山田風太郎に関しては色々言わせてもらいたい① 推理小説編
山田正紀先生に見つかったら「貴様の出る幕などないわッ!」と怒られそうなタイトルですけど、高野正宗さまの連続レビューに触発されて我慢できなくなりました。ややマニアックかもしれませんが、どうぞお付き合いの程、よろしゅう。
絶頂期は一部を除いて権威からゴミカス扱いされながら、晩年になってようやく正当な評価を受ける作家さんがいます。その最たる例が、江戸川乱歩&山田風太郎の「はぐれ師弟コンビ」ではないでしょうか。もっとも「師弟」といってもそれほど密接なつながりがあったわけではありません。「宝石」誌のコンテストにおいて、山田青年が応募した『達磨峠の殺人』という短編を、周囲が首をひねるなか、「こいつ、イイ!」と主張されたのが乱歩先生だったのです。果たして乱歩先生が山風の資質を見抜いていたのか、単にヤマカンで言っていたのかは謎ですが、ともかくこうして山田風太郎は世に出ることになりました。評価してくれた乱歩への恩に報いるため、山田青年はせっせこ推理小説を書き続けます。そしてとうとう『眼中の悪魔』という短編で、第2回探偵クラブ賞を受賞するまでに成長します。このとき横溝正史先生は「あの『達磨峠』の山田君がここまで成長するんだから、新人ってやつは安易に見限るもんじゃない」というようなことをおっしゃっておられます。
この時期の山風の作品群を概観すると、乱歩を意識しつつも、はっきり独自のカラーが既に表れています。意外な犯人、叙述トリック、奇抜な設定、異常な動機・・・・ どんな作品にも何らかの実験精神が見られます。そして、現行の作家たちの手による、名編と謳われているもののアイデアの多くが、すでに山風により先取りされていたことに、今さらながら驚きを禁じえません。
わたしが特に押すのは次の二編
・『誰にでも出来る殺人』
あるアパートを訪れた青年が、そこで発見した奇妙な日記。青年はその日記を読み進むうち、アパートの住人たちに隠された驚くべき秘密を知る。今読んでもまったく古びていない名編。意表をついた結末には、誰もが溜め息をもらすことでしょう。現在は光文社文庫『眼中の悪魔』に収録。
・『妖異金瓶梅』
中国の古典『金瓶梅』に材をとった連作推理もの。犯人は毎回おんなじという、「それで話が成立すんのか(するんです)」というスゴイ作品。終盤のカタストロフィーや、叙情的で美しいラストシーンも、ぬぐい難い印象を残します。現在は扶桑社文庫のものが手に入りやすい様子。
この他にも世評高いものというと『十三角関係』『夜よりほかに聴くものもなし』『太陽黒点』『棺の中の悦楽』『厨子家の悪霊』『黄色い下宿人』などがあり、おおむね光文社文庫か 廣済堂文庫 に収められております。『棺の中の悦楽』は、大島渚の手により『悦楽』というタイトルで映画化されたこともあります。
さて、これほどに優れた作品群を著しながら、山ちゃんは「やっぱオレ、推理小説にはむいてないなあ」と悩みつづけていたそうです。そこへ『妖異金瓶梅』を読んだ編集者が、「どうよ、今度は『水滸伝』でも書いてみれば」と勧めます。そこで、『水滸伝』における「一人一芸」みたいなテイストをあれこれいじった結果、生まれ出たのが忍法帖第1作『甲賀忍法帖』であったというわけです。この作品や他の忍法帖に関しては、また別項で語ることといたしましょう。
Comments
こんばんは。
何と申し上げればよいのやら・・・
ついに伝家の宝刀を抜いてしまわれたのですね(笑)
山風の推理小説はずいぶん昔のレビューになっちゃったので記憶もないし…
謹んで、ともあれ最新の記事をTBさせて頂きます(謹んでじゃなくて押し付けだろう)。
Posted by: 高野正宗 | July 22, 2005 11:31 PM
>ついに伝家の宝刀を抜いてしまわれたのですね(笑)
おう! 見よ、この宝刀の切れ味を! (ばき)
な、なまくら!?
>謹んで、ともあれ最新の記事をTBさせて頂きます(謹んでじゃなくて押し付けだろう)。
自分で探してお礼参りしておきました。
いつももっちゃげてくださって、本当、ありがとうございます。
Posted by: SGA屋伍一 | July 23, 2005 10:20 PM