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June 14, 2006

風と雲とギャグと 『風雲児たち』を語ってみたい⑨

「コーダユ!!」

というわけで今回はわたしが無印版『風雲児たち』でもっとも偏愛するエピソード、「大黒屋光太夫編」についていかせていただきます。潮版で9巻から16巻、リイド版で7巻から12巻100Pまでのはなし。

天明二年秋、駿河沖で一艘の船が嵐にもみくちゃにされておりました。船の名は神昌丸。船長の名は伊勢の商人大黒屋光太夫。なんとか嵐は乗り切ったものの、陸地がどこだかわからない。八ヶ月も海原をさまよった挙句、船はアリューシャン列島のとある島に流れ着きます。日本に仲間を連れて帰るため、光太夫は血のにじむような苦労を重ね、海を渡り、雪原を走ります。やがて少しずつ開けていく帰国への道。だがその間にも、仲間は一人、また一人と脱落していくのでした。

これ、すげえ話ですよ。鎖国の世の中で、ごく平凡な商人だった一人の男が、ユーラシア大陸をえんえんと横断して、ついにはロシア皇帝と謁見を果たすとこまでいくわけですから。これをすごいと言わずしてなんと言う!? まさに歴史における一つの奇跡ということできます。

自分はこの光太夫という人物、この漫画で知りました。だもんで初登場の嵐のシーンでは、「この人が後でジョン万次郎になるのかなあ」と相当アホなことを考えておりました。あとで知ったことですが、この光太夫の物語は先に井上靖先生が、『おろしや国酔夢譚』という本で著されてます。後に緒方拳主演で映画が作られたりもしました。でもですねー、読んで一番感動するのはやはりこの『風雲児』ヴァージョンだと思うのですよ。
なんでかっていうと、それはやはりこれがギャグ主体で描かれてるからなんです。光太夫たちに次々に降りかかる逆境はあまりにも絶望的で、本当にもう笑うしかないような状況。しかし一行は「ほとんどヤケ」みたいな気合いで乗り越えていきます。それがギャグ調で描かれることによって、とてもストレートに表現されてるんですね。
そして「ギャグだけど泣ける」、このカラーがもっともよく表れてるのも、この光太夫のパートだと思います。ともに泣き、ともに笑いあった仲間が脱落していく場面は、涙なくしては読めません。

「光太夫どん・・・・・・」「お前そのかっこウ・・・・・・ まさか・・・・・・・・・ まだなんだろ?」「何とかいってく・・・・・・」

号泣です。それしかありません。君も読め! そして泣け!!
・・・すいません。えー、ぶっちゃけこの光太夫パートは他の部分とあんまり関りません。ただ、彼らが帰ってきたとき、幕府高官の前でいう一言「このお二方が日本を代表する大学者である・・・・・・と」
この一言と、そして異国に残った仲間が成し遂げたある仕事。そのためにこの物語は語られねばならなかったのだと思います。

コーダユさんはたまたま嵐に遭遇してしまったがゆえに、歴史に名を残すことになりました。大石蔵之助と一緒で、何事もなければそのまま誰にしられることもない、普通の生涯を送ったことでしょう。けれどいくつかの偶然が、彼を希代の風雲児としてしまった。でも彼は本当は伊勢で平凡な商人として、ささやかに一生を終りたかったのだと思います。
日本兵としてロシアに渡り、戦争が終ってもずーっとそこにとどまっていたある男性が、ついこないだとうとう帰国したというニュースを聞きました。なぜ帰らなかったのか?という問に、その男性は「それが運命だと思った」と答えました。色々状況等違う点はあるでしょうけど、その話を聞いたとき、わたしは光太夫とロシアに骨を埋めた漂流者たちのことを、ふと思い出したのでした。

次回は「寛政の奇人」林子平と高山彦九郎についてやらせていただきます。

 


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Comments

>この人が後でジョン万次郎になるのかなあ
あっしも……(汗)
雑誌連載中は何でこんな話(他の話とまるでつながらないという意味で)やるんだろ、と思っていました。ただでさえ展開が遅いのに、ますます遅くなって、という感じで、読んでいて結構ツライものがありました。

光太夫が帰ってきて、子平、彦九郎が死んだ後、連載はお休みに入り、かの『スターウォーズドンキホーテ』の短期連載になるのですが、これを読んで、何だみなもと太郎はまだ面白い話が描けるじゃないか、枯れたわけではないんだな、と思ったほどでした。

で、その後再開した『風雲児たち』で、光太夫の帰国後の物語、あの人の名前が呼ばれるあたりで、このマンガは途轍もないものなのだということに、遅まきながら気付くのでありました。このシーンのために延々これをやっていたのか!と驚いたわけですが、それも伏線に過ぎず、後でまたびっくりすることになるのです。

Posted by: かに | June 14, 2006 at 09:42 PM

>あっしも……(汗)

おお、同志(笑)
即コメントありがとうございます。実際に連載おっかけていた方の証言は貴重ですな。とくにこんなマイナー作品の場合は。『風雲児』は展開のスピードのせいか、連載で読んでるとやきもきするタイプの作品かもしれませんね。自分もいま実感中(おっと・汗)

>このシーンのために延々これをやっていたのか!と驚いたわけですが、それも伏線に過ぎず、後でまたびっくりすることになるのです。

これも本当、奇跡としか言いようがないですよね。そしてあの「幕府はこれまで・・・」の名シーンにつながっていくと。授業じゃ教えてくれないんですよねー、こういうこと。

>これを読んで、何だみなもと太郎はまだ面白い話が描けるじゃないか、枯れたわけではないんだな、と思ったほどでした

ちょっとちょっと、かにさんヤバイヤバイ(笑)。なにはともあれ幻の名作の復刊、つーか初単行本化、楽しみに待ちたいと思います。

Posted by: SGA屋伍一 | June 14, 2006 at 10:27 PM

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