サインもV アラン・ムーア 『V ・フォー・ヴェンデッタ』(原作)
趣味のアメコミコーナー、ふっっ・・・ かぁあああつ!!
というわけでまだもう少し映画やってそうな『V・フォー・ヴェンデッタ』、原作コミックについて今日は語ります。
その前に小学館プロダクションとアメコミ邦訳の歴史についても解説したいとこですが、いい加減長くなりそうなので、それは諦めます。
そいじゃまず原作者アラン・ムーアについて。
「アメコミ史上最高のライター(お話担当の人)は誰だ?」 諸説あるものの、最も多く名を挙げられるのがこのアラン・ムーアです。1980年代初頭、イギリスでその斬新な作風により注目を集めたムーアは、やがて渡米し大手DCと契約を結びます。『バットマン:キリング・ジョーク』や『サーガ・オブ・スワンプシング』など、それまで長い歴史を築いてきたシリーズに新風を巻き起こし、ついには「アメコミ史上最高傑作」とも称せられる『ウォッチメン』を発表。その名を不動のものとします。
しかし、この方は最高であると同時に、最も気性の激しいライターでもあります(笑)。大手の体質に嫌気がさしたムーアは、ほどなくして絶頂期にも関らず引退を宣言。イギリスの田舎に引っ込んでしまいます。幸いその後、作家主体で作られた新興出版社「イメージ」の要請を受けて復帰。朋友ジム・リーの口利きで大手の仕事も受けるようになりましたが、いつ決裂するかわからない危うい緊張は未だに続行中です。
さて、この『V』は、ムーアのキャリアの中でもかなり初期の作品。あらすじは・・・こないだ書いた映画版と大体同じですね
http://sga851.cocolog-izu.com/sga/2006/05/vv_00dd.html
だから今回の映画、それなりに原作に忠実なんです。でも偏屈者とはいえ、原作者を怒らせたくらいですから、やはりいろいろと違うところはあります。
まず主人公の「V」。映画では人間的なもろい部分も持っておりましたが、原作ではもう感情とか超越した悟りきったヒーローとして描かれています。ヒロイン・イヴィーとの関係も映画のようにロマンティックなものではなく、どちらかと言えば師匠と弟子みたいな間柄。そして全体的に映画が復讐を主眼としたエンターテイメントになっているのに対し、原作は時代の群像や社会の空気が多くのウエイトを占めていて、かなり芸術性の高いものとなっています。なんつーか、「似て非なる」という表現がジャストフィット!って感じですねえ。
そんなわけでこのコミック、アメコミの本道からはやや外れた(ブリコミと言うべきか?)マニアックな作品です。こんなものがけっこう売れてしまうとは、英国も奥の深い国ですなー。
ここまで書いておいてなんですが、わたし実はムーアの作風ってそんなに好きじゃありません。無論、その一切の妥協を許さない徹底した姿勢や、膨大な知識に裏打ちされたセリフの深さは認めます。でも彼の視点って、まるで「しょせんこの世には絶望と破滅しかないんだぜー」とケラケラあざ笑っているようで。陽気なアメリカの方々がなぜ彼をあそこまで持ち上げるのかもよくわかりません。
けれど『V』 はまだ初期の作品ということもあってか、後のものに比べると、まださわやかな印象を残す作品となっています。目的も力もなかった一人のか弱い少女が、一人の男と出会って教えられ、鍛えられることによって、未来へ向けて力強い一歩を踏み出していく・・・(一方でただ時代に流されるままの女性も描かれている) こんな風に「希望」を感じさせるラストは、他のムーア作品にはあまり見られません。
とはいえやはり難解な部分も多々あり、私自身ちゃんと理解するにはもう2,3度読み込まないといけないです。これからアメコミに入門しようという方は、できればジャイヴより発行されてる『バットマン:ハッシュ』もしくは『イヤーワン』から入られてください。
Comments
そういえば、映画版でアダム・サトラー役をやっていたジョン・ハートが「1984」でウィンストン・スミス役を演じてましたけど、確信犯なのかな?
Posted by: | June 19, 2012 09:54 PM
コメントありがとうございます。
そいつは不勉強ゆえ全然知りませんでした。いかにも確信犯っぽいですね
『1984』も最近『1Q84』がヒットしたりして、度々その影響力の強さに驚かされます
Posted by: SGA屋伍一 | June 21, 2012 10:43 PM