山田風太郎に関しては色々言わせてもらいたい⑫ 『風来忍法帖』
こないだ「ワースト忍法帖」について書いたので、今回はマイベスト忍法帖について語ります。その名は『風来忍法帖』!
時は戦国時代。アナーキーな環境をいいことに、やりたい放題な暮らしをしていた七人の香具師たち。ある日道中行き会った姫君から恥をかかされた彼らは、男の意地にかけて姫の貞操を奪うことを決意する。ところが姫の苛酷な運命を知るにつれ、香具師たちはいつのまにか姫の味方に。かくして姫が守る忍城(おしじょう)を舞台に、七人の香具師たちと、城をねらう怪物のごとき風摩忍者の壮絶な戦いが始まる
なにがすごいってまずこの香具師たちの名前がすごい。悪源太(ワイルド)、昼寝睾丸斎(軍師)、弁慶(強力)、七郎義経(イケメン)、陣虚兵衛(ニヒリスト)、夜狩りのとろ盛(トレモロ)、馬左衛門(巨根)・・・ この名前だけでわたしは本作の面白さを確信いたしました。彼らはそれぞれ特技を有しているんですが、これがおおよそ非実用的なものばっかりで、そこがまた面白い。
『魔界転生』や『甲賀』もすごい作品でしたが、強いて不満をあげるならば、ちと主人公が強すぎるところ。それなりに手に汗握るものの、「こいつなら大丈夫だろ」的な安心感があるのもたしかです。ですが本作の香具師たちはもともと遊び人みたいなもんですから、戦闘においてはどうにもこころもとない。しかも相手はバラバラにされても死なない戸来刑四郎や、分身の術を使う累破蓮斎など、ほとんど化け物みたいな忍者ばっかり。普通ならどう考えても香具師たちが勝てる見込みはない中、それをどうやって打破するのか・・・ そいつは読んでのお楽しみです。
また『風来』はキャラだけでなく、ストーリー展開もまことに痛快です。前半ではなんとか姫に仕返しをすべく、連中があっちへ行ったりこっちへ行ったり、予測不可能・爆笑必至の活躍を見せてくれます。それが話が進むにすれ、香具師たち(狙う側)VS風摩忍者(守る側)の構図が逆転。ツンデレの祖先たる麻也姫を守るべく、ほとんど絶望的な戦いに彼らは身を投じることになります。それでも馬鹿と誇りを失わない風来坊香具師たち。数ある忍法帖のなかでも、これほどまでにリリシズムとユーモアが溶け合った例を、わたしは知りません。
豆知識1 作中に出てくる「トーン、トーン、唐辛子」という歌はそれから27年後に書かれた『室町お伽草紙』にも出てきます。元ネタがあるんでしょうか?
豆知識2 本作品は1965年に東宝により映画化されています。主演はなんと渥美清。香具師→寅さんという発想でしょうか? しかも「八方破れ」という副題のついたオリジナル続編まで製作されています。
Comments
こんにちは。
風来いいですよね〜!!もう私の中でもベスト中のベスト作品です。
なにより素人対プロ、14人対3人の変則対決とても面白いですよね。
敵の風摩忍者は、忍法帖でもトップクラスの最強軍団なので、一人倒すのに
何人が死んだ、と勘定するとオソロシイですよね。
あの『トーントーン…』の節は『室町御伽草紙』にも登場するんですか。
山田作品に登場するそういった歌詞や節回しは本人の創作も多いらしいそうですがねえ。
渥美清さん主演の映画、評判悪かったようですね(汗)
源太ファンの私としては源太はもっとイケメンの若い俳優して欲しかったもんです(笑)
Posted by: みずぐきまり | July 19, 2006 11:57 PM
さっそくありがとうございます。『風来』もっと知られてほしい作品ですが、下手に漫画化・映像化されるのもあれだし。せがわまさき先生なら大丈夫でしょうか
>一人倒すのに何人が死んだ
そうですね~ バタバタ忍者が死んでいく忍法帖にあって、一人倒すのにこんなに苦労している作品も珍しい。『伊賀』の城太郎も相当苦労してましたけど、これほどではなかったですね
>あの『トーントーン…』の節は『室町御伽草紙』にも登場するんですか。
はい。他にも『室町』に『伊賀』『海鳴り』でおなじみの松永久秀が登場したりと、色々忍法帖に近いテイストが感じられる作品です
>渥美清さん主演の映画、評判悪かったようですね(汗)
そのようですね。あらすじ読むと七人いる香具師がたった三人しか出てこないそうなので、その辺でもう・・・
こちら↓にくわしく書いてあります
http://www.fjmovie.com/nikoniko/atsumi/650516.html
Posted by: SGA屋伍一 | July 20, 2006 07:51 AM