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July 16, 2005

コウモリの始め方 クリストファー・ノーラン 『バットマン ビギンズ』

い、いかん、記憶が薄れてきた・・・・ 覚えている間にこの話題を。現在絶賛公開中の『バットマン ビギンズ』について語ります。
ご存知、ゴッサムシティの犯罪と日夜(つーか、夜だけ?)戦うヒーロー、バットマン。彼がなぜ誕生したのか、その経緯が極めてシリアスなタッチで描かれます。
最初わたしはこの作品が、過去のシリーズ(通算4作)に対しての、「エピソード1」のような位置付けになるのかと考えていましたが、鑑賞し終えてみると、どうやら「完全新生」→「これまでのことは忘れてくれ」ということのようです。前までの4作は出来や監督のカラーの差こそあれ、「マンガ映画」(蔑称に非ず)であることには変りありませんでした。しかしこの『ビギンズ』で、ノーラン監督は「アメコミヒーローをどこまでリアルに描くことが出来るか」ということに挑戦したようです。ですからこの映画には、奇抜な格好をした悪役は登場しません。コスチュームを身にまとうのは、われらがバットマンだけです(笑)。あと、超能力や宇宙人も登場しません。

ある夜、裏通りを歩いていた仲睦まじい親子を襲った突然の惨劇。ブルース少年一人を残して、ウェイン夫妻は強盗の凶弾により命を絶たれます。復讐心を押さえきれず、長じて強盗の命を奪おうとするブルース。しかしその強盗が別の者に殺されたことにより、ブルース青年は宙ぶらりんに。世界を放浪し、悪を知り、青年は自分が間違っていたことを悟ります。では、どうすれば自分の苦痛は消え去るのか。あの街から犯罪を消し去るにはどうすればよいのか。彼が見出した答えは、「悪党どもの恐怖の対象となること」・・・・
「正義」とは非常に危うい言葉です。人によりその定義は異なりますし、古来この言葉の名のもとに、多くの蛮行が行われてきました。しかしみなが納得する最大公約数的な定義がひとつ存在します。つまり、「弱者をまもること」。けれど、それとてやり方をひとつ間違えただけで、容易に狂気へと発展してしまうこともあります。そのいい例が『タクシードライバー』のトラヴィスです。
「正義」と「狂気」を分け隔てるわかりやすい指針があります。それは、「殺人を許すか否か」。犯罪者を震え上がらせるため、コウモリの衣装に身を包み、鉄拳を振るいつづけるバットマン。その姿は、はっきり言って尋常じゃありません。彼も暴力を手段として用いる限り、「狂気」と無縁ではいられないのです。そのバットマンを辛うじて正気につなぎとめ、本来の目的を見失わないようにさせているのが、この「殺しはイカン!」というコードなのです(第1作ではキレイにスルーされましたが・・・・)。実のところ原作の『バットマン』は、ブルース・ウェインがえんえんと「殺しちまおうか。いや、ダメだ」と悩み続ける物語でもあるのです。
今回の敵役、ラーズ・アル・グールは、自分を悪人とは考えていません。むしろ、自分の行為こそ正義であると主張します。それが多くの人命を奪うものであったとしても。ラーズはその狂気に同調させんと、ブルースを誘惑します。果たしてブルース=バットマンは己の信念を貫く事ができるのか?

一見さんにはやや「尺が長い」と感じられるかもしれませんが、自分的にはお腹いっぱい大満足でした。アメコミの重要なテーマを存分に語ってくれたことに加え、ゴードン刑事との心温まる交流といった、ファン泣かせの要素もしっかりあります。これまでとはまた違った魅力のあるゴッサムシティの存在感も高ポイントです。例によってさらなる続編のお話もあるようですが、このカラーはこれ一本で十分、と思わせるほどのインパクトでした。

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Comments

>奇抜な格好をした悪役は登場しません。
 え?忍者。
 ウエイン町山ならバットマン自身も病んでい
る、とか言いそうです。
>「殺人を許すか否か」。
 そうかだからラストのラーズに言うセリフが
ああなんですね。
 最初ルドガ-・ハウアーが黒幕かと思いまし
た。でもわざわざ自分の会社の商品を盗んだ
りしませんよね。だから違うと。
 >ゴードン警部
 ゲイリー・オールドマンはこの映画に出たか
らSWのグリーバス将軍ができなかったんです
かね。
 >リアル
 バットモービルが装甲車(まあ監督自身が
そう言ってますし)

Posted by: 犬塚志乃 | July 16, 2005 at 09:59 PM

>忍者
あ、そういや忍者いたな・・・ ま、あれは民族衣装ということでひとつ。
>ウエイン町山ならバットマン自身も病んでい
る、とか言いそうです。
そう考えている方はいっぱいいるみたいです。ティム・バートンもそう。アラン・ムーア、大友克弘もたぶんそう。
>そうかだからラストのラーズに言うセリフが
ああなんですね。
そうなんですけど・・・・ あれちょっとズルイですよね。
>ゲイリー・オールドマン
は、前に紹介した『イヤーワン』のゴードンとほんとに良く似ていて、うれしくなっちゃいました。
>バットモービルが装甲車
マニアには不評のようです(笑) わたしはいいと思いますけど。

Posted by: SGA屋伍一  | July 17, 2005 at 09:54 PM

忍者とジェダイの騎士に目を奪われて、ワタクシ彼の深い苦悩が見えておりませんでしたわ。
ホント裁判のエピソードなんて、頭が勝手にスルーしてましたもんねぇ。
あの前半の展開の早さは、バットマン初級者にとっては厳しかったようです。

Posted by: ハル | July 19, 2005 at 01:34 AM

たしかにB級映画として観に来た人たちにとって、最も印象に残ったのは僧院で暴れるケン・ワタナベと、悪役度満天のクワイ・ガン・ジンでしょうな。
マスター、あなたが暗黒面に堕ちてどうする・・・・・

Posted by: SGA屋伍一 | July 19, 2005 at 09:46 PM

こんばんは~
Tbありがとうございました。
なるほど!この「ビギンズ」と他の「バットマン」の違いが
よ~くわかりましたわ。
私はアメコミでも,「悩める等身大のヒーロー」が好きなので
このビギンズは,そういう意味でも,とても好みに合ったと思います。
他の「マンガ映画」的なのも見て比較したい気もするんですがね~。
ただ,あんまりアニメギャグみたいな恰好の敵が出てきたら
けっこう引いちゃう方なんですよ~~
その点,今回のダークナイトは,ジョーカーが人間っぽいですね。

Posted by: なな | July 17, 2008 at 09:17 PM

>ななさま

お返しありがとうございます
アメコミ映画にも色々ありまして、中には出来がアレなものもたくさんあるんですけど、この『ビギンズ』はかなり完成度が高い方だと思います

それまでの4作のブルース・ウェインは、すでに大人として成熟したキャラクターでしたが、こちらの彼はまだ未熟なゆえか色々葛藤していて、なかなか新鮮なバットマン像でありました

予告でみましたが、『ダークナイト』のジョーカーはかなり迫力ありました
。はげかけたメイクが異様な雰囲気をかもし出していますね
彼とバットマンの対決がいかなるものになるのか、固唾を呑んで見守りたいと思います

Posted by: SGA屋伍一 | July 18, 2008 at 07:20 PM

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