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August 20, 2005

夏がくれば思い出す① こうの史代 『夕凪の街 桜の国』

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甲子園も終了したようで、夏もぼちぼち終わりというとこでしょうか(アロハプロジェクトは延長・続行中ですが・・・・)。八月が終る前にいっときたい話題をふたつ。
まず、わたしなんかが語っていいのか、という気もしますが、こうの史代女史のマンガ『夕凪の街 桜の国』について。もともと『漫画アクション』に掲載されていた作品ですが、単行本化が見送られ同人誌として出されていたものを、そっち方面にもくわしいみなもと太郎先生が発掘。氏のプッシュが利いたのか、公に出版されるや否や絶賛の嵐。文化庁メディア芸術祭と手塚治虫文化賞をダブルで受賞するまでになります。
三部構成になっていて、第1部が『夕凪の街』。1945年8月の「あの日」から10年経った広島で生きる女性、皆実が主人公。明るく、普通に暮らそうと務める彼女だが、無論あの日の記憶は薄れようもない。そんな時同僚の男性から思いを打ち明けられて・・・・ という内容。第二部・第三部である『桜の国』は、それからさらに30年、50年を経た時代の物語となっています。 

原爆をモチーフにした作品というと、『はだしのゲン』をはじめとする中沢啓治氏の一連の著作がまず思い浮かびます。氏の直接的に激しく訴えかえけてくるタイプの作品が必要であると同様、女性の感性で柔らかく悲しみを語る『夕凪の街~』のような作品も、やはり必要だと思います。ちなみに視覚的にショックなシーンはほとんどありません。自分がもしあの時代広島にいて、その後も生きていかねばならないとしたら。たぶんわたしは日本とアメリカに恨みを抱きながら、後ろ向きな人生を歩んでいくだろうと想像します。『はだしのゲン』の主人公も両国に対し、煮えたぎるような怒りを隠そうとはしません(もっともゲンは復讐心に飲み込まれて、自分を見失ったりはしませんが)。
対してこの『夕凪の街』の皆実は「怒り」とは程遠いところにいます。むしろ生きのこってしまったことに、うしろめたさを抱いている。さだまさしの小説『精霊流し』に出てくる主人公・雅彦の叔母も、恐らく被爆のために度重なるガンに苦しめられる身でありながら、「ピカが憎くないのか」と問う甥に対しこんなことを言います。
「もし日本が先に原爆を作っていたら、きっと向こうの人が同じ目にあったはず。だからこれは仕方のないことなんよ」
人間はそこまで達観できるのだろうか、と雅彦は思います。わたしも同じ思いを抱きつつも、そんな人間がいるかもしれないことに、少し慰められます。そう、ひとはあまりに可哀相な話を聞くと、どこかに慰めを求めます。この本の後半に納められている『桜の国』はそのためにあります。ヒロインの「そして確かにこのふたりを選んで生まれてこようと決めたのだ」というモノローグに、皆実の弟である男性が最後に語る言葉に、慰められます。
皆実の家を訪ねてきた同僚について、「お父さんに似てたねえ」「じゃあやっぱり○○るんかのう」と語る母娘。『桜の国』においてその男性とおぼしき人物がチラリと姿を見せます。頭を見ると・・・・おお(笑)。そんなところにも慰められます。


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さて、先日6日、なにげなくヤクルトー巨人戦を見ていた折、試合の合間に突然「今日はなんの日か知ってますかー?」というアナウンスが。黙祷でも捧げるのかと思いきや「古田選手のお誕生日でーす!」とのこと。コケました。エライ日とかぶってしまった古田氏も気の毒ですが、対戦相手が広島カープでなくて本当によかった、と心から思ったSGAでした。

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Comments

SGA様、いつもいつも笑わせていただいてありがとうございます。何度パソコンの前でガハハハッとのけぞったかしれません。
『夕凪の街・桜の国』、初版の頃は置いてある書店が少なくて探しまわりましたが今では普通にどこでも置いてありますね。原画展で原画も見ましたが、物語の美しさもさることながらスクリーントーンを一切使わないペンの線(カケアミというのですかね?)の繊細さにトリハダが立ちました。
ただ、あのう、『夕凪の街』の主人公は「七波」ではなく「皆実」では〜?

Posted by: しゅー改めシュウ | August 21, 2005 at 10:44 PM

うわ〜ん、ごめんなさい!慣れないことしたので連続投稿してしまいました!大変お手数ですが削除お願いします。すみませんっ!!

Posted by: シュウ | August 21, 2005 at 10:52 PM

『夕凪』に出会ってから、こうの史代さんの作品をいくつか読みました。
いずれも普通(?)の人々の生活がとても細やかに描かれていて、日常というものを何よりいつくしむ作者の眼差しが感じられました。
「原爆で日常を奪われる理不尽」という題材は、こうのさん本来の作家性から最も遠いものであったはずです。でもこの人はそれに目をそらさず向き合い、こうのさんにしかできない形で表現しました。

多くの人が指摘しているように、この漫画、素朴な絵柄に反して極めて周到に作り込んであり、複雑な伏線や表現の技法が駆使されています。そしてそのことが普通の読者にも伝わってきます。だから、「こうのさんにしかできない形」とは言っても、一人の天才が独創するような性質の作品ではなかったと思います。
『夕凪』は、無数の書き手と読み手により営々と育まれた漫画文化の上に、こうの史代さんという誠実で個性的な書き手が咲かせた花なのではないでしょうか。それは作中の人々の育んできた戦後の年月とも重なるようにも感じます。もしかしたらみなもと先生もそのあたりを高く評価されているのかなあと思案する60年目の夏です。

Posted by: 秦太 | August 22, 2005 at 01:34 AM

>シュウさま
ようこそおいでくださいました。ご依頼の件やっときました。長屋系のサイトで幾度かニアミスしてましたね。拙宅も覗いてくださっていたとはうれしゅうございます。
>『夕凪の街』の主人公は「七波」ではなく「皆実」では〜?
おっしゃるとおりです。すでに修正いたしましたが、こりゃ怒られてもしょうがないミスですね・・・・
 
 ごめんなさ~い!!

実はタイトルも「『桜の国 夕凪の街』だったか? それとも『夕凪の国 桜の街』だったか?」としょっちゅうこんがらがってたりして・・・・
>カケアミ
指摘していただいて改めてみてみると、この方はトーンはおろかベタですらあまり使ってませんね(夜のシーンでさえ)。頭髪も上の部分はちゃんとカケアミになってる。そうしたところに作者の誠実さを感じますです。


>秦太さま
>日常というものを何よりいつくしむ作者の眼差しが感じられました。
確かに。原爆について語るとなるとどうしても「日本が」「政治が」と大きくかまえてしまいますけど、そういう大上段の文章を読むよりも、わたしたちと変らぬ皆実さんの物語を追うことの方が、戦争の悲惨さを痛感させられます。
あとがきを読むと、こうのさんはこの作品を描くにあたり、相当なプレッシャーを感じていたようですね。もう彼女の責任は十分に果たされたと思うので、あとはご自分の好きな「日常」の作品を自由に描いて頂きたいですね。
>一人の天才が独創するような性質の作品ではなかったと思います。
>誠実で個性的な書き手が咲かせた花なのではないでしょうか。
漫画はやっぱり絵が大事ですが、いつまでも読み継がれるものは、多少地味であってもしっかりした芯・・・・「物語」「メッセージ」のある作品なんでしょうね。また、誠実な方の描く絵というのは、シンプルであってもいつまでも記憶に残っている気がします。自分の好きな作品でいうとちばあきおの『キャプテン』なんかがそうです。

Posted by: SGA屋伍一 | August 22, 2005 at 09:47 AM

TBさせていただきました。
静かで激しい、心に沁みる素晴らしい作品でした。

Posted by: タウム | September 09, 2006 at 10:36 PM

>タウムさま
ご来訪ありがとうございます
TBなんかうまく届いてないみたいで・・・ 規制は何もしてないので、ココログの不具合かな?
そちらの記事も読ませていただきます

Posted by: SGA屋伍一 | September 10, 2006 at 08:54 PM

おはようございます。お返事が遅くなってしまってごめんなさい。
『夕凪の街~』ってSGAさんご贔屓のみなもと太郎先生のプッシュにより世に出た作品だったんですね。

原爆漫画というとまず連想するのが『はだしのゲン』。
子供の頃はとてもじゃないけど怖くて読めないマンガでした。
ゲンに限らず、原爆に関連した作品ってこれまであまり自ら進んで手に取ることがなかったのですが、ささやかながらブログで映画の感想を書いてる広島人として『夕凪の街~』はスルーできないなと思って読んでみた原作は、なんでもっと早くこれを読まなかったのだろうと思えるような作品でした。
被爆者でも被爆二世でもないこうのさんが描く、素朴で美しい日常が損なわれる恐ろしさは強烈なんだけど、同時に広島に対する愛を感じる作品でもあり・・・
登場人物の名前が広島の町の名前って素晴らしいアイデア。
ちなみに私、「皆実」高校出身で勤めていた会社は「旭」町にありました(笑)

苦手だったゲンもつい先日アニメ版を観る機会があって(ドラマもあったけど)、子供の頃は直接的な描写が恐ろしいばかりだったけど、これはそれを伝えるだけではなくて、信じられないほど過酷な状況の中で明るく逞しく生きる子供たちの物語だったのだと今頃ですが気がつくことができました。
原作も例の「まんが図書館」で借りて読んでみようかなと思っています。

Posted by: kenko | August 15, 2007 at 11:44 AM

>kenko さま

お盆で忙しい中コメントありがとうございます

「はだしのゲン」を読みますと、それはもう「恐ろしい」「痛ましい」ことばかりが目に付きます。実際、投下直後の広島はまさに地獄絵図だったのでしょうし
しかし『夕凪の街』を読んだ時、「その後を生きた人たちにも、我々と変らぬ日常がちゃんとあったのだな」ということを教えられました

>私、「皆実」高校出身で勤めていた会社は「旭」町にありました(笑)

そうするとkenkoさまは、この物語を最も深く味わえる立場といえるかもしれませんね。ちょっとうらやましい。広島に生きる人々は、きっと喜びも悲しみも人一倍感じられるのではないでしょうか

『ゲン』に話を戻しますと、この漫画は今の若い子達にも相当浸透しているようです。なんでかっていうと、学校においてあるマンガってこれくらいしかないから
『ゲン』のほかにも幾つか同作者の作品を読みましたが、いずれも中坊の単純な感性にはあまりにも厳しいものばかりでした

Posted by: SGA屋伍一 | August 15, 2007 at 09:13 PM

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