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July 10, 2006

摩天楼の山猫 吉田秋生 『BANANA FISH』

20060710180542_1なんでいまごろ『バナナフィッシュ』かと申しますと、先日共通キャラが登場する『YASHA』が文庫化されまして、いまそれをコツコツ読んでるからです。

たぐいまれな容姿と知性をもちながら、NYの不良少年たちをたばねる少年アッシュ・リンクス。自分の縄張りで恐るべきドラッグ「バナナフィッシュ」が出回ったことから、アッシュはその出所を探る。だがその背後にはマフィアや米国政府までもがからんでいた。自身の呪われた過去におびえながら、巨大な敵と戦うことを決意するアッシュ。その最中、彼はジャーナリスト志望の日本人青年・英二と出会う。英二の温かな人柄に触れ、安らぎを覚えるアッシュだったが、闇の組織たちは二人に平安を許さない。

90年代は「男が主人公の少女漫画」がいろいろ脚光を浴びた時代でもありました。『動物のお医者さん』『CIPHER』『陰陽師』etc。そんな中でもっともドッ硬派を貫いていた作品が、この『BANANA FISH』であります。
ストリートギャングにコルシカ・マフィアに黒社会。謀略戦に銃撃戦。そのなかで奏でられる男たちの哀切と誇り(おまけに女性キャラほとんど登場せず)。少年マンガファンやハードボイルド好きにも楽しめること請け合いな、一大アクション巨編となっています。

その一方でこの作品がまぎれもなく「少女漫画」でもあるのは、一貫して「真実の愛」(恥ずかしいな・・・)というやつを描いているところにあります。といってもアッシュと英二のアレな描写があるわけではありません。なんつーか『バナナ』の世界ではそういう欲望は「汚らわしいもの」とされています。おおよそありとあらゆる天分にめぐまれながら、それゆえに幼いころから被虐の対象とされてきたアッシュ。その彼に初めて無償で暖かく接してくれたのが英二でした(あ、兄ちゃんもいたか)。やがて二人はお互いになくてはならない存在になっていきますが、やはりそういうのって単なる友情以上の関係ではないでしょうか。「恋愛感情に似たものはあったかもしれない。・・・だが魂のもっと深いところで結びついていたんだ」 後にある人物が二人のことをそんな風に評します。
万能だけどトラウマを抱えた者と、目立たないけど人を癒せることのできる青年。そういったところは『日出処の天子』の厩戸王子と蘇我毛人と似てます。またちょっとネタバレになりますが『ウエストサイド物語』なんかも意識されてると思います。

基本的にこの物語は、主人公であるアッシュのために存在しているようなものですが、脇を固めるキャラたちも実に個性的かつ魅力的です。ギャグメーカーのショーター。カリスマと子供らしさをあわせ持つシン。暗い宿命を背負う、裏アッシュ的な月龍。アッシュに父親のような愛情を注ぐマックスやブランカ、などなど。

マンガって美しく終るのが難しいメディアだと思います。人気作品であればなおさらそうでしょう。ですが『BANANA FISH』はそんな中にあって、じつに美しい終り方を迎えた作品と言えます。
「君は一人じゃない ぼくがそばにいる」
この言葉と共にしめくくられるエピローグの感動は、読後十年を経たいまも変わることはありません。
吉田先生の画風がどんどん変っていくという点でも貴重な作品。『BANANA FISH』は現在小学館漫画文庫より全11巻+外伝1巻が発売中です。
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Comments

英二は確かにへなちょこなんですけれども、仲間、特にアッシュを可愛がることにはとびきり、長けていたんですねー。そういう相手に出会う奇跡が、ラストの出来事によって区切られることで、また特別なものへと昇華する。ある種の、幸福の極みかもしれません。

そんで『ANOTHER STORIES』が救いをあたえてくれるのがまた、良いですよね。私的にはショーターが、変なTシャツ着て活躍する『ANGEL EYES』が嬉しかったです。彼が髪を「伸ばしていた」とは知らなかった。

Posted by: ほーりぃ | July 18, 2006 at 12:46 PM

>そういう相手に出会う奇跡

普通はそういう相手が女性だったりするんですけど、それが「男だった」というのが「バナナフィッシュ」の特異な点ですね
わたしは英二嫌いじゃないですけど、女性読者のなかには「いらつく」という意見もあるようで

>ラスト

「いろいろ言われているがハッピーエンドだった」
『ダ・ヴィンチ』に出ていたこのコメントになんか同意してしまいました

>『ANOTHER STORIES』

わたしはやっぱり『光の庭』が好きですかね。『ANGEL EYES』も好きですが。ショーターのひょうひょうとしたところはいいですね

Posted by: SGA屋伍一 | July 19, 2006 at 08:37 AM

>女性読者のなかには「いらつく」という意見もあるようで

そのようですね、最近、そういう見方もあることに気付いたんですよ(遅ッ+鈍ゥ)。
でも他人に対して、これほど誠実であり続けることって殆どできないと思いますよ、いくら特殊な状況下であっても。英二が持つ美点が、その一点のみだったとしても、それはそれは魅力的な人間であると思います。

>『光の庭』

どの話でいちばん心を動かされたかというと、もちろん、これです。ほぐされて、ほっとしますね。

Posted by: ほーりぃ | July 19, 2006 at 12:48 PM

まあなんだかんだ言って、英ちゃんは人気第二位だったそうですから(1番は言わずもがな・・・)
アッシュが総じて好意を集めるタイプなのに対し、英二は人によって反応が真っ二つに分かれるタイプなんでしょうね
それにしても外伝所収の英二くんは、あんまり『バナナ』での彼と一致しないなあ
あと、彼は文中で述べた毛人に比べれば、まだ色々役に立ってたと思います

>光の庭
何度読んでもじ~んと来ますね。このエピソードのおかげで、作中人物だけでなく、我々も救われた気がします
で、この辺が例の『YASHA』につながっていくのかな?

Posted by: SGA屋伍一 | July 19, 2006 at 07:12 PM

私もバナナフィッシュ大好きです。
ラストの英二の手紙の「背も身体も君の方が大きいのに、僕は君を守ろうとしていた。君を連れ去り押し流そうとする運命から」という一文に、胸を打たれました。


私は外伝なら「fly boy,in the sky」がもう本編よりも好きで好きで。
コマ割り、セリフまわしに天才、吉田秋生を見ました。

Posted by: みずぐきまり | July 19, 2006 at 11:45 PM

愛読者多いですね『バナナフィッシュ』
わたしがラストで特に印象に残っているのは英二の手紙ももちろんですが、シンの兄であるラオとのやりとり
一言一言に深く重い響きが感じられました

>「fly boy,in the sky」
このエピソードは絵を描く方には一層興味深いところがあるんでしょうね。題材は写真ですけど
英二くんもこのあとアメリカ行って、あんな体験をすることになろうとは、夢にも思わなかっただろうなあ

Posted by: SGA屋伍一 | July 20, 2006 at 07:42 AM

>で、この辺が例の『YASHA』につながっていくのかな?

「あの話とこの話は実は同じ世界でつながってる」というのは、ファンには嬉しいおまけですね。
後の風龍さんは、あそこまでで終わらせてしまうにはもったいないキャラでしたし、吉田先生ったらナ~イス判断(笑)

>「fly boy,in the sky」

冷たい雪の中、イベっちの温もりがしみる、ええ話です。こんなお人好しに出会う機会に恵まれて、よかったね英ちゃん。

Posted by: ほーりぃ | July 20, 2006 at 12:46 PM

>「あの話とこの話は実は同じ世界でつながってる」というのは、ファンには嬉しいおまけですね。

そうですね。自分そういう細かいサービスとか好きなので。少し前に読んだあるレビューでは、『YASHA』について、「『バナナフィッシュ』の○○が特に必然性もなく登場する」とありました(笑)

>>「fly boy,in the sky」

この話も人気ありますね。そうそう、この話ではイベさんも輝いていたなあ。イベさん、『バナナ』後半では「空気」だったからなあ(涙)
オヤジキャラがやたら目立つという点でも『バナナフィッシュ』は異例の少女漫画でした

Posted by: SGA屋伍一 | July 21, 2006 at 07:59 AM

同性愛は苦手だからアッシュと英二の仲はあまり好きじゃないけどベトナム戦争・ストリートキッズ・マフィアなどの世界事象をこれだけ巧みにあつかいドラマチックに仕立て上げる吉田秋生女史の技量は驚愕に値します。どんな人生を歩んだらこんな作品を描けるんでしょう。しかも本人はアメリカに行ったことすらないのに

Posted by: いよかん | December 05, 2006 at 03:23 AM

>いよかん様
はじめまして。ココログのメンテのため返事が遅くなってすいません
>同性愛は苦手
自分も苦手です(笑) 上で「真実の愛」とかややこしいこと書いてますが、アッシュ×エイジの関係は友情がもっと崇高にレベルアップしたようなものだと考えております

>どんな人生を歩んだらこんな作品を描けるんでしょう
わたしもよくは知りませんが、以前読んだある本で「普通の恋愛とはあまりに近いところにいたから、書く気がしない」みたいなことをおっしゃってました。ほかはスキューバが趣味だとか・・・

>本人はアメリカに行ったことすらないのに
坂本龍一氏が「本当にNYってこんな感じ」と評されてました。恐らく海外の映画・小説をたくさん見たり読んだりして、「空気」をつかみとっていったものかと思われます。大した観察力というほかありません

Posted by: SGA屋伍一 | December 08, 2006 at 07:55 AM

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