福田己津央 『機動戦士ガンダムSEED』を軽くかばってみる 運命編
先週末、OSがウイルスにやられたようで復旧に手間取ってました。今度からはもっと対策まめにやろう・・・・
で、『ガンダムSEED』二回目。今回は正編よりさらに評判の悪い『DESTINY』について、いっちゃいましょうか。
『DESTINY』の簡単なあらすじを。主人公は前大戦で家族を失った少年シン・アスカ。「守るためには力がなきゃ駄目だ」と考えた彼はザフト軍に入隊。おりしも過激派による大規模なテロ事件により、地球と宇宙(コーディネイター)の関係は悪化。平和を望むシンは、ザフト指導者デュランダルの提唱する、「生まれながらにして将来を決めてしまう『デスティ二ープラン』」に賛同。自由を求める前作の主人公・キラやアスランと激しく対立する。
今回なにがたたかれてたかというと、本来主人公であるはずのシンくんがさっぱり成長せず、出番もキラやアスランに食われまくりで、「だれが主役やらさっぱりわからん」というところでした。加えてこのシンくんが大変可愛げのない性格で、なんだか名作劇場屈指の問題作『わたしのアンネット』を思い出したちゃったりして(笑)。
わたしはたぶん途中でシンくんが「力に頼ることのむなしさ」に気づいて、前作の主人公らと手を組む展開になるんだろうと予想してたんですが、いつまで経っても和解する様子はなく、結局最後まで対立したまま終了。なんでまた福田氏はこんな展開にしたんでしょうか。
好意的に解釈するならば、福田さんはガンダムをはじめとするロボアニメのお約束・・・・・「主人公側が正義」という構図から脱却したかったんでは、と考えます。ロボアニメに人間ドラマを持ち込んだ、といわれる初代ガンダムですが、コロニー落としとかやってる時点で、ジオン軍ってどうしても「悪」なんですよね。OPでも「正義の怒りをぶつけろ」とか歌ってますし。続く作品でもその決まりを免れたものはほとんどありません(例外といえば『0080』くらい?)。
で、今回そのタブーに挑戦した福田監督。序盤はシンくんの不幸をこれでもかというくらい強調し、視聴者に彼を同情させる。次いでそのアンチテーゼとして、いかにも「正義」っぽい前作の主人公を持ってくると。我々としてはキラの方に理があるように思えるわけですが、シンの不幸な過去を思うと、彼にも肩入れしてやりたくなる。「お互い気持ちはわかるんだが」という。いままでにも同種の試みはありましたが、ここまで徹底したものはあまりなかったのでは。
こうして『DESTINY』を観終えて思うのは、やはり現実には「正義対悪」の戦争など存在しないんだな、ということ。広い世界を見ますと、いかにも「悪の枢軸」みたいな国家もありますが、それは我々の視点から見てそう思えるということです。彼らは自分たちのことを「悪」だなんて思っていません。むしろ自分らこそが正義だと主張するでしょう。
『DESTINY』で申しますと、民主主義のもと平和に育った我々には、キラの「戦争が生じるとしても個々の人間の自由まで奪うべきではない」という主張の方が「正義」のように思えますが、戦争で身内を失ったシンのような人にしてみれば、「どんな強引な手段を使っても、平和を実現させたい」と考えるかもしれません(もっとも議長のいう「デスティニー」プランとやらも、人間の作ったものである以上、どこまで長持ちしたか怪しいもんですが・・・・)。
と、まあそんなわけで「相手の立場でものを考えてみましょう」という点ではなかなかよかったと思います。まあそりゃコマッタチャンなところも色々あります(総集編多すぎとか)が、それはよそさまでやってくれてますので。
『DESTINY』は前作よりもさらに煮え切らない終わり方でしたが、これも現実的といえるかもしれません。ひとつの戦いが終わっても、それで問題全部が片付くわけではありませんから。解決どころか悪化していることすらあります。
ただ、DVDでは追加映像としてさらに40分が足されるとのこと。そちらではもう少しスカッとしたエンドになるのか。わたしはこのままでもいいと思いますけどね。
Comments
>OSがウイルスにやられたようで
こちらは迷惑メールで不愉快な思いをしてます。
>さっぱり成長せず
彼にとって不幸なのは、周りの人間の影響で
考える時間をあまり与えられていなかった気がします。
>「だれが主役やらさっぱりわからん」
アスランかと思ったり、後半のOPでの番組タイトルのMSは
ストフリだもの・・・・。EDで声優順序が変わったりする回は
前代未聞でした。
>正義の怒りをぶつけろ
というのもあるけど、「ダイターン3」の後番組だからだと思ってた。
>前作の主人公
キラの場合、フリーダムでの無敵ぶりが評判良くなかったようですね。
切り刻んだりしたからねえ(笑)。
折も「Z」の劇場版が具体化した頃で、アムロやシャアの
活躍をどうしても引き合いに出してしまってるのでしょうね
(カミーユを成長させたと言う点とか)。
>「デスティニー」プラン
本編最大のミスは、これを知る手がかりが廃墟コロニーで拾った
ノートの走り書きでしかない上に、書類関係は「量子審査に
パスした情報でないと信頼されない」と言う設定
を作っておきながら、キラたちがこれらを裏付ける話を書かないおかげで、想像や妄想でオーブ軍を動かし、ぎちょーを倒した(と誤解した?)事に非難が集中してるようです。
>追加映像
期待せずに待ちましょう。
ではでは。
Posted by: まさとし | October 25, 2005 10:18 AM
運命は、前作と比べると、エンターテイメント的なサービスが少なかったですね。
キラとシンの人間的関わりが少なすぎて、二人のぶつかり合いにドラマが生まれませんでしたね。
ステラをキラが殺しても、キラには罪悪感が生まれる言われもないですし・・・
雑文失礼
Posted by: 西麻布 夢彦 | October 25, 2005 10:30 PM
>まさとしさま
>周りの人間の影響で
考える時間をあまり与えられていなかった気がします。
「周りの人間」というのは議長やレイのことでしょうかね。本来ならそこからうまく抜け出せるようにしてやるのが、先輩たるアスランくんのお役目だったわけですが、彼は自分のことでいっぱいいっぱいだったりして。
>正義の怒りをぶつけろ
実は作詞家(笑)富野由悠季氏は、『イデオン』『ダンバイン』でも「正義の証しか」「正義になれと」と歌わせてます。スポンサーへのめくらましだったのか?
>折も「Z」の劇場版が具体化した頃で、アムロやシャアの
活躍をどうしても引き合いに出してしまってるのでしょうね
「DESTINY」のコンセプト自体「Z」を意識しているよなところがりますから。しかしまさか、同時期に劇場版がかかるとはねえ。
>キラたちがこれらを裏付ける話を書かないおかげで、想像や妄想でオーブ軍を動かし、ぎちょーを倒した(と誤解した?)事に非難が集中してるようです。
たしかにその辺強引でした。キラたちの推測が当たっていたからよかったようなものの・・・・ コーディネイターには名探偵コナンなみの推理能力もそなわっているのか?
>西麻布夢彦さま
はじめまして
>前作と比べると、エンターテイメント的なサービスが少なかったですね。
自分は前作の「フェイズシフトダウン」におけるピンチ脱出に燃えた口だったので、ああいうカタルシスをもっと味わわせてほしかったですね(テーマが薄れない程度に)。ゲリラの援助のために坑道を利用するエピソードは、なかなか良かったです。
>キラとシンの人間的関わりが少なすぎて、二人のぶつかり合いにドラマが生まれませんでしたね
現実には敵対関係にあるパイロット同士が触れ合うことというのはほとんどないのでしょうから、これはこれでリアリズムかもしれません。でもステラ×シンという非現実的な例をやっちゃってるんだから、もっとディスカッションさせても良かったかも・・・・
なんでか今日の朝日夕刊の科学面の記者コラムに、「DESTINY」のことが書いてありました。まあまあ好意的でした。
Posted by: SGA屋伍一 | October 25, 2005 10:54 PM