SGA屋がやらねば誰かやる 紀里谷和明 『CASSHERN』
たったひとつの命を捨てて 生まれ変わった不死身の体
鉄の悪魔を叩いて砕く CASSHERNがやらねば誰がやる
先日の地上波初放映を記念して。70年代の名作アニメ『新造人間キャシャーン』を実写で大胆にリメイクした作品。ここ数年で公開された中で、『アイアン・ジャイアント』と並んで最も好きな映画です。
平行世界の近未来(ややこし)。アジアの盟主となっている日本。しかしその圧政のために、戦火は絶える事がない。自然環境はもはや取り返しのつかないところまで荒廃しきっていた。
科学者・東博士は人間の延命、そして強靭な兵士を造るのに有効な「新造細胞」なるものの開発を提唱。政府の援助をとりつけるが、研究は遅々として進まない。父親に反発して戦地に向かった博士の息子・鉄也が物言わぬ体になって戻ったその夜、奇跡は起きた。新造人間キャシャーンとブライの誕生である。二人は運命に導かれるようにぶつかりあい、その相克は「大東亜共栄圏」を終末へと誘っていく。
公開されるや否や、オタクたちの間に賛否両論の渦を巻き起こした作品。アンチのみなさんが批判するのは、ちょっと説明不足だったりとか、あまりにもご都合主義的なところとか、いくらなんでも現実ばなれしすぎとか(あああ)そういう点なんじゃないでしょうか。
はあ、どうしてわからないんでしょうかね。この映画は「ギリシャ悲劇」なんですよ! キャシャーンはヘラクレスであり、オルフェウスであり、オイディプスなんです。冒頭の稲妻は「ゼウスの雷」であり、戦争の中で残酷な運命に翻弄され、バタバタ死んでいく英雄たちは『イーリアス』のそれとまったく同じです。
と、無茶なフォローを入れてみましたが、やっぱりこの映画、イカレてます(笑)。この作品のゆんゆんとした異常な電波に同調できるのは、ごく一部の特殊なアンテナを持っているひとたちだけでしょう(ファンのみなさん、すいません)。
はっきり言ってまともな大人の見るものじゃない。同時期に公開された同傾向の作品・・・『イノセンス』『アップルシード』『キューティーハニー』なんかと見比べてみますと、いかに『CASSHERN』が稚拙で荒削りかおわかりいただけると思います。
でもわたしなんかは悟ってしまった大人が醒めた口調で語る物語より、稚拙だけれど情熱と狂気の溢れた作品のほうに惹かれてしまったりするわけです。
この作品、一応「反戦」をテーマにしております。と同時に、斬新な映像美をもこれでもか、これでもかというくらい追求しています。『終戦のローレライ』の時にも似たようなことを書きましたが、この二つってあまり相性のいいものではない気がします。その上『キャシャーン』です。なぜ『新造人間キャシャーン』のリメイクでなければならなかったのか? この映画を愛するわたしにも、いまだにその辺がよくわかりません。
早い話が、「やりたいこと、訴えたいことを全部ぶちこんじゃえ」ということだったのでしょう。いくら次の保証がないとはいえ、紀里谷監督もなかなか大胆なことをなさります。
ただ、アニメ『キャシャーン』は洋風の町並みとか、白鳥に姿を変えた母親とか、どことなく西洋の童話をイメージさせるところがありました。紀里谷監督が作ったイカレた童話― そう考えれば先の二つの要素も、違和感なく混じり合わせることができるかもしれません。
作品ほぼ全編が黄昏と夜のシーンで構成されていて、「狂気」に独特の彩を添えています。役者陣がなぜか不釣合いなほどまでに豪華で、寺尾聡、大滝秀治、三橋達也らの重厚な演技が狂気にコクを加えています。さらに唐沢寿明、宮迫博之、及川光宏らの怪演が狂気をヒートアップさせていきます。
八方やぶれなんだけど情熱のままに暴走していくこの映画は、珍妙な格好で血まみれになって迷走するキャシャーンの姿と、よく似ています。いいとこのボンボン(らしい)で、嫁は宇多田ヒカルというやたら恵まれた境遇にいながら、ここまでイカレることのできる紀里谷監督は、大した、というかとても変わった人じゃないでしょうか。
そういうわけでとても人には勧められない。でも好きなのは俺だけでもいいかも。そんな映画です。
わたし、DVDというものはちょっとしか持っていません。買ってもほとんど観ることができないからです(泣) しかし先日のCMでブツ切りになった『CASSHERN』を観ているうちに、「やはりこれは買わねばならない」と固く決意したのでした。
Comments
>東博士の愛した数式
東博士は80分しか記憶が持たないんでしたっけ?
すいませんわざとボケてます。
>ギリシャ悲劇
あとオデッセイであり、ボロ布をまとっているのは聖者キリス○
なのでしょう。無理やりでしょうか。あまり言いすぎるとウェイン町山氏
みたいになりそうです。氏はまだもう少し根拠とかありますが。
>紀里谷監督
キリヤ・リーブス。
歌だ光る「紀里谷お前これ(マトリックス)見たら泣くぞ」
紀里谷「ヒカル、この映画のキャシャ-ンとルナは、ネオとトリニティ、
そしてボクと君そのものなんだ。この映画に君への愛を込めました」
なのでしょうか?
映画キャシャ-ンはライトノベルみたいな雰囲気が好きでした。
「世界は少しおかしいのかもしれない。ボク達は傷つきあいたくない
のに傷つけあってしまう」
みたいな感じです。
放浪していてマシーン軍団を見つけたブライたちにいつのまにか
共感していたり、しました。やば。
>ごく一部の特殊なアンテナを持っているひとたちだけでしょう
あ、私はそうだったんですね。
「化け物、化け物、化け物」やめろやめてくれ、どうしてどうして。
みんなボクを追い詰めるんだ。力を力を使いたくないんだ。
こういう雰囲気の文章はクセになります。
こういう青くさい映画は好きですw
>みんなの家
この映画も同じ時にTVで放送しましたがブライが家、建ててましたw
>反戦をテーマ
紀里谷監督は熊本生まれですが、熊本は愛国心の強い人が多い
らしく献血は全国一だそうです。
そんな愛国心の強い県民に生まれたから余計意識するのでしょう
か?
ちなみに他の熊本生まれ
田中芳○、尾田栄一○(ワンピース)、あとガンパレードマーチで
幻獣から国を守る主人公たちも熊本生まれでした。
うーん、「絶対正義の名の元に~」「国だと?はん、そんなものは
ああだこうだ」な作風のような違うような微妙な感じです。
でもキャシャ-ンをTHUTAYAで借りた時はDVDが傷だらけだった
らしく画面が停まりまくって大変でした。
坂本竜馬「おりょう、わしも新造細胞で復活したぞ」
ルナ「竜馬さま」
Posted by: 犬塚志乃 | March 18, 2006 09:10 PM
>>東博士の愛した数式
「わたしの記憶は80分しかもたない」
「だから完成しないのか・・・ 新造細胞」
>歌だ光る「紀里谷お前これ(マトリックス)見たら泣くぞ」
まあハッタリの利いた映像が好きな人なんでしょうね。ただアンチも彼の映像センスは認めているようです
>映画キャシャ-ンはライトノベルみたいな雰囲気が好きでした。
最近ラノベはすっかり読んでませんでして。戯言シリーズってこんな感じなんでしょうか。『ブギーポップ』はアニメで見ましたが、確かに「時代の閉塞感」という点では似てるような。
>熊本は愛国心の強い人が多い
らしく献血は全国一だそうです。
そうなんですか。熊本っていまひとつ印象が薄くて(失礼)。♪肥後どこさ
確か江戸時代はお供え餅の黒田藩ですよね。あんまり「愛国」って感じではないなあ。明治以降の風潮でしょうか。
慎吾「ぼくも新造細胞の力でやりなおしてみようと思うんだ」
ルナ「そうよ、その意気よ!」
Posted by: SGA屋伍一 | March 19, 2006 08:56 PM
こんにちは~♪
『この映画は「ギリシャ悲劇」なんですよ!』
だから嫌いになれないのか、私?!
こんな訳分からん映画なのに、『天使と悪魔』よりも『グラン・トリノ』よりも脳内に余韻が渦巻いているぞ~~~(笑)
と言う事で、GOEMONを勝手に応援する会の活動として、コチラを観賞、感想をアップ、ついでに会員も募集しておきました。
ちなみに、今のところ会員の申し出はありません
それにしても、、、私、この映画は決してイカレていないと思います。
かなりの勢いで出来には難点が見受けられますが、、、
どこかで、紀里谷さんは頑固で自分の意思を押し通す方だ―と読みましたが、それがこの結果を招いたかも、と思いました。
これだけ尋常ならざるセンスを持った方なので、もう少し人間的に我を抑えることを学んでも、そのセンスに衰えはないでしょうから、今後、スッゲーーー名作を生み出すんじゃーないかと期待しています。
今後、世界に誇れる紀里谷監督!!ってフレーズをよく耳にするかもしれませんね
Posted by: 由香 | May 18, 2009 03:42 PM
あっ。そりゃそうですよね、本家の記事がないはずがない。
YUKAさんがコメントつけておられたんで私も乗っからせてください。
思うに、紀里谷氏はあまりにも個性的すぎるんで並な人はたしかについていけんでしょうが、私に言わせれば『キューティーハニー実写版』のほうがよっぽどついていけません。
(まあ元々庵野英明氏のやさぐれた作風が嫌いっちゅうのはありますが)
YUKAさんの所でも似たような事を書きましたが、単なる焼き直しでありながら平気でリメイクですといってのけて、しかもオリジナルを越えるどころか全くマネさえできていない昨今の風潮を観るにつけ、どんなに破天荒でも荒削りでもしっかりとそのメディアならではの良さを発揮させつつ自分のオリジナリティをぶつける事ができる紀里谷氏はエライと思うのですよ。
オマージュと称してパクリまくりなネタで懲り固めた作品で堂々と人気を取るプロダクションよりはずっといい。
Posted by: よろ川長TOM | May 18, 2009 04:31 PM
>由香さま
素早いおかえしありがとうございます! そしてキリヤ監督と『CASSHERN』をもちあげていただき、そちらもありがとうございます!
ただあなたもだんだんとアブノーマルな電波におかされてきているような気が・・・ いや、気のせいですね! きっと
>ちなみに、今のところ会員の申し出はありません
大丈夫です! あなたとわたしさえいれば、きっと天下はとれる! ・・・・気がします
そういえば紀里谷監督はけっこう大口たたかれるんで、それが叩かれる原因にもなっているようですね・・・
でも『GOEMON』では明智光秀なんか演じてさくっと殺されたりしてましたから、意外に控えめなところもあるじゃん、と思いました(笑)
結婚生活を経て少し大人になったんでしょうかね? この方もたしか四十すぎのいいオッサンだと思いましたが
>今後、世界に誇れる紀里谷監督!!
『GOEMON』は世界各国で配給が予定されているので、もしかしたらそうなる日も近いかもしれません!
Posted by: SGA屋伍一 | May 18, 2009 09:45 PM
>よろ川長TOMさま
こちらにもコメントありがとうございます! どうぞ乗っかっちゃってください!
わたしの記憶ではこの映画、一部でかなり叩かれてたので、由香さんところでも非難轟々になるかと予測してたんですが、よろ川さま含め支持者もけっこうおられるようですね。嬉しいかぎりでございます
ハニー実写版はわたしもついていけなかったなあ(笑) お笑いってのは人によってかなり合う・合わないがありますからね。ただ『CASSHERN』にも出ている及川ミッチー氏が、ぶんぶん回ってるところだけは笑えました
原作ファンにしてみれば不満もあるでしょうけど、紀里谷監督はオリジナルもかなり愛しておられると思います。でなければバラシンやらアクボーンまで出したりはしないでしょうし、なにより別段ブームでもないのに「キャシャーン」をやろう、なんて思わないはず
でもその愛を忠実にトレースする方向ではなく(そういう作品も好きですが)、ここまで個性を発揮しながら十二分に表せるところが、やはりすごいですね
実は『キャシャーンSins』もほとんど見ました。『CASSHERN』に比べるとはじけっぷりが足らなかった気もしますが、こちらはこちらで叙情性溢れるいいアニメでございました
Posted by: SGA屋伍一 | May 18, 2009 09:58 PM
もう一度お邪魔させてくださいね。同志を得てコーフンがさめやりません。
いやいや!“おかしい人”万々歳です。私はフツーだと言われたら侮辱だと受け取る変人をガキの頃から自負しておりますので。そうでしたか、私の事はご存じでしたか。これはお恥ずかしい限りです。エー歳こいてあんな絵を描いてる変態親父でございます。
ところで、オリジナルありきの作品は、何をどう作っても叩かれて当然。
だからこそ私は「これは俺のキャシャーンだ」と真っ向勝負を賭けた紀里谷監督に惚れたんだと思います。
ミッチーもよかったですが、のちのち『時効警察』でぶっちゃける麻生久美子嬢を『カンゾー先生』以来、ひさびさに出逢わせてくれたのも嬉しかったし、なにより要潤君のカッコええこと!
さらにサグレー美人やし、アクボーンがアレで、ブライキングボスが唐沢氏なんて…
誰が考えつき、なしえましょうか。
そして彼らの言い分は納得できたんですよ。
実はね、オリジナルで何がムカつくと言ってお父ちゃんのスタンスだったんですよ。
ヒドい親父、人非人ですよ。なのに善良な科学者みたいな顔をして…ずっと彼が許せなかった。最終回はもっと酷い。あんな終わり方はないでしょう。
だから寺尾聡氏の演じた東博士なら納得できるんです。
それも紀里谷版の出し得たひとつの回答だったと思うのです。
私もたしかにオリジナルは好きですが、比較してアチラの方がよかった、と仰る方はあんな内容でなにもかも納得できたのかしら?
Posted by: よろ川長TOM | May 18, 2009 11:55 PM
>よろ川長TOMさま
再びコメントいただきありがとうございます
失言の方もお広い心で受け入れていただきありがとうございます
オリジナルは本当に物心ついたかつかないかくらいに、再放送で親しんだ世代なんですよね
)
ストーリーもおぼろげにしか理解していなかったのですが、このお話の悲劇性というか閉塞感は、子供心にもなんとなく伝わってきました
恐らく敵のボスを倒したとて、キャシャーンも母親も元の姿に戻ることはできない。きっと最終回もさびしい終り方だったのでは・・・と勝手に考えておりました(実は未だに見ておりません
後にとってつけたような明るい終り方だったと何かで読み、苦笑いしたものでした。なにか事情があったんでしょうかねー
ただそれが『キャシャーン』本来の終り方でないことは、OVA版(これも見てませんが・・・)のスタッフ、『Sins』のスタッフ、そして紀里谷監督も感じていたのでしょうね。終わり方はともかく、さしてメジャーでもないのに(少なくともガッチャマンに比べれば)こんだけの人々に自分の手でやってみたい!と思わせる『キャシャーン』という作品は、やはりそれだけ優れた素材だったのだと思います
東博士の造形に関しては、わたしもオリジナルを超えたと思っております。愛情が時として人を狂わせるという、普遍的かつショッキングな例でしたね。ずーっと人格者のように描かれていたからこそ、なおさらそれを感じました
劇場版で唯一不満があったとすれば、フレンダーがただのワンコだったことくらいでしょうか
ま、細かいことです
Posted by: SGA屋伍一 | May 19, 2009 07:08 PM