愛と哀しみとギャグと みなもと太郎 『ハムレット』
本日は恒例の『風雲児たち』コーナーを一回お休みし、つい先日星雲社より発売されたみなもと先生の傑作集『ハムレット』をお送りいたします。
この本にはみなもと先生が『風雲児たち』の前、あるいは合間に描かれた5編の名作パロディ漫画が収録されており、どの作品にもパロディ職人である先生の手腕が遺憾なく発揮されております。
せんえつながら、各作品をご紹介してまいりましょう。
『ハムレット』
原作はシェイクスピア(言うまでもないか)。その後えんえんと続く名作パロディシリーズの、第一作。感動的なシェィクスピアの作品も、ちょいと見方を変えるとかなりバカバカしい話であることがよくわかる作品。『ロミオとジュリエット』なんかも色んなところでパロられてますしね。発作的・衝動的に行動するキャラクターが、みなもと漫画とよくマッチしております。そういえば『ライオン・キング』も作者は「『ハムレット』が原案」としつこく言い張っているそうですが
『シラノ・ド・ベルジュラック』
原作はエドモン・ロスタン。たぶん5作品の中で一番マイナーなんじゃないかと思われます。原典では「鼻がでかい」ということを気にしているシラノが、本作では「鼻がない」ということに悩んでおります。改変の理由は、「漫画では鼻が省略されることが多い」ということと、「主役くん」(上画像の彼。便宜上そう呼びます)に主役をやらせたかったからでしょう。ラストも原作とはやや異なっております。オリジナルを確認されたいかたは岩波文庫かジェラール・ドパルドューの映画で確認なさってください
『乞食王子』
原作は『トム・ソーヤー』で知られるマーク・トゥェイン。タイトルだけでもアレなのに、本編にはもっとすごい言葉が使われたりしてます(笑)。収録作品のなかで、一番カタルシスに富んだ漫画。例の「主役くん」が一度に二人も出てくる点は特筆に価します(まあ原作がそういう話だからなんだけど)。作品の中に実在の人物(ヘンリー8世)が出ていたとは知りませなんだ
『モンテ・クリスト伯』
原作はアレクサンデル・デュマ。昨年のSFアニメ版が記憶に新しいですね。この作品のみ『少年マガジン』掲載(ほかは全て『希望の友』)。これまでが短編・戯曲であったのに対し、『モンテ・クリスト』は文庫本4,5冊に及ぶ大長編。それを無理矢理約70Pに圧縮(笑)。先生としては色々心残りのある作品らしいですが、要所要所をしっかり押さえてまとめ上げているところは、さすがパロディ職人であります。
『スターウォーズ・ドンキホーテ』
原作はセルバンテス。こちらだけ少々色合いが違っておりまして、近未来に舞台を移し変えての設定となっております(正面からやろうとしたら、許可がおりなかったらしい)。また他の作品がすべて1972年に発表されているのに対し、この『スターウォーズ~』だけは1988年に掲載されています。ついでに単行本初収録。
幼少時よりアニメに骨の髄までつかった呑木放手老人が、宇宙旅行が可能になったのをいいことに、宇宙で妄想全開の活躍を繰り広げるストーリー。全ての空想好きな少年と、アニメオタク青年に夢を与える大傑作であります。柳田理科男氏の『空想科学読本』に対するアンチテーゼのような・・・と思いましたが、こちらの方が先に書かれておりました。
解説はなぜかアメコミ伝道師の小野耕生氏。みなもと先生のこの路線としてはほかに、マガジンで描かれた『冗談新撰組』(イーストプレス)『日本武尊』『姿三四郎』、また『希望の友』に連載され最大のボリュームとなった『レ・ミゼラブル』(ブッキング)があります。
星雲社はひきつづきみなもと作品の『極悪伝』を発行予定。もしかするとこれが、あの「原稿料がろくにでないかわりにやりたい放題やった」シリーズなんだろうか。ぼくちゃん怖い!
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