4回回ってワンと鳴く 川原泉 『銀のロマンティック・・・わはは』
五輪終了記念。十五年くらい前に姉の影響で読んでいた川原泉作品の一編。そういえば少女漫画レビューは初めてか? こっ恥ずかしいぜ! YEAH! 現在は白泉社文庫版『甲子園の空に笑え』に収録されていて、そちらの方が手に入りやすい模様。
日本を代表するスピードスケーター・景浦は、競技中の事故がもとで、走者としての生命を絶たれる。それでもスケートがやめられず、地元のリンクで悶々と滑っていた彼は、ある日ニヤけながら三回転半ジャンプを飛ぶ由良という変な少女と出会う。彼女はバレエ・ダンサーを父に持ち、自分もその道を歩んでいたが、実はスケートの方が好きだったのだ。そのリンクの所有者で、フィギュアの指導者でもある××兄妹(すいません、名前忘れました)は、二人に本格的にペアでやってみないかと持ちかける。「あほくさ」と一笑に付した景浦だったが、競技への飢えと恩師の言葉に心を動かされ、再びアスリートとしてリンクの上に立つ決意をする。
当時はおろか今でさえフィギュアの知識など皆無なわたしですが、それでもこのマンガから幾つか教わったこともあります。たとえば、4回転ジャンプというのはフィギュアスケーターたちにとって、永年の見果てぬ夢であったこと(だから、日本人がそれに成功したと聞いたときは驚いた)、また日本にはどうやらペアの競技者はいないらしい(でも作中ではそれなりにいることになってます)ということなど。
このマンガがすごいのは、パートナーとの出会い、衝突、逆境とその克服、さらなる逆境、さらなる・・・と、普通なら5冊以上かかるであろうお話をたった一巻で、しかもほどよいテンポで描ききっているところ。ただこれは、全編コメディ調の、細かいコマ割りだからこそ出来たことと言えるかもしれません。
川原作品は紛れもなく「少女漫画」であり、恋愛の要素も確かにあるんですが、それはお笑いの合間合間に、非常にささやかに描かれます。わたしの記憶が確かならば、ベッドシーンはもちろんキスシーンのひとつもなかったはずです。
そんなわけで「美しい脚」を手に入れるために高野山の荒行に挑んだりとか、女が男を持ち上げたりとか、到底マジメなマンガとは言いがたいんですが、クライマックスではそれら全てを飲み込むほどの(というか、それらのお笑いがあったればこその?)、大きな感動を呼び起こします。
ラストページで二人が立ち尽くす真っ白な風景。その向うに、私たちは無限の空間をみるわけです。
「目指したのは 銀のロマンティック あまりにもまぶしすぎて もう何も見えない」(この辺うろ覚え 許して)
Comments
これはいいですよねー。
山もりの困難を、淡々と乗り越えてるように描いてて、でも「淡々じゃないやろー」とこっちが想像できる余地を残してるから、最後に「うわー」ってくるんかな、と思いまする。
何か今回のオリンピックでも、女の人が男の人を持ち上げた「逆リフト」やってた人いたらしくて、このマンガネタを思い出したです。
Posted by: やまわき | March 01, 2006 10:57 PM
さっそくお返事ありがとうございます
>淡々と乗り越えてるように描いてて、でも「淡々じゃないやろー」と
そうですね。お笑いでさくっと流してますけど(笑)
当たり前のことですが、実際のフィギュアの方たちも優雅に滑っているその裏で、血のにじむような修練を積んでいるのでしょうね。
>「逆リフト」やってた人いたらしくて
なんですとー! それは是非みたかった・・・
バイクレースだかで、表彰台でレースクイーンに抱えてもらったレーサーがいた、という話は聞いたことありましたが
Posted by: SGA屋伍一 | March 02, 2006 07:37 AM
>レースクイーンに抱えてもらったレーサーがいた
すすすす、素敵すぎます(*´∀`(♥
川原さんはいいですよねー。私は男女の力関係が逆転しててもさらっと流してしまうので、その辺の楽しみはないんですが(順当に見えるというかなんというか)。
どんな状況下でも自然に笑えるのはいいことです。
Posted by: 紅玉石 | March 02, 2006 12:31 PM
>川原さんはいいですよねー
ですねー。『中国の壷』とか『バビロンまでは何マイル?』とか
今年は『笑う大天使』が映画化されるそうですが・・・
>男女の力関係が逆転してて
あ、それ言われて気が付いた・・・ 確かに女が男を引っ張っている構図が多いですね。川原作品。
>どんな状況下でも自然に笑えるのはいいことです。
この作品なんかタイトルからして「わはは」ですから(笑)
たぶん『銀のロマンティック』だけだと照れくさいから、こういうタイトルになったのでしょうけど
Posted by: SGA屋伍一 | March 03, 2006 07:53 AM