帰来抄殺人事件』・・・・・ 東野圭吾『名探偵の掟』
両方「名探偵もの」の連作短編集。オチの付け方がちょっと似てます。もしかすると山風の方はバロネス・オルツィの『隅の老人』を意識してたのかもしれません。『警視庁草紙』でお奉行に「隅老斎」とか名乗らせているので

『太陽黒点』・・・・・ 京極夏彦『絡新婦の理』 
作品の骨子のアイデアが共通しています。京極先生はそこそこ山風作品を読んでおられるようですが、これもたぶん偶然似てしまったんだと思います。勘ですが。

『明治断頭台』・・・・・ 加賀美雅之『双月城の惨劇』
前者のあるエピソードのトリックが、たまたまかぶってしまいました。ただ両作品ともトリックの数が一つや二つではないので、一個くらいわかっても十分楽しめます。加賀美作品はすこしひねった名作のパスティーシュでして、そういう点でも山風のあれやそれと通ずるものがります。

『黄色い下宿人』・・・・・ 島田荘司『○○と倫敦ミイラ殺人事件』
説明が一番ヒヤヒヤする組み合わせ(笑) そうですね。できれば『黄色』を先に読んでから、後者を読んでいただきたい。正式なタイトル名は「島田荘司 倫敦」で検索すれば一発で出てきます。かなりオススメ。『黄色』は光文社文庫『眼中の悪魔』で読めます

なんかまだあった気もしますが、いま思い出せるのはこれくらい。うっかりネタに気づかれてしまった方、もうしわけございません。ちなみに先生の自己評価が高かったのは『妖異金瓶梅』『太陽黒点』『明治断頭台』。ほかに『十三角関係』『夜よりほかに聞くものもなし』がA評価でした。低かったのは『厨子家』『帰来抄』など。
最後にETV特集で先生が語っていたこの言葉でしめたいと思います。
「ぼくは一つの作品に四つも五つもどんでん返しを入れないと気がすまないんだ」
おみそれしました。
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Comments

…ああこうなると、先取りしすぎて何が何だかという気がしますな、私のような記憶力貧窮な人間には(笑)
>双月城
というわけで、読んだのに~、何にも憶えてません。でもシチュエーション的に、偶然『断頭台』に似ることは大いにありえそう。
>『黄色い下宿人』
これ、実は日本人による○○○○パスティーシュの嚆矢らしいです(私は『日本版○○○○贋作展覧会』上(早川文庫)で読みました)。
それだけで凄いのに話もうまかったですね。
実は、これが17歳で読んだ『柳生十兵衛死す』以来の山風作品で(3年前ぐらい)、それからまた途切れてて、その後一気読みをした…という、途中の「ブイ」的な作品だったりします。
その後この○○○○パスティーシュはすっかり有名になりましたが、未だに正統だなと思うのはこの山風です。
最近では、いきなり何の脈絡もなく(これが凄い)「新玉川線」とか「二子玉川」とかが出てくる霞流一さんのパスティーシュに目が点になりました(確か、芦辺拓編『贋作館事件 ブラウン神父の日本趣味』原書房所収)。
>島田荘司『○○と倫敦ミイラ殺人事件』
わはは。これはもう絶対、山風リスペクトはあるでしょう。私はこれを大昔に、『黄色い』より先に読んでました。「○○」も「倫敦」も大好きですから。多分古本屋で見つけて買ったもので、実は珍しくまだ売ってなくて持ってるんじゃないかと(笑)これが初島荘。
というわけで、この2作品共に、私の近年の読書では偶然「里程標」的なもので、これが組み合わさっていると考えるとなかなか感慨深いものがあります。

Posted by: 高野正宗 | August 09, 2006 12:53 PM

おばんです
>読んだのに~、何にも憶えてません
わたしもだいぶ忘れてきました。二作目の『獄門島』もとい『監獄島』もまだ読んでません

>○○○○パスティーシュ
考えてみれば○○○○のパスティーシュだってことは隠さなくてもよかったかな? 山風は○○○のパスティーシュも書いてましたね
この系統で思い出すのはやはり西村京太郎の『名探偵なんか怖くない』に始まる4作品です

>>島田荘司『○○と倫敦ミイラ殺人事件』
自分の中でも島荘ベスト5に入るかな。山風の方がやや皮肉っぽい作品であるのに対し、こちらはハートウォーミングなところがいいですよね。最後のセリフがまた気が利いてます。新保博久氏も両方ほめてました

Posted by: SGA屋伍一 | August 09, 2006 10:15 PM

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