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June 20, 2005

コウモリ1年生 フランク・ミラー 『バットマン:イヤーワン』

月の光がゴッサム染めて ビルの谷間にたたずむ影

趣味のアメコミコーナー。今日は映画新作『ビギンズ』で話題沸騰中の『バットマン』をとりあげます。
1986年、『ダークナイトリターンズ』で強引に最終回を描いたフランク・ミラーは、今度は現代的な視点でバットマンのオリジンを手がけました。それがこの『イヤ-ワン』です。バットマンがなぜ悪人狩りに精を出すのか、なぜコウモリのコスプレをしているのか、そうした疑問に答える内容となっています。スーパーマンやエイリアンをすら、気迫と知略で手玉にとるブルース・ウェインにも、チンピラ一人やっつけることさえできずに悶々とした時代があったというのはちょっとショックですけど、彼とて最初から「世界最高の探偵」であったわけではないのれす。また、映画では情けない役回りのゴードン警部がもう一人の主役を務め、警察の腐敗に立ち向うハードボイルドな男として描かれています。
たまに小馬鹿にしたように「アメコミのなにがそんなにいいわけ?」と聞かれることがあります。そんなときわたしは「色が付いているところ」と答えることにしています。たしかに基本的に白黒だけで、あれだけ多彩な濃淡を書き分けることのできるジャパコミはすばらしい。しかし「色が付いている」ということは、それだけで強烈なインパクトをわたしたちの網膜に焼き付けることがあります。
たとえばこの『イヤーワン』の第1章のラスト近く。月明かりに照らされた邸宅で負傷したブルースが、自分がどうしたらいいのかわからず、煩悶するシーン。
“全て揃っているのに、忍耐はもう限界だ あと1時間でも待つよりは・・・このまま死んでしまいたい 18年も・・・待ったのだから・・・”
脳裏に蘇る、少年時代の辛い記憶
“その瞬間、僕の人生はあらゆる意味を失った”
“何の前触れもなく、それはやって来る・・・”
突然窓をぶち破って、部屋に入ってくる蝙蝠
“そうだ、父さん 僕は蝙蝠になろう”
これらのシーンとて、おおむね黄色と黒、白しか使われていないのですけど、この「暗いんだけど明るい」微妙な光を表すには、やはり黄色じゃないとだめなんです。
そしてもう一つアメコミの傑作の優れた点は、上記のような、物静かでありながら激しい感情を語れるモノローグにあります。おそらくこれを今の日本の少年誌・青年誌でやったならば、「ああー!! おれはどうすればいいんだ-!!」ガシャ-ン!「そうだー!!!! おれはコウモリになるぞーッ!!!!」 ・・・・・と、集中線と破裂フキダシと「―ッ!!」の乱れ撃ちになってしまうに違いありません。叫ぶのが悪い、というわけではありませんが、どうも日本のマンガは感情多過というか、思うだけでいいことまで口に出してしまう傾向があるような気がします。現行の作家で「静かに感動を語れる作家」と言うと、とりあえず井上雄彦と内藤康弘くらいしか思い浮かびません。
無論、アメコミ作家の全てがこういう表現ができるわけではありません。優れた感性や情緒があったればこその芸当なのです。『イヤーワン』のこのシーンは、色使い、文章、ペンタッチすべてが調和良く組み合わさった、その完成形と言えます。

さて、お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、映画『ビギンズ』とこの作品は着想が大変よく似ております。実は『ビギンズ』は当初『イヤーワン』の映画化として進められていたのですが、映画化するにはあまりにも地味な内容のせいか、企画変更を余儀なくされたとのこと。もし映画を観て興味を持たれた方は、どうぞこちらもご覧ください。JIVEより2400円で発売中。

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Comments

本文引用させて頂きました。アメコミは英語も絵も苦手なので読んだ事は無いのですが、アメコミの映画化作品は好きなものが多いので、凄く参考になります。
で、映画は見に行きましたか?私はそこそこ楽しめましたよ♪

Posted by: ハル | June 23, 2005 at 03:09 PM

まだ見てません。来週中に見に行く予定です。見てきたらそちらにお邪魔させていただきます。おおむね好評のようで、楽しみです。
『イヤーワン』はアメコミにしてはけっこうさっぱりしたタッチで書かれてますし、邦訳も出てますから、ハルさまでも十分楽しめると思いますよ。ただ、お値段が少々高いので、「是非買って!」と言いにくいのが辛いとこです。あと恥を言うようでなんですが、自分も英語はほとんどわかりません。

Posted by: SGA屋伍一  | June 24, 2005 at 10:37 PM

 映画ビギンズかと思っていたらコミックの方
でしたか。映画にもゴードン警部(最初は巡査
長)は出てきます。
 塩田多田砲という方がおりまして克森淳様も
よく行かれている山本弘氏のサイト常連さんで
あります。
 その塩田さん曰く「アメコミは一枚の絵に複
数の情報が詰めこまれている」と言っていまし

スガ様の言った事と似ていませんか?
 塩田さんと話てみたいなら山本弘のサイトに
行くか茶々組&初心の会のサイトに行けば
会えます。
 
 >るろうに剣心の和月伸宏がジム・リーに
500円玉をひろってもらった。
 >シャーマンキングの武井が仏ゾーンで出したヤクザ・
マイク箕浦(みのうら)の
モデルはマイク・ミニョ-ラ。
 いろんな方たちが啓蒙活動をしていますが
アメコミ、ホラー、萌えアニメはなかなか難しい
ジャンルです。どっちもジャンプなんで簡単に
見つかるのでよかったらどうぞです。
 ミニョ-ラってブレイド2の監督が好きで、
ブレイド2でかなり参考にしたとか。
 で次のヘル・ボーイがミニョ-ラの作品でし
たっけ?未見なのでわかりませんが。
 
 バットマンビギンズに合わせてエコだか
省エネだかのキャンドルパーティを六月十八日
にして東京中が真っ暗ヤミになったそうです
ね。まさにキャッチコピー「闇こそ力」w
 では。
 

Posted by: 犬塚志乃 | July 03, 2005 at 05:53 PM

『ビギンズ』もようやっと見て来ました。近日記事をUPする予定。あくまでも予定。
>ゴードン警部
今までも出てたのですが、ほとんど空気みたいな扱いでした。
>その塩田さん曰く「アメコミは一枚の絵に複
数の情報が詰めこまれている」と言っていまし

そうですね。あくまで一般論ですが、アメコミの場合ストーリ-よりアートの比重が高く、ジャパコミの場合アートよりストーリーの比重が高いような気がします。
>和月伸宏
氏が色々アメコミキャラをパク・・・参考にしているというのは聞いたことがあります。
>シャーマンキング
の方は知りませんでした。
>次のヘル・ボーイがミニョ-ラの作品でし
たっけ?
そうです。原作がミニョーラで、映画にも関わってました。
>エコ・パーティー
「ダークナイト」バットマンだからこそ成り立つ企画ですね。

Posted by: SGA屋伍一  | July 03, 2005 at 09:15 PM

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Tracked on June 23, 2005 at 03:08 PM

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