サイバラ・クロニクルV3 西原理恵子 『営業ものがたり』ほか
西原女王様三回目の登板だす
一回目の記事でも触れましたが、今から一年チョイ前、女王様は『上京ものがたり』という本を出されました。こいつが今までの西原作品とは一線を画す内容で、絵柄はシンプルながらもギャグがほんの少ししか無い、かなりネガティブなマンガ。「絵で身を立てる」ことを誓い東京に来たけれど、思うようにことは運ばず苦悩する若き日の女王さまの姿が、詩情豊かに描かれていました。
それから半年ほど経ち、今度は『女の子ものがたり』という本が出されました(買うの恥ずかしかった・・・)。少女サイバラがある町に引っ越してから上京を決意するまでのお話。前作より多少コミカルにはなっているものの、サイバラと二人の友のあまりの苛酷な青春に、やはり胸を苦しくさせられました。
ほんで昨年末、今度は『営業ものがたり』という本が同じ版型で同じ出版社(小学館)から出ました。これまでの流れからして、「今回はデビュー後の創作に苦しんだ日々のことが叙情的に描かれるんだろうな」と思うじゃないですか。ところが一読して
「ちっくしょおおおおお!! 一杯食わせやがったなあああああ!!」
と思いました(笑)
えー、『営業ものがたり』の内容を一言で申しますと「ビッグコミック系の雑誌に載せられた読みきりの在庫一掃セール」。もう少し詳しく説明いたしますと、『上京』『女の子』の合間に行われた書店へのPR活動・こともあろうに浦沢直樹の『プルートゥ』にケンカを売って買われた一件・連作『朝日のあたる家』・ほかが、ごった煮のように詰め込まれた本です。従来のサイバラそのままの作風・・・つまり絶叫とパンチが乱れ飛ぶようなスタイルで。『上京』『女の子』のメロウなタッチはこのオチのためにあったのか、と思いました。
まあ最初ははらわた煮え繰り返りましたよ。でも安心もしました。先の二冊を読んだ時、もしかしてサイバラさんもこのまま「芸術的漫画家」の仲間入りをしてしまうのかな・そうしたいのかな」と思ったもんですから。けれどこの『営業』で「わたしはやっぱしイロモノじゃー! 笑いとってなんぼじゃー!!」であることを再確認させてもらいました。スコーンとだましてくれたことにはこの際目をつぶってあげましょう。
それに冷静に振り返ってみますと、この度の一冊、やはりファンにとっては見逃せない部分も数多くあります。一つは名作『ぼくんち』の番外編である『朝日のあたる家』。『ぼくんち』において強烈な魅力を放つチンピラ・こういち君の少年時代が下品なネームと切ないモノローグでつづられています。もう一点は無謀にも自分なりの『プルートゥ』にいどんだ『うつくしいのはら』。激戦のアジアを実際に駆け抜けたサイバラならではの切なく美しい短編となっております。
ただ、一冊通してまったくといって統一性のないご本なので、いちげんさんはご遠慮されたほうがいいです。4,5冊ほどサイバラ作品を読んで、そしてそれらが性にあっていましたらトライしてください。あと買われるつもりの方は、内容・セリフであまりにも直接的というか、上品なものが多々見られますので、お子様の手の届かないところに置いておくことをオススメいたします。
わたしが印象に残ったのは、どういうわけか実現した対談で「(自分が)すぐにダメになる日がくるんだよー でもあそこにコネあるからそこでカットの仕事もらって」とか言ってる某『20世紀少年』作者。あんた二度も手塚賞もらっといてまだそんなこと言ってるんですか。あげくにサイバラと「こっちの方がマイナーじゃーい!」とハイレベルな舌戦を展開する有様。まあ、あれですね。才人ってやつぁこうやって自らを追い込んで、創作のモチベーションをたかめていくものなのかもしれませんね。
少し前の『スペリオール』に、「サイバラは少しお休みします」との告知がありました。まあしばらくの間は『毎日母さん』のみでがまんしてあげましょう。お子さんたちのお世話もあるでしょうし。
充電後の大暴れを楽しみにしております。
Comments
コーイチくん、って誰?と思いましたがゲッツの方なんでしょうね。
金角やゲッツの方がよく聞きますので。
そうかコー1、ユー2なんですね。
>プルートゥ
な、なんて無謀、いえチャレンジ精神なのでしょうか。
未読ですが、いつものように簡単な線で荒々しさは人並以上
なのでしょうか?
最近西原先生の子育て本を読みましたが、子育てはプロでも
大変なんですね。これを見て世のお母さん方もがんばってほしいです
鴨さん、がよくわかりませんw
Posted by: 犬塚志乃 | March 17, 2006 12:06 AM
>ゲッツの方なんでしょうね
ゲッツの方です。「ぼくんち」(フィクション)には「こういちくん」というまんまのキャラが出てきます。弟さんはセージさんじゃなかったのかな。ケンカして兄ちゃんを刺したこともあったとか(でも仲良し)
>な、なんて無謀、いえチャレンジ精神なのでしょうか。
手塚賞で自分より浦沢氏の方が格上だったことが気に入らなかったらしく、「プルートはあたしでも良かったんじゃないのー」とブーたれていた所、それをうっかり向うに方に知られてしまい、引っ込みがつかなくなってしまったようです。でも作品の方はいつもの荒々しさとは無縁の、マジで優しく切ないお話になってますよ。
>鴨さん、がよくわかりませんw
この女にしてこの旦那あり、というか。でもアジアパー伝(講談社文庫)の最初の巻を読むと、鴨さんへの愛情がふつふつと沸いてきますよ。きっと。
Posted by: SGA屋伍一 | March 17, 2006 08:08 AM
SGAさん♪こんばんは
わたしサイバラマンガってちゃんと読んだことないんですが
読むとしたらまずは何から読んだらいいでしょうか?
「営業ものがたり」・・・ではなさそう?ですね。
それからぜんぜん関係ないけど今『第三の嘘』読んでます。


『悪童日記』も『ふたりの証拠』ももう読んだの♪
もっと難しい本かと思ったらすごく読みやすい文章ですらすら読めますね。
しかもむちゃくちゃ面白い!!
あと報告してなかったですが随分前に『独白するユニバーサル横メルカトル』も読みました。
感想は・・・
Posted by: kenko | September 11, 2009 07:02 PM
>kenkoさま
律儀にお返しありがとうございます!
西原漫画でまずおすすめといえば、やはり『ぼくんち』! 『鉄道員』でゲラゲラ笑ってしまった歌人の升野浩一さんを、ズタズタのボロボロに泣かせたという恐ろしい話です・・・
あと最近では『毎日かあさん』『いけちゃんとぼく』などが評判良いですね
『悪童日記』、読まれましたか! あれはもう奇跡の三部作ですよね~ 一冊読むごとにそれまでの世界ががらっと変わってしまうという 果てしなくくら~い話でもあるんですけど、そのセンチメンタリズがなぜだか心地よくもあり
>ユニバーサル横メルカトル
ホラー慣れしてるkenkoさんでも

でしたか(笑) ただ東南アジアのジャングルに行く話だけは妙な痛快さがありましたねえ
Posted by: SGA屋伍一 | September 11, 2009 11:22 PM