機械じかけのオレんち 綾辻行人 『びっくり館の殺人』
本日は「新本格」の第一人者、綾辻行人氏の最新作『びっくり館の殺人』をお届けします。
十年半ぶりにかつて暮らした街を訪れた青年・永沢三知也。ふと古書店で『迷路館の殺人』なる本を手にした彼は、それをきっかけにそこで体験した様々な出来事を思い返していた。お屋敷町の一角にそびえたつ不思議な館『びっくり館』。そこに住む病弱な少年・俊生と友達になったこと。『びっくり館』の中に内蔵された様々なびっくり箱。そしてクリスマスに起きた『びっくり館』での殺人事件・・・・ 果たしていま『びっくり館』はどうなっているのか? 三知也の足は再び忌まわしいあの屋敷へと赴いていく。
綾辻作品の魅力は、以前にも書きましたが、それまでの世界がひっくりかえってしまうような(誇張表現に非ず)「大どんでん返し」。果たして今回はどうだったかと言うと・・・・ うーん、タイトルほどには「びっくり」しませんでした(笑)。前作『暗黒館の殺人』から一年半くらい。その前が十年以上待たされたことを考えるとかなりハイペースですが、その分作品もあっさり風味でしたね。
まあ今回は「本格ミステリー」というより、心理的ホラーの色が強い気がしました。断片的な記憶を探っていくうちに恐ろしい真実に行き当たってしまう・・・ これも綾辻作品の黄金パターンです。
その不気味なムードをかもし出すのに役に立っているのが、七戸優氏が書かれる古風な挿絵。年代の割りに昭和初期をイメージさせるその画風は、作品のカラーとあいまって楳図かずおの世界を連想させます。
特に210・211Pにまたがったシュールな挿絵には、形容しがたいインパクトがありました。
こんな風に感じるのは、最近わたしがあまり挿絵のある本を読んでいないせいかもしれません。その分お金がかかるのでしょうけど、もっと新書・文庫に味のあるカットを入れてもいいんじゃないでしょうかね。ライトノベルとはまた違う形で。
さてこの本、講談社の「ミステリーランド」というレーベルから出ています。一見児童書風の凝った装丁で、「かつて子どもだったあなたと少年少女のためのー」というコピーが書かれています。「じゃあ子供向けなのか?」というと、これがむずかしい。少年が主人公というだけで完全に大人向けの作品もあれば、一応子供向けだけど変にマニアックな作品もあるそうで。「子供向けの皮をかぶった大人向けミステリー」という表現が一番しっくりくるかも。
ただ児童が自分で好きな本を選ぶ「うつのみやこども賞」は、ここ三年連続でこのレーベルから選ばれているそうなので、一応年少者からの支持もあるようです。そういや自分も小学生時『三毛猫ホームズ』シリーズを読み漁っておりましたが、あれもいま考えりゃ子供には少々早い内容でしたしねえ。
『館』シリーズは全10作になるそうですが、この『びっくり館』も正当なシリーズとしてカウントされるとのこと。そうするならば残る館はあと二つ。こころして待ちたいと思います。
また『動物のお医者さん』などで知られる佐々木倫子さんとの共著『月館の殺人』下巻もそろそろ発売。こちらも楽しみでやんす。
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