山田風太郎に関しては色々言わせてもらいたい⑤ 『明治十字架』
今回は「明治もの」の中からこの作品を。なんでこれかというと、単にこないだ読んだから。「明治もの」で一番最後に書かれた作品です。
元旗本の獄吏の青年・原胤昭(実在の人物)は、ある事件をきっかけに監獄を辞し、恩人の娘と共に、ムショから出てきた人たちに社会復帰の手助けをする仕事……“出獄人保護”を始める。しかしすべての出獄人がそれをありがたがるわけではなく、中には逆恨みするものも。また、胤昭と折り合いの悪い元同僚たちも、彼の足元を救おうと、あれこれ策を巡らす。それにもめげずに信念を貫く二人だったが、盛り上がる自由民権運動がきっかけとなって、彼らに大きな災厄が臨む。
まず各章のサブタイをざっと見てみますと、「どろん・ぬらりひょん」「アラダル溶闇」「サルマタは飛ぶ」「けだもの勝負第一番」 ……わけがわからない(笑)。上のあらすじとはまるで別の話みたいっすね。
原胤昭、自由民権運動、監獄、キリスト教など、それまで「明治もの」に用いられていた要素が色々顔を出していて、さながらこのカテゴリの集大成といった趣があります。
一口に悪人と言ってもさまざまな「ワル」がいるわけですが、この作品にはおおざっぱに言って2種類の「ワル」が登場します。一方は望むと望まざるとに関わらず、その特殊な環境からワルとなってしまい、お上からお縄を頂戴した者たち。もう一方は、法の目を巧みにすり抜けて、弱きを虐げ私利を貪る根っからの「ワル」。どっちが感じ悪いかというと、それはもちろん後者の方ですよね。対して前者の方は確かに救いがたいのだけど、どっか憎めないやつら。かっとなると台風のごとく暴れ出すサルマタ(という異名なんです)や、美女ともみまがう変装の達人・秀など、まことに面白い連中です。終盤ではこの「後天的ワル」対「先天的ワル」の5対5の対抗試合が展開され(主人公は?)、忍法帖っぽいテイストもあります。
それに加えて「明治もの」のウリである著名人のカメオ出演もふんだん。これだけそろっていて、面白くないわけがありません。ちくま文庫版下巻には、ロシア皇太子を兇徒から守った、二人の俥屋の数奇な運命を描く『明治かげろう俥』、そして山風によるシャーロック・ホームズのパスティーシュ『黄色い下宿人』も収録されていて、お得な内容となっています。ただ最近滅多にみなくなりましたので、ご興味おありの方はア○ゾンか大書店にてお買い求めください。
Comments
200本おめでとうございます。
てぇっと…ゼンザイ様のコメントで思い出しましたが、1周年でありぃすか。おめでとうございます。いやー。何もこんな忙しい時期に始めなくたって(ウソです)。継続は力なりです。SGA851様の継続は意味のある継続です。意味のない継続を、いや、意味のない生まれてからン十年のヤツがここに。
山田風太郎といえば、今週土曜日22:00~の「ETV特集」が、山田風太郎の戦後日記の話です。戦後の分の日記が最近発見されたそうです。出演は三国連太郎。落語同様、一段落ちると言われて久しいエンタテインメント系の作家ですが…でもやっぱり、国営放送に出るとなるとこういうネタなのね。しかし楽しみです。
『十手架』は、天野嘉孝の表紙の上下本だったので(あのヒロインの扱いはちと哀しかったでごわす)、カップリングの「かげろう~」は別の作品集で読みました。
ちくまの「山田風太郎明治小説全集」にも入っていたかなぁ。
そういえば、北海道の教戒師の話…まだ読んでいないなぁ。
Posted by: 高野正宗 | December 07, 2005 08:53 PM
おこんばんは。高野さまのレビューも読んだのですよ。キリスト教に関する考察など、興味深かったのですが、検索がなかなか難しゅうて。あとでまた探してみます。
>1周年でありぃすか。おめでとうございます。いやー。何もこんな忙しい時期に始めなくたって(ウソです)。
ありがとうございます。本当になんでこんな時期に始めたのやら。月並みですが1年経つのは早いですね。
>意味のない継続を、
いやいや、継続することに意味が……ってそうじゃなくて、これからも軽妙な記事楽しみにしていますので、よろしく。
山風情報ありがとうございます。忘れないようにしないと。
わたしが読んだのはちくま版です。『地の果ての獄』も同全集に含まれてます。
Posted by: SGA屋伍一 | December 07, 2005 09:47 PM
こんばんは。
ETV特集、ご覧になりましたか?
真面目な感想は…というか、まあ、番組の言いたいように日記も使われてる気はしますが、概ね良好と思います。
奥様若い!!いくら10歳年下とは言っても、70代に見えない!!
家でかい!!忍法帖御殿とは知ってましたが、それでもでかすぎ!!
もしご入用でしたらDVD焼きます。
自分の分は焼いたので、ご不要でしたらHDDからも消しちゃう(笑)
『地の涯ての獄』最寄の図書館に何故か下巻のみ…
えー、今度リクエストします。五十六の兄貴が出てくるんですね~!
Posted by: 高野正宗 | December 13, 2005 06:31 PM
続けてですが…
来年1月、NHK「私の人物こだわり伝」という番組が、山田風太郎です。
NHK教育にて、午後10時25分~10時50分
・第1回 1月10日放送/1月17日再放送
・第2回 1月17日放送/1月24日再放送
・第3回 1月24日放送/1月31日再放送
・第4回 1月31日放送/2月7日再放送
テキストも買わなきゃ…
Posted by: 高野正宗 | December 14, 2005 10:31 PM
↑うれしい情報ありがとうございます!
私もテキスト買いに行きます。
Posted by: kakakai | December 14, 2005 11:36 PM
>高野正宗さま
いつも情報と暖かい申し出ありがとうございます。
ETV特集はその日都合がつかず、ゼの付く友人に録画してもらいましたので、大丈夫です。彼が失敗していなければ、ですが。
夫人は『知ってるつもり!?』で山風を取り上げたとき(山風御殿から放送していた)にチラリと見ました。関口宏の「こっち(カメラの前)へどうぞ」という呼びかけに、料理だけだして微笑みながら退場していかれました。
さらに他の番組でもやるんですね。どうしたんだろ教育テレビ。録画したものが色々たまっていますが、こちらもがんばってついていきたいです。
>Kakakaiさま
そちらもすっかり山風にはまっておられるようで。『警視庁草子』は読了されたでしょうか。斉藤くんがあんな感じでがっかりされたかもしれませんが。
Posted by: SGA屋伍一 | December 15, 2005 01:20 PM