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March 18, 2006

山田風太郎に関しては色々言わせてもらいたい⑦ 『魔群の通過』

ではマイベスト山田風太郎作品『魔群の通過』を紹介いたします。ベストなんだけど、「好き」というのとはちょっと違う。「もっとも思い入れが深い」「一番印象に残っている」・・・この微妙なニュアンス、わかって!

内容を一言で申しますと「幕末における水戸天狗党の長征とその結末」について描いた小説ですね。水戸といえば普通は納豆か黄門様が思い浮かぶものですが、実はここの藩、江戸期を通じて「尊皇思想」が最も濃ゆいところだったのでございます。将軍家の親藩でありながら、「一番偉いのは天皇だよね」と言い続ける矛盾。その矛盾が、幕末において壮絶なる内紛へとつながっていきます。
時代的にはリードしていたはずだったのに、時期尚早のため敗れた尊皇派・天狗党は、せめて自分たちの志を帝に知ってもらおうと、京都へ向けて行軍します。しかし彼らはお尋ね者。行く先々で放火の歓迎を受けるのは必定。そこで道なき山々を掻き分けながら、筆舌に尽くしがたいほどの苦しい旅を強いられます。彼らは京都にたどり着けるのか。そして旅の終わりに待ち受けるものとは。

タイトルを見ますと、いかにも化けモンがウジャウジャ出てきそうなお話を想像します。しかし山風のキャリアの中では、かなり史実に近い作品。ストーリーは天狗党のリーダー・武田耕雲斎が四男で、当時十五歳だった源五郎くんの回想という形で語られます。この語り口がまことに情感豊かで、話を読み易いものにしています。
史実に近いといっても、そこは山風。隙間を縫って印象深い創作を幾つも盛り込んでいる・・・と思われますが、どれがどこまでそうなのか、正直不明です。もともとそれが作風の人ですが、特にこの作品ではそれがわかりにくいものとなっています。この小説の重要な要素である、「いかつい男たちの中にあった二丁の賓客用のカゴ」。このカゴが実在したのは確かですが、果たして中身は作中にあった通りなのか? たぶんウソだと思いますけど、もしかすると、もしかして?

この小説は「歴史」よりも「人間」を描いた作品だとわたしは考えます。人間の意地、弱さ、純粋さ、残酷さ、滑稽さ、悲しさ、愚かさ、恐ろしさが、全てこの300ページの中に含まれています。そして登場する群像の、なんと印象深いこと。きさくで爽快な青年でありながら、悪鬼と忌み嫌われた田中愿蔵。党を脱走したのち、数奇な運命をたどる田中平八。仏門でありながら党に加わった豪放な僧、全海。まるで中国史か戦国時代の軍師のような山国兵部。武士と言うにはあまりにも幼すぎた丑之助少年。天狗党を追いつめる復讐の鬼、市川三左衛門。その後ろに控え、冷酷無情な処断を下し続ける幕軍総督・田沼玄蕃頭。
そして物語の軸となる三人の男女・・・ 源五郎の「甥」で、まっすぐすぎる少年、武田金次郎。市川の娘、お登世。田沼の愛妾、おゆん。この本を読んだのもかれこれ十年ほど前になりますが、どの人物もはっきりと記憶に残されております。

「維新史最大のタブー」と言われる水戸天狗党。なにがそんなにヤバかったのか、読めばわかります。『魔群の通過』は現在 廣済堂文庫より発売中。

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Comments

先日NHKで山田風太郎の特集(「知るを楽しむ」の再放送ね)を見ました。ここのブログで、興味を持ちつつあったのですが、これでいずれ読む本リストに入りました(笑)。

水戸天狗党というとみなもと太郎の『冗談新選組』で、名前だけ出てきて、作中「教えてあげないよ」と言われ、ずっと気になっていました(自分で調べりゃ良さそうなもんですが、そこはものぐさモノの常と致しまして……)。そのみなもと先生、いつだったか水戸天狗党を調べていてすごく面白かったなどと仰っていたのでいずれ『風雲児たち』で描かれるのだろうなーと期待している次第です。

Posted by: かに | March 19, 2006 at 05:31 PM

>「知るを楽しむ」

よい企画でしたね。やや「明治モノ」偏重ではありましたが。『バジリスク』などで知った世代には参考になったと思います

>名前だけ出てきて、作中「教えてあげないよ」と言われ、ずっと気になっていました

そうでした。実は『燃えよ剣』の中でちょこっとだけ触れられてる箇所があるんですが・・・

>いつだったか水戸天狗党を調べていてすごく面白かったなどと仰っていた

このシャレにならない話を、どうやってギャグ調にもっていくんだろう? みなもと先生の手腕に期待です。とはいえ、いつになるやら(失礼)

お買い求めになるのでしたら、オンラインが一番手っ取り早いかと。わたし書店で見かけたのは、三省堂御茶ノ水店のみでしたから(たぶんまだ置いてある・・・と思う)。

Posted by: SGA屋伍一 | March 19, 2006 at 09:06 PM

ありがとうございます。
本屋でだらだら探してみます。神保町なら定期で降りられますので。

Posted by: かに | March 19, 2006 at 11:21 PM

>神保町なら定期で降りられますので。

いいですね~。田舎は入手できる本が限られてますので・・・
いまでこそオンラインで便利になりましたが、実際に行かないと手に入らないものもありますし、なによりその方が楽しいんですよね(ムダ足になることも多いですけど)。

Posted by: SGA屋伍一 | March 20, 2006 at 08:15 PM

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