あのクロスカウンターをもう一度 ちばてつや 『あしたのジョー』
あの不朽の名作『あしたのジョー』をわたしごときが語っちゃってもいいんでしょうか? ダメです! でもやっちゃお~っと。
なんでいま『ジョー』なのかというと、先月の連休のおり、本を整理してたら意地になって全号買った『ジョー&飛雄馬』が出てきまして。ついつい読みふけってしまったからという、真に私的な理由。
あらすじはいまさら説明するまでもありませんね。時は70年代、ふらりと東京のドヤ街にながれついた少年ジョーが、いささかくたびれたトレーナー丹下段平と出会い、ボクシングに足を踏み入れていく。マンガ黄金期に青春・少年時代を送った方たちにマンガベスト10を作らせると、だいたいこの作品が1位になります。
わたしはアニメで親しんでいた口ですが、全編通読してみて驚いたのは、『ジョー』にしろ『巨人の星』にしろ、「すかっとさわやかに大勝利!」という場面は、本当に片手で数えられるくらいしかないということ。あとの大部分、ジョー&飛雄馬がどうしているかというと、ひたすら苦悩しているか、あるいは練習しているかです。
ジョーは強大な敵に、周囲の無理解に、思うようにことが運ばないことに、ただただ苦しみ悩みます。それが一番どん底までいってしまったのが、ご存知ライバル・力石の死の直後のあたり。リングで嘔吐し、酒場で袋叩きにされ、しまいにはドサ周りにまで身を落とすジョー。この部分が「なにもそこまで」というくらい、丁寧というか、しつこい(笑)。たしかアニメではかなりしょられていたように記憶しています。
なんでジョーがそこまで苦悩しなければならなかったのか。それは70年代という時代に大きな原因があるのでは、と考えています。それまでは割りと「出世して金持ちになれば、幸せになれる」というのが当たり前でした。しかしこのころになると、「必ずしもそうではない」ということに気づく人が増え始めます。日本の成長も曲がり角を向かえ、様々な問題や暗い事件も多数発生するようになります。
ジョーと段平の当初の目的は「泪橋を笑って渡る」、つまりボクシングで成功することでした。そうすれば社会の勝ち組となり、「笑って」暮らせる日々が送れると、段平や作者は思ったのでしょう。
しかしライバル力石を故意でないにせよ殺してしまったジョーは、もはやそうした望みがもてなくなってしまいます。自分の「あした」がわからなくなってしまったジョーは、あてどもなくさまよい、苦悩するほかありませんでした。
結局ジョーを救ったのは、自分を苦しめていたボクシングだけでした。「幸せになるため」から、「いかに純粋に生き抜くか」に目標を切り替え、ジョーは再び前に進みはじめます。その目に、前半で見られた無邪気さはもう見受けられません。ひとなみの家庭を持つことすら諦めて、ただひたすらボクシングに打ち込む彼は、まるで修行僧を思わせるところすらあります。その姿があまりにもまばゆいために、21世紀に入った今でも『あしたのジョー』はよみつがれているのでしょう。
漫画家にして研究者でもあるみなもと太郎先生の説によりますと、「『宮本武蔵』が『姿三四郎』に受けつがれ、それが『イガグリくん』、そしてジョー&飛雄馬につながっていった」とのことです。いままた曲がり角にきている日本で、質・人気共にど真ん中を行っているコミックが『宮本武蔵』=『バガボンド』というのも、なんだか興味深いところでありますね。
個人的に好きなシーンを二つ。
全体の中でもやや最後の方の金竜飛戦。壮絶な過去を背負った金におびえるジョーを救ったのは、力石の面影だった
「自ら進んで地獄を克服した男がいたんだ」「同じ条件で」「人間の尊厳を 男の紋章ってやつを」「つらぬき通して死んでいった男をおれは身近に知っていたんじゃねえかっ」
もうひとつは前半の方。めでたく少年院を出所することになったジョー。出て行く際、よせばいいのに作業中の少年たちをからかったため、看守らも巻き込んで盛大な泥投げ合戦が始まる。
一通り終った後で「ふーすっきりしたぜ」「元気でな」 そう言って、風のように去っていくジョー。
その後残されたものたちのなんと淋しげなこと
「奇妙なやつだよ・・・ 矢吹ってやつは」
Comments
ゆめりあ(一応黒田洋介が参加)というアニメを見ていたら
作中主人公がジョーみたくなるシーンが二話であるのですが、
音声解説で浅野ますみさんという声優さんが
「わたし明日のジョーが好きなんです。特に力石が減量のために
水道口に有刺鉄線をまいたり、恋人のくれたさゆ、をこぼしたり
するシーンが好きなんです」と熱く語りまくっていました。
こういうアニメでジョーを聞くとは思いませんでしたw
浅野さんソルティに出ていたそうですが、もしこれから見たアニメ
で浅野さんがいたら「あぁこの人はジョーが大好きなんだ」と
思いエールを送りましょうw
刑務所でえぐりこむように打つべし打つべし。
嫌韓という本を読んだらちばてつや氏のコメントで本人が言ってない
コメントが掲載されたとか。
ま、あんな本信用してませんが。
Posted by: 犬塚志乃 | June 07, 2006 05:29 PM
浅野ますみさんという声優さんは存じ上げませんが若い方ですよね。
確かに『ジョー』は時代を超えて人々をひきつける魅力に溢れた作品だと思います。対して『巨人の星』は、やや人を選ぶかな・・・(笑)
>ちばてつや氏のコメントで本人が言ってない
コメントが掲載されたとか。
そういえばかの連合赤軍も「我々はあしたのジョーである」とか言ったとか。政治の世界に関係ない漫画・アニメを引っ張り出すのは本当に勘弁してほしいですね。
Posted by: SGA屋伍一 | June 07, 2006 08:38 PM