なまえのあるかいぶつ 浦沢直樹 『PLUTO』
浦沢先生との(一方的な)おつきあいは『パイナップルARMY』(工藤かずや原作)からだから、もうけっこうなものになります。当時すでに『YAWARA!』で人気を博していたが、正直「このひとは原作付きの方が面白いなあ」と思っていました。しかしその後『MONSTER』を読み、「すいません! ぼくが間違ってました!」と泣いて謝りました(まあこの作品も後半はアレですけど)。
で、『MONSTER』に続き二度目の手塚賞を受賞した『PLUTO』について。原作は賞の名である手塚治虫御大の『鉄腕アトム』の1エピソード。それをかなり浦沢流にアレンジしたものとなっています。これまで原作が映画・小説という漫画は数多くありました。けれど原作が漫画の漫画というのは、ちょっと無かったように思えます。似たようなものはありましたが、トリビュートだったり原作がクレジットされてなかったり。受賞の理由はその辺が画期的だったからではないでしょうか。
ロボット技術が発達し、彼らが普通に人間社会に溶け込んでいる近未来。世界でもトップレベルにあるロボットたちが破壊されるという事件が相次ぐ。事件を調べていたロボット刑事ゲジヒトは、調査を進める内に被害者?を結ぶある事件があったことを突き止めるが・・・・
さすがに話題作だけあってよく売れている様子です。けれどこの漫画、かなりシュールな部類に入る作品じゃないでしょうか。だってロボットが普通にメシ食って、家族団欒して「明日動物園行こう」とか言ってるんですよ! ギャグならともかく、大マジメに。おまけにロボットの中にロボットが入って操縦してる日にゃあ、もうなにがなんだかワケワカメでございます。加えて登場するロボットの多くは人間と寸分違わぬ形をしているので、それがまた混乱に拍車をかけてくれます。ゲジヒトさんはアトムに対し、「君を見ていると、人間かロボットか識別システムが誤作動を起こしそうになる」と言いますが、そりゃあこっちのセリフですがな。でもさすがは浦沢というべきか、そのストーリーテーリングによってぐんぐん物語にひきこまれてしいます。多少の違和感も妨げにならないくらいに。
果たして手塚先生がどこまで考えてらっしゃったのかは謎ですが、少なくとも『PLUTO』におけるロボットのみに関して言うならば、彼らはそのまんまのロボットを表わしているのではなく、恐らく何かのメタファーなんでしょう。では一体なにを暗示しているのか? 人間に限りなく近く、でも人間とは違う存在? ・・・・ ・・・・ ・・・・あ、いかん、こっちがオーバーヒートしてきた・・・・ それなりに思いつくことはありますが、今の段階で答を出すのはまだ早急ですね(敵前逃亡)。
連載は7体目のロボであるエプシロンが登場。先にアトムの妹のウランちゃんもお目見えしたので、いよいよ役者が出揃ったというところ。でも肝心のプルートがいまだにシルエットのみ(笑) 彼の正体が明らかになる時、それはもしかしたら物語の根幹を成す謎が明らかになる時なのかもしれません。とりあえずこの作品はあまり風呂敷を広げすぎず、コンパクトに美しくまとまってほしいものです。
大きく叫びたかった点がひとつ。「チラッと出てくる『モグリの医者』って誰だよ! ブ○ックジャックって書けよ!!」
・・・・・ハアハア、失礼しました。ところでこの世界のDr・テンマはやはり『MONSTER』のDr.テンマの子孫なのか? 大学で“モグリの医者”とすれ違ったりしたのでしょうか? 妄想はとめどなく広がりつづけます。
Comments
こんばんわ
>パイナップルARMY
私は「YAWARA!」と「MASTERキートン」から。「パイナップル~」も好きですよ。
キートンはアニメも見ていた。
>「MONSTER」
「20世紀少年」はいいけどこれには何故か
ついていけないというのがまさとしテイスト。
>ウランちゃん
そうか・・・。実は読むのサボってます(笑)。
>Dr.テンマの子孫
コーラス部の同窓生で顧問の先生から
「テンマ博士」みたい!と言われた奴がいる。
因みにそいつはクラブの
女性に手当たり次第に告白しまくって
ヒンシュク買ってた(笑)。いい奴なんだけど。
>かなりシュールな部類
どうやって飛ぶんだアトム?
こっちのほうがよほど関心事だ(笑)。
Posted by: まさとし | June 03, 2005 10:04 PM
こんばんは。
わたしも『キートン』好きですけど、どちらかというと『パイナップル』の乾いたタッチの方が好みです。
>MONSTER
4巻目までは掛け値なしに大傑作だと思うのですが・・・・ 後半迷走しちゃったかな、という印象。
>「テンマ博士」みたい!と言われた奴がいる。
なんか思い込みの激しそうな人ですね(笑) きっと熱が冷めたら恋人をサーカスに売っぱらってしまうのでは。
>どうやって飛ぶんだアトム?
あ。そうだよ! ちゃんと考えてるんでしょうね? 浦沢先生! おしりのマシンガンのことも!
Posted by: SGA屋伍一 | June 03, 2005 10:27 PM
実はワタシ天馬博士と同い年なのよね。ちょっと嬉しかったり。
ちなみに原作ゲジヒトさんは実はアブナイ人(というかロボット)だということご存じでしたか?
http://homepage2.nifty.com/074/atom00.htm
Posted by: かに | June 04, 2005 11:33 PM
「地上最強のロボット」は二度目のアニメ化の際に見たクチです(『ジェッターマルス』でない方)。
で、モンブラン、ノース2号、はおぼろげに記憶にあるものの、ゲジヒト(およびヘラクレス)はほとんど覚えてません。なぜ?
一番印象に残っているのはエプシロンですね。恐らく敗れると知りつつ従容として死地に向かう彼の姿は、むしろプルートの最期より悲痛でした。
Posted by: SGA屋伍一 | June 05, 2005 08:00 PM
私もイプシロンが一番胸に来ました。
ところで最新号みました。何か『モンスター』みたいになってきましたね。
Posted by: かに | June 05, 2005 08:42 PM
わたしも読みました。
たしかにエプシロン氏はヨハン氏とよく似てます。
エプシロンがなぜ孤児を引き取っているのか、理由を補強しているあたりはあいかわらず上手いと思いました。
Posted by: SGA屋伍一 | June 05, 2005 09:34 PM