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July 01, 2006

風と雲とギャグと 『風雲児たち』を語ってみたい⑩

今日は無印版『風雲児たち』前半を象徴するようなコンビ、林子平と高山彦九郎について。潮版でいうと5巻から16巻、リイド版でいうと4巻89Pから12巻100Pまでのおはなし。

一見天下泰平とも見える江戸中期、「この国は危ない!」と真剣に考える二人の男がいました。一人は仙台藩士林子平。諸国を漫遊し、多くの知識と教養を身につけた子平は、日本がいつ外国に攻め込まれてもおかしくないことに気づきます。四方が海に囲まれたこの「海国」を守るためにはどうしたらよいか、子平はその対策を論じた『海国兵談』なる書物を著して幕府に意見します。
もう一人は上州郷士高山彦九郎。もともと先祖が新田義貞(らしい)であることから天皇への崇敬の念が篤かった彼は、東北での飢饉の惨状を目にするにあたり、「天皇に政権を戻させることが」この悲劇を無くすことにつながると考えます。
異なる意見に対し不寛容だった時の権力者・松平定信が、彼らを黙って見過ごすわけはありませんでした。真に国のためを思い行動した二人に対し、幕府は容赦ない弾圧をもって報います。

この二人、戦前・戦後まもなくくらいは普通に義務教育で教えられる人物だったようですが、わたしはこのマンガを読むまで全然知りませんでした。自分の無知も省みず、「オリジナルのキャラかしら」なんて思ったものです。
彼らが義務教育から敬遠されることになったのは、恐らくその思想にあると思われます。片や軍国主義、片や天皇崇拝で片付けてしまう人も多いでしょうから。たしかに彼らの主張にはいささか限界があり、やりようによっては大いに国家に弊害をもたらすものです。みなもと先生も作中でそのことをきちんと述べておられました。でも先生が子平・彦九郎を好意的に描いているのは、二人のその無私の精神に心打たれたからではとわたしは考えます。家庭の幸せを持つことすらあきらめ、天下万民のために身をなげうってまで信念を貫くその姿は、時代を超えてわたしたちの胸を強く打ちます。
さしあたって平和な時代において彼らの言い分は、大洪水の前のノアの如く、多くの人々にとって「狂気」と見えたかもしれません。もう一人蒲生君平なる思想家も加え、後に「寛政の三奇人」と呼ばれる所以ですが。
たしかに二人が生きた時代に、その思想はあまり要をなさないものでした。しかし彼らが没した後、日本は徐々に欧米列強の驚異を無視できなくなっていきます。幕末にいたり、志士たちが新たな日本を築くために礎としたのは、子平・彦九郎の思想であり、生き様でありったにちがいありません。

毎度このレビューを描いていて思うのは、「どうしてこんなに堅苦しくなってしまうのか」ということ。そしてそのたびに強調してますが、「このマンガはギャグマンガでもある」ということ。
子平も彦九郎も尊敬すべき人物でありますが、太平の世にこれほど面白い人物もまためずらしい。日本全国をまたにかけ、一揆に加わったり、暴徒を鎮圧したり、様々な人物と交友を深め合い、かと思えば長期にわたりひきこもってしまったりする。そのめまぐるしい人生を、未読のかたたちはぜひ堪能していただきたい。

わたしが最初にこの作品の名を知ったのは、アニメ雑誌『OUT』 のレビューだったことは先に述べました。そこには、子平さんのこんな川柳が紹介されていました。

この首(こうべ) 飛ぶか飛ばぬか 明けの春

男子と生まれたからには、一回くらいこんな名句を詠んでみたいものです。はい。

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Comments

高山彦九郎の銅像がある駅の電車ファン、まさとし@おけいはんでございます。因みに京阪ファンは彦九朗がどんな人か知らないでも
銅像があることを知ってて当たり前。
>林子平
教科書では2行で片付けられた方ですね。彦九朗は全く出てこないし。
>「オリジナルのキャラかしら」
・・・頼む、せめて教科書にでた人物ぐらい覚えててね。
>松平定信
「鬼平」は好きだけどこいつだけは・・・・とこのマンガ読んで価値基準を大幅に下げた人物です(因みに田沼、子平は大幅にランク上げた方)。
>片や軍国主義、片や天皇崇拝
この国はどうも聞く耳持たずか噛み砕かずかで結果、
物事を極端に鵜呑みする悪しき遺伝子があるようで・・・・・・。
そういえば、マンガでは書かれてないけど彦九朗妻子のその後は
悪くない方に落ち着いてるようですね。勿論、裏切り者の兄貴もな。
諸悪の根源である筒井某は、某国定放送の
韓国宮廷女官番組に出る悪の一派並に
懲らしめられなかったのだろーか?
こういうのは定信の仕事なんですけどね
(火盗改と隠密同心は定信の主宰)。
ではまた。

Posted by: まさとし | July 02, 2006 at 12:58 AM

すいません、すっかりご無沙汰してまして

>京阪ファンは彦九朗がどんな人か知らないでも
銅像があることを知ってて当たり前。

そうなんだ・・・ 彦九郎さんは上州生まれだけど、どっちかと言うと西日本の方のほうが馴染み深い存在なんでしょうね

>・・・頼む、せめて教科書にでた人物ぐらい覚えててね

いや、わたしの使ってた教科書(中学)には出てなかった・・・と思う。たぶん(笑)
友人の使ってた高校の教科書には出てました

>「鬼平」は好きだけどこいつだけは・・・・

まあ『風雲児』読んで好きになったひとはいないでしょうね。権力者でありながら物欲のないところは偉いと思うんですよ。ただあまりに独善的ですねえ。後の水野忠邦ともそういうところは似てます

>マンガでは書かれてないけど彦九朗妻子のその後は
悪くない方に落ち着いてるようですね。

よかったよかった。たしか吉村昭の著書では友人たちが世話してそのあと・・・どうなったんだっけな

>諸悪の根源である筒井某

なぜここで康隆が・・・と思いましたが、そういえば例の悪代官、そんな名前でしたね

Posted by: SGA屋伍一 | July 02, 2006 at 09:26 PM

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