山田風太郎に関しては色々言わせてもらいたい③ 『甲賀忍法帖』
まだ続いてたのか、という感のこのコーナー。今日は映画『SHINOBI』で話題沸騰中のこの作品を取り上げます。
江戸時代草創期、三代将軍を長男竹千代とするか、次男国千代とするか、江戸幕府ではそれぞれを擁する派閥の暗闘が繰り広げられていた。大御所徳川家康は、伊賀・甲賀の忍者十人ずつを双方の代理として殺し合わせ、勝ち残った方を後継者にすると宣言。ちょうどそのころ、甲賀の弦之助、伊賀の朧は、両家の因縁を乗り越えて将来を共にしようと誓い合っていたのに・・・・
山風忍法帖の記念すべき第一作。デビュー作には作者の全てがあるといいますが、こののち十年に渡って発表される忍法帖の主な要素を、すでにこの作品の中に見ることが出来ます。このシリーズの特長である奇想天外な忍法(というか超能力だわな、ほとんど)のアイデアも、質・量共にもっとも充実してるといっていいでしょう。後期の作品にはあまり見られなくなった医学的なこじつけ・・・・・例えば斬っても斬っても死なない忍者については「人間の新陳代謝を極限にまでたかめてうんたらかんたら」みたいな説明があります・・・・・もふんだんです。
そしてこの『甲賀忍法帖』は漫画界にも多大な影響を与えています。この忍者集団の対抗戦は横山光輝の『伊賀の影丸』にそっくり受け継がれます。横山先生は「これから取りました」とは言ってませんが、代表の名が書かれた巻物をお互い取り交わしてから戦いを始めるという、このスポーツじみた形式は、まちがいなく山風忍法帖からのアイデアと言っていいでしょう。そしてこの「命をかけたグループ対抗戦」というコンセプトは、車田正美の『リングにかけろ』、ゆでたまごの『キン肉マン』、さらにジャンプの多くの漫画のスタイルとなっていきます。
しかし、少年マンガには受け継がれなかったものもあります。それはまあ、この作品が持っている大人の要素。性を強調した忍法や、戦中派不戦者としてのシニカルな眼差しなどです。他の忍法帖にも言えることですが、こんな風に大人要素と子供要素、悲劇と喜劇、現実と空想、史実と虚構、純粋さと欲望、パロディと独創性など、相反する要素を違和感無くとりこんでいるところが『甲賀』のすごいところです。
忍者たちもまことに個性豊か。容姿・精神・能力共に美しい主役ふたりに、容姿は秀麗ながら欲にとりつかれている薬師寺天膳・陽炎、さらにはカマキリ忍者、ナメクジ忍者みたいな笑える連中まで、まさに百花繚乱・百鬼夜行でございます。
果たして勝ち残るのは伊賀か甲賀か? 忍者のロミオとジュリエットは自分たちの愛をつらぬけるのか? 『甲賀忍法帖』は現在角川文庫・講談社文庫・講談社ノベルズから発売中。コミカライズの『バジリスク』(ヤンマガコミックス・全5巻)、『甲賀忍法帖・改』(少年エースコミックス・現在1巻のみ)も発売中。『バジリスク』は先日アニメも製作され、そんで映画『SHINOBI』も公開中・・・・と、これで全部だよな?・・・・です。
近日中に『SHINOBI』についてもレビューいたします。
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