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August 16, 2006

はぐれ警部怪奇編 イアン・ランキン 『影と陰』

20060816190145スコットランドを舞台にしたハードボイルド小説、リーバス警部シリーズの第二作です。第一作のレビューはこちら
http://sga851.cocolog-izu.com/sga/2005/05/post_2e31.html
エジンバラの貧民街で、ある青年の怪死体が発見される。現場には悪魔崇拝的な装飾がなされており、その種の集団の仕業かと思われた。だがリーバスは捜査を進めるうちに、青年がある重大な秘密を隠していたことを知る。やがて浮かび上がる、エジンバラの「影」。リーバスはその「影」と対決することに・・・

たった二作しか読んでない身でおこがましいですが、どうもこのランキンさんという作家、それほど多様な引き出しがあるわけではないようですね。むしろ自分が興味のあるひとつのテーマを、ちょっとずつアレンジを変えながら、繰り返し追求していくタイプのようです。
そんなわけで今回も前作と同様のモチーフが色々見えます。もっとも重要なものが、『ジキルとハイド』。人には誰しも二つの顔があります。善性と悪性。外面と内面。多くの登場人物の姿を通して、ランキン氏はそういった人間の「光」と「影」を暴き出していきます。また、複雑で微妙な間柄である「兄弟」というモチーフも、アレンジを変えて再度用いられています。
二面性といえば我らがリーバスも例外ではありません。前にも書きましたが、この男、別れた恋人や部下の扱いに関して「あーでもないこ-でもない」と悩んでばっかり。そういうところは本当に小人物です。しかし許せない巨悪を目の当たりにすると、己の身も省みず、真っ向から立ち向かっていく・・・・ まるで「もーがまんならん」と討ち入りにいく、王道時代劇のよう。ひごろウジウジしててもやるときゃビシッと決める。そういうところがこのリーバスという男の魅力なんでしょうか。高野さん?
リーバスといえば第一作ではもろに自分のトラウマと直面することとなりましたが、今回は彼とは直接関係のない人々の事件です(普通そうだよね)。見ず知らずの若者(しかももう死んでる)のために、「なんでそこまで一生懸命になれるんだろう」と思わないでもありませんでしたが、そこは「仕事熱心」「凝り性」ということで納得することにしました。

この小説、原題は『HYDE AND SEEK』といいます。でも邦題全然ちがう(笑)。まあ直訳すると「隠れん坊」もしくは「隠れて探して」ですからねえ。多くの人に買ってもらうために、なんかこうイカしたタイトルが欲しかったのでしょう。ただ、あとがきを読むとそれなりに考えてつけられたようです。一方の「カゲ」はエジンバラの蔑まれた人々を、もう一方の「カゲ」は人間のうちに潜む恐ろしい欲望をさしている・・・ということでしょうか。
一作目とともに早川文庫より発売中。文庫で出してくれるのはありがたいんですが、780円となると、もう文庫の値段じゃない気がするんですが。
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Comments

こんばんは。
タイトルからしてイイーッ!
相変わらず鋭い!
第1作のレビューも読み直してみましたが、仰る通り、確かに初邦訳『黒と青』とか、『血の流れるままに』あたりの方が完成度は高いですね。
でもまあ、初々しい第1作もいいし。やっぱり、シリーズの大きな通奏低音である「トラウマ」を大いに描いた作品ですね。
シリーズのテーマといえば、確かに、全体に…暗い(笑)
と一言で済ませるわけにもいきませんが、やっぱり「スコットランドの社会」「階級差」「偉い人たちの悪事」、最新作品あたりだと「親と子」、そして第1作からずっと続く「トラウマ」(リーバスには軍隊時代のトラウマがずっとありますからね)とか…やっぱ暗いか(笑)
しかし仰るように、メッチャ小さい所とメッチャ強いところが、極端すぎて面白くて好きですね。
特に、別れた奥さんにはそんなに未練があるわけではないですが、初期に恋仲、後に上司となるジル・テンプラー、中盤以降部下となり、気になる存在に…(続刊が楽しみ)のシボーン・クラークといい、好きな女性に対してはメッチャ小さい男です(笑)何でこんなにクヨクヨクヨクヨ悩むの?ってことばっかり考えますね。悪い方悪い方へ(笑)
後の方の作品になると、別れた奥さんや娘も出てきて、娘は事件に巻き込まれてしまって、やっぱりリーバスは大変です。
でもって、最近の作品では、当然、もう結構いい年だってのがねえ(笑)
本当に、マイクル・コナリーのハリー・ボッシュといい、一匹狼さんを見ると、「何故、そこまで?」ですよね~。でもしょうがないですねえ、そうじゃないと話にならないし、人はそういう、一銭にもならんことに矢も盾もたまらんという人には、ドキドキはしますが楽しいもんです。
>780円
あなたは、旧作のポケミスの裏表紙に更におぞましきものを見るであろう。

Posted by: 高野正宗 | August 16, 2006 10:43 PM

さっそく感想の感想、ありがとうございます
>シリーズのテーマといえば、確かに、全体に…暗い(笑)
やはり(笑)。ただ1、2作目はたまに軽妙な会話もあって、とことん真っ暗って感じでもないですね

>スコットランド
イングランドの陰に隠れてほとんど実情がわかりません。けっこう貧富の差があるのでしょうか。そういえばメル・ギブソンの『ブレイブハート』はスコットランドの話でしたね

>ヒロイン
実は名前忘れてまして。最初にリーバスが仲良くしてる女性がそうかと思ったら違う人でした(笑)。で、この巻でまたヨリを戻し・・・ 恋人がこけた途端に前の男に会いに行く女ってのも、どうなんでしょう(笑)

>ポケミス
翻訳モノでいうと、ジャイヴ・アメリカンコミックスもすごいですよ・・・・
値下げ要求

Posted by: SGA屋伍一 | August 17, 2006 07:57 AM

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