山田風太郎に関しては色々言わせてもらいたい⑨ ワースト忍法帖はどれだ!?
「一篇の駄作もない」と言われる巨人・山田風太郎。でもそれなりに駄作もあります(笑)。
そこで今回はとくに忍法帖(長編)に範囲を絞って、一番の駄作はどれか考えてみましょう。・・・恐れ多いのにもほどがある。
まずご本人みずからC級以下と認定された作品を挙げてみましょう。『飛騨忍法帖(軍艦忍法帖)』『自来也忍法帖』『魔天忍法帖』『忍法剣士伝』『秘戯(秘戯書争奪)』『天保忍法帖(忍者黒白草紙)』『妖の忍法帖(忍法双頭の鷲)』以上7編がC級。他にP級(笑)の『忍法相伝‘73』と、なぜか忘れられた『忍法創世記』があります。
で、この中から何らかの形で最近復刊されたもの、出来はともかく発想が面白いもの、それなりに好意的な評価がされたものを除きますと、『天保』『妖の』の二編が残ります。
先生にしてみりゃぶっちぎりで『相伝‘73』なんでしょうけど、これはこれで面白いと見る向きもあるようですし、なんといってもこれ映画化されてる(タイトルは『コント55号 おれは忍者の孫の孫』)。おまけにその映画が最近DVDで復刻されてしまったので、除外することにしました。
それでは残った二編をさらっと紹介いたします。
『天保忍法帖』はその名の通り天保年間のお話。南町奉行・鳥居耀臓の下で江戸の諸悪を滅ぼし去ろうと奔走する伊賀忍者・箒天四郎と、その親友でありながら箒と意思を異にし、改革の犠牲者を庇護する塵ノ辻空也の対立を描きます。
『妖の忍法帖』はぐっと時代を遡り、五代将軍綱吉の時代のお話。幕府から密命を帯び、諸藩の内情を探る二人の根来忍者秦漣次郎と吹矢城介。行く先々でお家のスキャンダルに遭遇し、彼らが報告する度にその藩が取り潰されていくというパターン。
で、比べてみると『天保』は確かに『甲賀』『柳生』といった一級品とは比べるべくもありませんが、それなりに評価できるところもあります。たとえばあんまりスポットの当たらない天保年間という時代を舞台にしていることや、鳥居をはじめとする実在した奇人・妖人の描写など。一応起承転結や伏線などもありますし、後の『警視庁草紙』につながるようなテーマも見受けられます。
それに対して『妖の』の方はとくにこれといったウリがみつかりません。長編というか連作集みたいだし、ヤマもなけりゃひねりもない。別に山風でなくとも書けそうな話です。せめてもの救いは新書版のイラストを『子連れ狼』の小島剛夕先生が描いてらっしゃることくらいでしょうか。そんなわけで忍法帖ワースト1はこの『妖の忍法帖』ということで決定したいと思います。
この二作品が書かれたころ、先生はちょっとしたスランプに陥っていたというはなしです。いかに巨人といえど、そこはやっぱり人の子ですから。忍法帖に飽きが来てるのに、そっちの要望が多くて仕方なく書いてた、という事情も反映されてます。この後『海鳴り』『創世記』を書いた後、先生は忍法帖を封印されます。そして自身のターニングポイントである『戦中派不戦日記』『警視庁草紙』を著されることになるわけですが。
この復刊されてない二作品、わたしがどうやって入手したかと申しますと、『妖の』の方はかなり前とあるディスカウントショップの古本の山の中から見つけました。カバーもはがれて100円だったか50円だったか。『天保』の方はつい先日近所のデパートの古本市で、改題された文庫版の方を発見いたしました。
先も申しましたようにあまり評判はよろしくありませんが、それでも巨匠のレアものと来たら読みたくなりますよね。ゆずって欲しいという方はコメント欄にてご応募ください。あげないから(笑)。
Comments
駄作無しの風太郎ですが、さすがに大量生産された
忍法帖は出来不出来が激しいですよね。
しかしそれ以外のミステリや明治、
時代小説はこれといって駄作の無い非常に
レベルの高い作品ばかりでさすがなんですが、
私の既読の範囲内だと、
忍法帖以外で駄作を挙げるとすれば「武蔵野水滸伝」ぐらいでしょうかねえ。
Posted by: ますい | May 23, 2006 03:21 PM
どうもです。じつはちょくちょくサイト覗かせてもらってました。
実に山風愛に満ちた、素晴らしいサイトだと思います。
>忍法帖は出来不出来が激しいですよね
そうですね。比較的不出来なものは、やはり後期の方に偏っていると思います
>「武蔵野水滸伝」
これ、未読です。紹介文読むとすごく面白そうなんですけどねえ(笑)。先生の評価もCだったと思いました。他に時代小説で評価のよくなかったものと言うと、『いだてん百里』『修羅維新牢』(D級?)『御用侠』(E級)などがありました。このうち『御用侠』は読んだことあります。そんなにひどいとも思いませんでしたが、まあ可もなく不可もなく、という印象です。
Posted by: SGA屋伍一 | May 23, 2006 09:13 PM
サイトを見て下さっているとはありがとうございます!!
SGA屋伍一様の「山風に関しては色々言わせてもらいたい」のコラムを
楽しみに拝見させていただいてるので、とても嬉しく感激です。
私は後期の忍法帖は未読が多く、SGA屋様が今回取り上げられた忍法帖では
「忍法創世記」しか読んだことがありません。
個人的に「忍法創世記」はC評価でしょうか。
「武蔵野水滸伝」は忍法帖チックで序盤の破天荒さがいいんですが収拾がつかなくなって、ラストは山風が広げた風呂敷を畳む気もないという(笑)
基本的に山田の自己評価はアテになりませんよね。
山風は忍法帖はどうやら忍法の発想が独創的かどうかで評価しているようで、
他のミステリ、明治物となると判断の基準が分かりませんよね(笑)
Posted by: ますい | May 24, 2006 09:16 PM
お褒めにあずかり恐縮ですが、けっこう好き勝手書いちゃってるので、いつ熱心なファンからお叱りがくるかビクビクしております。「お前はなんにもわかっとらーん!」みたいな。上の記事なんてそれはもう・・・
>忍法創世記
偉そうに語ってますけどまだ未読です。近日中にはなんとか・・・ ハードカバーで買ったら、一月後くらいに文庫版が出て泣かせられました(笑)。『武蔵野水滸伝』もC評価は承知の上でそのうちチャレンジしてみたいです。
>他のミステリ、明治物となると判断の基準が分かりませんよね(笑)
そうですねえ。基本的にはやっぱり「アイデアが面白いかどうか」で判断してたんじゃないかと。推理小説ならトリック・構成、明治ものは扱う人物・事件の面白さ・・・かなあ。
こんな風にばっさり自作をランク付けしてしまう作家さんて、他にいないですよねえ。乱歩なんかいかにもやりそうだけど。
Posted by: SGA屋伍一 | May 25, 2006 07:59 AM
>忍法創世記
>単行本の直後に文庫
そうですよねえ。私も図書館で借りて「やっぱ出版芸術社ってすげえよなあ」と感心していた(社長と山風は、社長の編集者時代からの付き合いらしい。これに限らず推理小説分野での出版芸術社のラインナップはすごい)ところで、あっさり文庫(笑)
でも、確かこの単行本の方は、奥様が巻末に一文を寄せておられるんでした。
結局のところ、これが山風の「生活」なんだなと。
最近とみに、人間の才能と、しなくてはならない「生活」の関係について思うところが多いので、「色々変わった人間のように言われることもあるが、私にとってはよい夫でした」という言葉は最高であると同時に、男なんて、家庭に波風さえ立てなきゃ十分「いい夫」なんだよね、と皮肉ってしまいます(笑)
Posted by: 高野正宗 | May 25, 2006 11:16 PM
出版芸術社のお仕事はよく知りませんけど、この会社の「ふしぎ文学館」というシリーズはいいですね。メジャー、マイナー、古典、現代問わず、宝石のような短編だけを一生懸命拾い集めた、という感じで。
文庫化にはややがっくり来ましたが、ハードカバーには日下三蔵氏による「忍法帖作中年代表」や「初出時のタイトル一覧」が付いてるので損ではない!・・・と心に言い聞かせております(笑)
奥さんのあとがきも味わい深いですね。「何度も断ったんだけど」というあたり、本当に慎ましやかな方なんだなあ、と感じられました
>男なんて、家庭に波風さえ立てなきゃ十分
作中ではまさに「やりたい放題」の山風ですが、女性関係で奥さんを泣かせることはなかったんでしょうかねえ。たぶん無かったんでしょうね。この文章からすると。
Posted by: SGA屋伍一 | May 26, 2006 08:46 PM