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September 16, 2005

悪い子の学習帳 大場つぐみ・小畑健 『デスノート』

本日は昨年コミック界の話題を席巻したこの作品を。
非凡な受験生・夜神月(ライト)は、ある日風変わりな一冊のノートを拾う。それは死神が現世に落とした、名前を書いただけでその人間を殺せる本、「デスノート」だった。日常に退屈しきっていたライトは、死神リュークのサポートのもと犯罪者をバンバン殺しまくり、この世の救世主となろうとする。しかしその行為を「悪」と糾弾し、ライトに挑戦状を叩きつけた者がいた。彼の名は「L」。世界最高の探偵と噂され、姿をみせないにも関わらず、インターポールを動かすほどの実績と人脈を持つ男。こうしてライトとLの、知略を尽くした戦いが始まる。

このマンガ、どこに行っても「スゴイスゴイ」と評されているので、「そんなに面白いのかね~」と、ややひねくれた気持ちで手に取りました。しかし、読んでみてわかりました。この漫画が、なぜそれほどまでに話題になったのか。とにかく、着想、展開、キャラクター、絵、どれもが群を抜いています。そしてなにより作品に勢いを感じる。いま連載されているコミックの中で、かなり先端に位置しているのは、まずまちがいないでしょう。
けれど、合わない人もいるだろうとも思います。このマンガはそれはもう「ドス黒い」物語だからです。これまで残酷な描写はあっても、基本的に正義がゆらぐことはなかったジャンプ。そのジャンプにあって、これほどまでにダークサイド満載な作品は極めて異例です。ライトもLも“正義”を声高に主張しますが、彼らの行動原理が「退屈だから」であるのは一目瞭然。まさに正義なき戦いです。あるのは「友情・努力・勝利」ではなく「疑心・知略・制裁」。この黒さはむしろ70年代のマガジンやチャンピオンを連想させます。

作画担当の小畑健氏は『ヒカルの碁』でブレイクしたことで知られています。このマンガを『ヒカル』と比べてみると、大変コンセプトが似通っていることに気づかされます。平凡な日常を送る主人公のもとに、突然現れる超常的存在。主人公以外に見えない「それ」は、少年を広い世界へと導きます。主人公の名前や風貌、顔の見えない状態での死闘、というところも似ています。それでいて両作品から受ける印象は対照的です。藤原佐為がヒカルを健康的に成長させるのに対し、死神リュークとデスノートは、ライトを死神以上の怪物に変えていきます。
普通こういうのって、他誌で違う作家を使ってこっそりわからないようにやるもんですが、同じ雑誌で同じ作家を使ってやってるあたり、ジャンプもなかなか図太い(笑)。けれどこの対照性が「二番煎じ」というイメージを感じさせないようにしています。

まず絶対ありえないような状況をこしらえて、ああでもない、こうでもないと論理を組み立てていく流れは、『ジョジョの奇妙な冒険』を思い出させます。また前述の、日常に異常な存在がやってくるというコンセプトは、一連の藤子不二雄作品に源を発するものかもしれません。もちろん、のび太がデスノートを使って殺人をおかすなんてことは絶対にない。でも魔太郎ならたぶんやる(笑)。その黒さに目を奪われがちですが、こんな風に『デスノート』は過去の様々な少年マンガの面白さを抽出し、独特のアレンジを加えた作品といえます。

さて、正義だなんだと理屈をこねくりまわし、その実極めて自分勝手な動機で凶行に走る・・・・というストーリーはマンガ版『罪と罰』と言えるかもしれません。果たして現代のラスコーリニコフたる夜神月に、罰が下される日はくるのか? 『デスノート』は集英社より現在8巻までが刊行中。7巻でちょうど第一部完結、みたいな感じなので、追いつくには今がちょうどいいころかも。個人的にはこの7巻、けっこうこたえました。

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Comments

 ノートをひろったラッキーマン~w
 一巻を読むとライトくんが今よりすがすがしい
顔でびっくりしました。

Posted by: 犬塚志乃   | September 18, 2005 11:22 AM

>すがすがしい
ですね。あのころはこんなに可愛かったのに。よよよ・・・・
今ではむしろ死神連の方が可愛く見えます。

Posted by: SGA屋伍一 | September 18, 2005 10:38 PM

 悪い悪いと言われているライトくんですが、
まぁ普通でしょう。小悪党じみてるだけでw
 妹や家族に手だしされたら黙っていない
でしょう。多分。
 理想としては、今マフィアとか出ているみた
いですが、話や仕掛けは大きいのに、
御町内で戦ってるようにしか見えないような
身近なストーリーになって欲しいです。
 「父さん」とか「サキぃ」みたいに。
戦国武将も戦うのは大体身内や一族ですし。
 >死神
 かわいいですかw?シドーとかはどうですか
な。
 「ノート取るなんてシドー教育的シドー」

Posted by: 犬塚志乃 | September 22, 2005 08:18 PM

>まぁ普通でしょう。小悪党じみてるだけでw

いや・・・・普通じゃないと思いますけど(笑)。「小悪党じみてる」には賛成です。あのくらいの少年って、よくふざけて「夢は世界征服」とか言いますよね。
ライトくんは、どちらかというと乱世に生まれたほうがよかったタイプでしょうね。チェザーレ・ボルジアなんかとイメージがかぶります。

>話や仕掛けは大きいのに、
御町内で戦ってるようにしか見えないような
身近なストーリーになって欲しいです

第1部がちょうどそんな感じでしたか。半分くらい密室内で話が進行していたような。

>教育的シドー
「頼ってばかりいないで、もっと積極的に攻めるように!」
目には目を。ベタにはベタを。
それはともかく、シドウ可愛いです。ただ、あっけなく死んじゃいそうな気がしてなりません(涙)。
 

Posted by: SGA屋伍一 | September 23, 2005 06:40 PM

 どうも、ゼンザイです。
 読んだよ、6巻の途中までだけど。
 すごい話だね、驚きました。
 君が書いているように、私も読みながら頭に浮かんだのが「罪と罰」、それと乙一「GOTH」かなあ…・。
 「GOTH」も「デスノート」も主人公に対する親近感なり安心感なりってものを、完全に阻害している…っていうか、一方はミステリ小説(でいいのか?)のいわば探偵役、でもう一方は少年誌(それも少年ジャンプ)の主人公、に対するある種固定的なイメージを覆すといったらいいのか、そこら辺が変わっているし、斬新だし、面白いなあと思いました。
 ただ、これを読んでいる小学生はどんな感想を持つんだろうね。つきつめれば深いいいテーマが隠れているとは思いますが、その示し方というのが…、まあ、いいんですが。
 ということで、恐る恐る読んでいますので、借りた分の8巻までまだ読めません。特に君がこたえたと書いている7巻は体調がいい時に読もうと思います。まあ、気長に待っていてください。
(というか、まだ返してない本いっぱいあるなあ…)

Posted by: ゼンザイ | September 28, 2005 09:40 AM

うす。お仕事お疲れ。
>「GOTH」も「デスノート」も主人公に対する親近感なり安心感なりってものを、完全に阻害している…

ですね。『GOTH』は未読だけど。話の面白さに絶対的な自信があるからこそ、こういうキャラ設定にできたんだろうな、と。一方でライト君の行動に、自分の隠された願望がシンクロしてしまったひとたちもいると思うよ。

>ただ、これを読んでいる小学生はどんな感想を持つんだろうね。

ナルトやルフィが「仲間は絶対に助ける!」とか言ってる横にこんなのが載ってんのは、確かに異常だねえ。ただ、青年層の支持は圧倒的だけど、子供人気はどんなもんなのか微妙。ジャンプでは大体真ん中より少しあとくらいに載せられている。この位置が意味するのは・・・・?

>恐る恐る読んでいますので、借りた分の8巻までまだ読めません。

このマンガ、字が多いからねえ(笑)。いつでもどうぞ。払うものさえ払ってくれりゃ。げしし。

Posted by: SGA屋伍一 | September 28, 2005 09:57 PM

 この作品ダークとか言われていますが、
どこらへんがダークなのかわかりません。
 >L
 甘党がかわいいですな。イスの座り方も。
いまわのきわに言った言葉がなんなのかは
わかりませんが。
 Lというとかぼちゃワインを思い出します。
LはラージのL~
 >ミサ
 かわいいですな。四葉商事の面々を接待
している時なんかトキメキです。
 四葉商事の面々もこれからおこるであろう事
(なんだよ?)に胸をときめかせていただろう
で松井君はすっかり忘れていたハズなのに
わざわざ飛び降りて死んだフリをするなんて。
 ちなみにこの飛び降りたシーン
 >こんなデスノートはイヤだ
 マットがとどかない
 (松井の)数が多い
 隣りのビル
 ぼすっ(かんコーヒー)
 状況悪化(てすりがくずれる)
 なんてのがありました。
 
 がんばればがんばる程小悪党化していく
ライトくんは馳星周を思い出します。
 
 >レム
 ミサが好きだったんですね。愛ですな。
女の子同士でも愛はあると(ていうか死神に
性別はあるのか?)。
 ジョエルという死神の自分が好きな子を生かせる為に結果として塵になったエピソードを
見るにつけこの作品は人間(人じゃない)の
エピソードなんだと痛感したり。
 
 人間より死神の方が、
なんて安直な事は言いたくないでげす。

 

Posted by: 犬塚志乃 | October 09, 2005 01:37 PM

 >人間のエピソード
 おっと人間愛という言葉を忘れて
ました。

Posted by: 犬塚志乃 | October 09, 2005 01:39 PM

 >このマンガ、字が多いからねえ(笑)
 クロマティ高校と同じと思えば苦労は
ないですw

Posted by: 犬塚志乃 | October 09, 2005 01:41 PM

どうもです
>どこらへんがダークなのかわかりません。

いや・・・・ やっぱその辺の男の子がバンバン人を殺しまくる話ですから・・・・ 

>>L
 甘党がかわいいですな

ですね~。実は自分ライトよりL派。
「頭を使えば甘いものを食べても太りません」
マジか!? じゃあもっと頭使おう!(無理)

> >ミサ
 かわいいですな。

ですね~。ここまで御馬鹿だと、哀れというかアッパレよいうか。

>ライトくんは馳星周を思い出します。

『不夜城』の劉健一のことでしょうか。完結編だけ未読。

>>レム
 ミサが好きだったんですね。

うーん。あれはやっぱり愛だったんでしょうかね。わたしに言えることはこんな女に惚れられたら怖い、ということです。

>死神
いまジャンプではもう一本やってますね。実は最近そっちの方にもはまりだしていたりして・・・・

>クロマティ高校と同じと思えば苦労は
ないですw
そうか! クロマティと違って脱力することもないし。

Posted by: SGA屋伍一 | October 09, 2005 09:53 PM

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