だからバクチはやめられない ロアルド・ダール 『あなたに似た人』
昨年の『チャーリーとチョコレート工場の秘密』公開以来、きてますねえ。ロアルド・ダール・ブームが。非常にひっそりと、ですが。
わたしもそれに流されて、久しぶりに昔買った彼の著書を読み返してみました。タイトルは『あなたに似た人』(SOMEONE LIKE YOU) いわゆる「奇妙な味」と呼ばれる、一風変わった15の小編からなる作品集です。
『チャリチョコ』を観たご婦人の中には、「きっと原作者の方って、シャイで童心溢れるハートウォーミングな方なんじゃないかしら」と思われた方もおられることでしょう。
そ れ は 誤 解 で す。
ダールさんは意地悪でひねくれててスケベなえらく変わったおっさんです。たぶん。『あなたに似た人』を読んでみれば、その悪魔的な人柄がきっと感じられることでしょう。
この本に集められた短編にそこはかとなく共通しているのは「脅迫観念」でしょうか。ダールさんはまるで追い込み漁のごとく「そいや、そいや」と登場人物を窮地に追いやるのが得意です。逃げ場がなくてパニックに陥った登場人物がテンパってるのを、遠くでケラケラ笑いながら観てる。そんな印象を受けます。
で、ダールさんがその漁でよく用いる方法のひとつが「ギャンブル」。ちょいと軽い気晴らしのつもりで・・・と思ってはじめたバクチで、気がつけば崖っぷちがすぐそこに! というお話が幾つかあります。
たとえば名編とうたわれている『南から来た男』はこんな内容。
プールサイドでバカンスを楽しんでいた若い海兵。彼にある風変わりな親父が近づいてきます。「わしゃ賭け事が何より好きなんじゃ、勝負してくれんかのう」とのこと。外にあるという自分のキャデラックを賭ける老人。「賭けるものがない」という主人公に、老人は「指一本でいい」と言う。思い切ってひきうけた彼だったが、次第においこまれていき・・・ という話。最後の一文には「ぐええ」と言ってしまうことまちがいなし。
わたしが印象に残ったのは次の四編
・『味』 ワインの鑑定をめぐって老夫婦と娘がピンチに追いやられる話。オチは二回、三回と読み返さないとわかりづらいかも。
・『海の中へ』 さすが英国、こんなこともバクチにしちゃうのか、という話。物事はなかなか思い通りにはいかない、という話でもある。
・『告別』 着想の意外さというか話の「バカさ」が際立つ作品。
・『皮膚』 収集家は怖いと言う話。阿刀田高の某作品にも似たアジワイ。
このほかに『おとなしい凶器』なども有名です。
ダールさんの珍妙な料理をどうぞお試しください。ちょいと毒が入ってますけど。
Comments
おはようございます。
>「味」
好きですね、こういう話。ダールは、星新一が大好きな作家でしたね。ご自分で翻訳もなさってて。一昨日星さんの新編集+未収録作品集を読んだのでちょっと思い出しました。
いずれ書こうと思っているのですが、この方の短編は新作落語にもなっているのだそうです。
Posted by: 高野正宗 | January 29, 2006 11:50 AM
ロアルド・ダ-ルさんって「007は二度死ぬ」の脚本も書いていた
んですね、と瀬名秀明さんが言ってました。
007が日本に行く作品、とは聞いています。
流石ロアルドさん、もしかして親日家でしょうか?
http://www007.upp.so-net.ne.jp/Mr-YUNIOSHI/movies.html
検索をしていたら、こんな「日本が舞台になった映画ただし監督は
外人」なサイトを見つけました。
ワンダホー過ぎてはまりますwみなもと先生も触れていたレッド・サン
三船先生はこんな映画に随分ご出演されています。
このサイトの管理人さんもあなたによく似た人を代表作に上げていま
すね。有名なんですね。
>ダールは、星新一が大好きな作家でしたね
星さんはシュールな作風なんでちとわかります。
Posted by: 犬塚志乃 | January 29, 2006 09:44 PM
>高野正宗さま
お返事遅れてすいません。ダール作品はこの本しか読んでないので、あまりえらそうなことは言えない立場なんですが
>>「味」
はこの中でも後味のいいお話ですね。まさに奇妙な「味」
>星新一が大好きな作家
とは知りませんでした。作風としては筒井康隆氏のおとなしめの作品に近い気がするのですけど。
>犬塚志乃様
>「007は二度死ぬ」の脚本も書いていた
そうみたいですね。ほかには『チキチキバンバン』などが有名みたいです
>「日本が舞台になった映画ただし監督は
外人」
マルコ・ポーロ、べニョブスキーの子孫たちですね。『ベストキッド2』や『コンタクト』のワンシーンなども思い浮かびます
>このサイトの管理人さんもあなたによく似た人を代表作に上げていま
すね。有名なんですね。
ですね。なぜかこの短編集のみ突出していろんなところで名前を見ます。
Posted by: SGA屋伍一 | January 30, 2006 08:47 AM
>007は二度死ぬ
原題は「007は二度生きる」なんですが邦題はこうなってます。ま、結果は同じなんですけど。
イアン・フレミングを日本に紹介したのは都筑道夫さん。売れなかったらこのシリーズの翻訳はやめればいいや、と思っていたら大人気。当初はインテリの楽しみ。映画第1作「ドクター・ノオ」は予算不足でハンパになってしまい、庶民の娯楽としてブレイクしたのは「ロシアより愛をこめて」の成功によってだそうです。
「二度死ぬ」は確かボンド・ガールが濱美枝(確か白ビキニ。当時の日本女性としてはナイスバディ)。共演した確か若林さんという女優さんが、母の友人の姉。役柄(007と結婚して確か死んじゃう)としては後者の方がボンド・ガールっぽいんですが、日本初のボンド・ガールは濱さんということになってます。(記憶が曖昧なんで「確か」ばっかりですが)
日本の描写?…まあ、あんなもんです(笑)
最新シリーズの「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」(何か似たようなタイトルだな)は中国の女諜報員(ミシェル・ヨー)がボンド・ガールなんですが、中国の「真っ赤でキーボードが全部漢字のパソコン」が登場するなど、相変わらずムチャクチャです(笑)でも、ミシェル・ヨーはいいヨー(やっちゃった)。
星さんはロアルド・ダールや海外のSF作家の有名な人(誰だっけ!)が大好きですね。SF傑作集なんていうシリーズを紐解くと、結構星さんの翻訳作品があります。
Posted by: 高野正宗 | January 30, 2006 12:45 PM
007にもお詳しいんですね。自分は小説は全部未読。映画は近作4本ほど観ました。でも最近のはフレミング原作じゃないんですよね・・・ 確か。
>二度死ぬ
も見てませんが、話は色々聞いてます。丹波哲郎も出てるんですよね。後学のために見といたほうがいいのかしら。
>「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」
ヨーねえさんはかっこいいですが、セクシーという感じではないですね。この作品のバイクアクションは今までみた映画の中でベストワンです。つづく『ワールド・イズ・ノット・イナフ』『ダイ・アナザー・デイ』も同じくらい面白かったです。内容はないですけど。
>SF作家の有名な人
たしかフレデリック・ブラウンだったかシオドア・スタージョンだったか・・・ でも両方読んだことない(苦笑)
Posted by: SGA屋伍一 | January 30, 2006 09:20 PM