山田風太郎に関しては色々言わせてもらいたい④ 明治もの編
まだ続いてますこのコーナー。今回は山風の作品で「明治もの」と言われるカテゴリーについて、少々だべります。
忍法帖でヒットを飛ばした山田先生ですが、そうなると忍法帖の注文ばかり来るようになり、さすがに最後の方では飽きがきていたようです。そしてブームが一段落した1970年代半ば、先生は満を持して一編の長編を世に送り出します。そのタイトルは『警視庁草紙』。以後山田先生は明治時代を舞台にした作品をしばらく書きつづけます。
徳川300年の治世が終り、文明開化の波が押し寄せていたころ。町並みは変わっていくものの、江戸の影が急に消え去るわけではない。そんな雑然とした時代に生きた、個性豊かな人々の数奇な運命が語られていきます。名もなき人もいれば、名のある人もいる。実話もあれば、ファンタジーもある。どこまでが本当でどこまでが虚構なのか、つつみくらます山風節は、忍法帖以上に冴え渡っています。
そして「負け組」にいながらも誇り高く生きる人々を、山風は愛情豊かに書き上げます。この時代でいうなら、旧幕府軍の生き残りや自由党の壮士たちがそれにあたります。懸命に奮闘するものの敗れる宿命にある彼らの姿は、こっけいであり哀切でもあり。面白うて、やがて悲しきのこのスタイルは忍法帖とも共通しています。ただ、あからさまな悲劇の多い忍法帖にくらべ、こちらはしみじみとさみしくなるような話が多いです。
「明治もの」にあたる作品は次のとおり。『警視庁草紙』『幻灯辻馬車』『地の果ての獄』『明治波涛歌』『明冶断頭台』『エドの舞踏会』『ラスプーチンが来た』『明治十字架』。この他に中・短編がいくつかあります。
この明治ものは山ちゃんの自己評価も高く、『地の果て』『ラスプーチン』がBランクである他は、全てをAランクとしています。
しかしながら忍法帖よりもメジャーになることはなく、その点が山ちゃんには不満だったようです。
なぜ「明治もの」は忍法帖ほどヒットしなかったのか(熱心なファンもいましたが)、その理由を考えてみました。
ひとつは明治というあまりにも個性的な時代のためかと。この時代が好きなかたにはたまらないでしょうけど、江戸・戦国に比べるとあまり人気のない時代かもしれません。
もうひとつは忍法帖にくらべて、いささか現実よりな点。幻想的な要素もありますが、あくまでアクセント程度におさえられています。
しかし騙されたと思って、いっぺん手にとってみてもらえれば、面白さの点で忍法帖と変わりがないことに、きっと気づかれると思います。幸い「明治もの」はちくま文庫から全作品が読めるようになっています。興味を持たれた方はア○ゾンか大型書店でお探しください。
マイベストは『幻灯辻馬車』『エドの舞踏会』『地の果ての獄』あたり。入門編としてはやはり『幻灯辻馬車』か『警視庁草紙』を推します。
Comments
おお、すごいタイミングのよい記事!!
ありがとうございます。私のために。
>入門編としてはやはり『幻灯辻馬車』か『警視庁草紙』を推します。
早速本屋に走ります。
Posted by: kakakai | November 10, 2005 08:59 PM
こんばんは。いつもながらよくまとまった記事ですv
>マイベストは『幻灯辻馬車』『エドの舞踏会』『地の果ての獄』あたり
そうですね~、女性としては私も『エドの舞踏会』イチオシですね。
次の日に通勤で読むはずが、手に取った夜に一気読みしちまうところでした。
森有礼の妻の話は、まんま、別の作家が怪奇小説にしてました。
Posted by: 高野正宗 | November 10, 2005 11:36 PM
>Kakakaiさま
>早速本屋に走ります。
あればいいんですけどね~(苦笑)
いや、名古屋ほどの都会ならば、大きな書店もあるでしょうから、たぶん置いてある・・・・かな
『警視庁』の方は数年前ドラマ化されたこともあったので、文春文庫でも出てるかもしれません
同じく前におすすめした『魔群の通過 天狗党叙事詩』はさらにみかけないかも。廣済堂文庫というレーベルで出ているのですが・・・・・
>高野正宗さま
>いつもながらよくまとまった記事ですv
ありがとうございます。でも「明治もの」って説明するの難しいですね・・・・ ミステリーでもあり、伝奇ものでもあり、歴史ものでもあり、そのどれとも微妙に違うような。ややこし
>エドの舞踏会
自分で推した割に、実は内容をほとんど覚えてないという体たらく
なので、先日文庫版を購入いたしました。再読できるのはいつのことやら
Posted by: SGA屋伍一 | November 11, 2005 09:26 PM